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14 死闘

 先手必勝。

 スノーさんとは距離が離れている。

 遠距離とは言えないし、近距離とも呼べない。

 近距離よりの中距離くらいだ。

 父の開始の掛け声とともに銃を撃つ。 

 手首の返しで狙いを定め、トリガーを引く。

 確かな反動と共にマズルフラッシュが起こる。

 思ってもみないほど素直だと感じる。

 感動する。

 今まで使ってきたハンドガンはジャンク品からどうにか実用レベルまでカスタマイズしてきたからこそ、この銃がとんでもなく凄いことが分かる。

 向かっていく弾丸。

 高速だとしてもそれを見極められるくらいには鍛えているのだ。

 相手であるスノーさんの胴体に間違いなく当たる。

 だが、相手は最強と言われている存在。 

 甘えた攻撃で決着がつくとも思えない。

 再度、トリガーを引く。

 合計二発の弾丸。

 色々と考えて行動しているが、本当に数瞬の出来事だ。

 だからこそ、二発の弾丸は不可避とまではいかなくても厳しい攻撃となった。

 

「……しっ」


 バシン、バシン。

 空を弾け飛ばすような大きな音。

 

「……えぇ」


 スノーさんは動いていない。

 いや、動いてはいた。

 手首から先をまるで軽くほぐすようなそんな動き。

 それから足元に広がっていた鞭がまるで生きているかのように向かっていた弾丸を消した。

 いや、弾きとんだとかそう言うことのような気がするが、弾かれたとしたら見えたと思うのだが、見えなかったのだから消えたと思った方が良い。

 弾丸を消すほどの威力がある防御であると思った方が良い。

 直感的にそう思った以上、後れているとしても行動をしないといけない。

 顔を横に逸らす。

 ひゅんと風切り音。 

 頬が裂け切れる感触に歯噛みする。

 本当に弱い。

 自分が何も出来ないほどに弱いことを痛感する。

 だというのに、勝たねばならない。

 そう思うからこそ、身体を捻り飛ぶ。

 大きく大きく飛びずさるにしても直線的な動きなんて意味はないだろう。

 だから、アクロバティックに動いてみた。

 回避のために身体を横回転させながら飛んでいる。

 だから、私は空中にいて迫ってくる鞭の先端が微かに見える。

 当たれば痛い。

 だから刀で切る。

 カキン。

 まるで金属同士がぶつかり合う音とともに刀を振るった左手に伝わる衝撃。

 それを活かして吹き飛ぶ。

 世界が回る回る。

 着地。

 目の前がチカチカするが、そんな泣き言言っていられない。

 足を動かす。

 駆けだしてみれば、動ける。

 三半規管はまだ生きていた。

 

「……な、るほど?」


 スノーさんを中心に走り続ける。

 攻撃を側転とか前転しながら観察すれば、本当に手加減されていることが分かる。

 スノーさんは動いていない。

 一歩も動かず、ずっと手首から先を動かし続けている。

 鞭は生きているかのように私に襲い掛かってくるが、動けないほどではない。

 面白くはない。 

 ただ、回避しているだけでも同じ動きを続けることは死ぬというそこはかとない勘が働いているので気を抜けない。

 そして、私はとんでもないヘマをしていることに気付く。

 弾倉の確認をしていない。

 あと何発撃てるのかという初歩的な判断が出来ない。

 なんとなく、あと10発ほどは打てるのではと思うのだが、それも正確ではない。

 それに替えのマガジンも持っていない。

 いや、この場合はマガジンを変えるための時間を稼げないのであっても使わなかったと思う。

 何発撃てるのか分からないから慎重にならないといけないが、こうやって動き回って逃げ続けるだけでは始まらない。

 限りが有るならとスノーさんに向けて一発、打つ。

 その弾丸を追うように刀を持つ左手に力を込めて追いかける。

 吶喊。

 死ぬ気はないが、近接戦になればどうなるのかという興味が有った。

 追いかけて目の前に有った弾丸が消える。

 またもや、大きな音。

 瞬間すぎて結果だけを推測する感じになった。

 鞭の先端が弾丸を止めるように動く。

 そして、弾丸はまるで火花を散らして消えていった。

 その鞭の先端がまるで生きた蛇のようにこちらに鋭く向かってくる。

 先端は薄らと湯気を立て、まるで溶けた鉄がこびり付いたように見える。

 いや、これ、本当に鉄が溶けてくっ付いている!

 驚きに勢いが微妙に落ちる。

 躱しようがないと向かってくる鞭を刀で切りつける。

 ガキンとぶつかる刀と鞭。

 走ってきた勢いと鞭の勢いが正面衝突して、私が負けた。

 刀は放していない。

 だが、身体がいきなり吹き飛ばされた。

 ヒューンという風の音。

 衝撃が凄すぎて軽く気絶していた。

 ハッとした時には地面に落ちていた。

 ズバン!

 砂が溜まっていたちょっとした山に突っ込んだ。

 受け身が取れたか怪しいが、砂がクッション代わりになったのか、立てる。

 立てたけど、それだけ。

 いや、本当にダメージが酷い。

 

「はぁ……」


 だというのに、だ。

 身体が言うことを聞かないというのに思考が徐々にクリアになっていく。

 

「うん」


 一つ確認。

 刀を振るう。

 鍔に併せていたが、振る瞬間に緩めて本当に過ごしだけ滑らせる。

 柄頭のあたりで再度掴みなおすようにする。

 想像というかしたい動きが出来た。

 

「じゃあ、やってみますか」


 一つの策がもう頭の中にあった。

 時間をかけてもこれ以上のことは出来ないという確信がある。

 その上で今までの動きから、スノーさんを倒すには接近戦しかないと思う。

 これが倒すということになるのかという程度の想像だが、本当に手が届く距離まで近づくことが必要だった。

 

「行きます」


 静かに宣言して、構える。

 吹き飛ばされてスノーさんとの間は遠くなっている。

 駆けだす。

 身体を開き、左手を大きく引き、溜めを作る。

 右手を伸ばし、適度に緩急をつけ、発砲する。

 吶喊のやり直し。

 だが、今度は決して押し負ける気はない。

 

「はぁあぁああああ」

 

 自然と声が漏れる。

 気合と共に突き進めば、先んじていた弾丸が鞭に消し飛ばされていく。

 バシン、バシン、バシバシンと軽快なリズム。

 そして、後れた私自身が鞭に狙われる。

 大きく右足を踏んで、勢いを乗せて左半身を前に出す。

 左足で地面を蹴り踏んだ上で、突きとおすように左手を伸ばす。

 鞭が切っ先にぶつかる。

 そう、スノーさんは狙って、鞭の先端を一番威力が出るところに当てている。

 どんな技量かは分からないが、威力が出る場所にそれを軽く上回る力をぶつければ押し負けて、勢いのままに吹き飛ぶのだと思う。

 それを狙っている。

 一回でそれに気付いたことに自分をほめたい。

 だから、そんなスノーさんの狙いを狙いにいく。

 鞭と刀がぶつかる。

 さて、ここからは父の技を利用しないといけない。

 まずは刀を握る力を緩める。

 そして、父の動き。

 まだ完璧なくていい。

 静止状態から一気にトップスピードへと始動する。

 たぶん、こうやっていたという動きだったが、思ったよりも勢いは出た。

 身体が進んだ以上、緩く掴んだ柄を滑って鍔に手が当たる。

 鞭と刀の勢いは確実に鞭の方が強い。

 だが、加重する刹那。

 勢いが相殺される瞬間。

 そこで再度、力が起こればどうだろう。

 卓越した技術を持って、加減して軽く上回るだけに留めてくれている。

 押し勝てる。

 シュンっと軽い音。

 それはあろうことか鞭の先端を切り裂いた音。

 そうなるともう、障害物はない、はず。

 突き進む。

 スノーさんが驚いている。

 目が合った瞬間。

 ヤバイ。

 目が死んでいない。

 むしろ、今までよりも恐怖を覚えるほどに昂っている。

 でも、終われない。

 倒すのだ。

 鞭が動く。

 先端だけではない。

 スノーさんは一歩も動いていないが、腕を振っている。

 それは圧倒的な暴力が動き出すことと同義である。

 ブウォンとうねる風音。


「スノー!」

「っぅ!」


 呼び捨てだ。

 行儀よく、さん付けとかしている余裕はない。

 武器を手放す。

 そう、私は最強だと思える美人なお姉さんに思いっきり抱き着いた。

 胸に飛び込んだと言っても良い。

 柔らかくて大きくて素晴らしい感触を顔全体で味わいながら、勢いそのままにスノーさんを押し倒した。


「……勝負あり」


 なんというか父の声が不機嫌そうだった。

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