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10 乱入者

「それもいいのかもしれないな……」

「えっ」


 父の言葉に驚いてフォークを落としてしまう。

 落ちたフォークが食器に当たって音を響かせる。


「どうかしたか?」

「そんな簡単に……」


 これまでもそれとなく外へ行きたいと伝えたことはあった。

 その都度、難しい顔をして許してくれなかったのにという驚きがある。 

 いや、塔を昇っている時にも似たような事を口にしていた気がするが、それもうやむやというか、あくまで確認するのが目的と言った感じだったからこそ、軽口のように話していた部分もある。

 今回も許されはしないだろうけども、もしかすると村までの買い付けとかに組み込んでくれるのかなと思っていたのだが、スノーさんの外というのはもっと大きな意味である気がした。

 今まで話を聞いているだけだったからこそ、黙々とご飯が美味しいと静かに噛みしめていた。

 そう、私は小難しい話は何となく聞くだけで一心不乱に食べていたのだ。

 美味いと何度も叫びそうになるのを堪えるためになぜか感情を殺すべきというくらいに食べていた。

 

「簡単にか、だが、懸念していたことが解消された、いや、こちらが早合点していただけだった」

「……そう言うことになるんだね」


 父の言葉にスッと感情を消してエーが理解を示す。

 うすら寒い空気が支配する中で、その中心は間違いなくエーだ。


「ほぉ……」

「これほどか」


 エーに対してスノーさんとゴルックが楽しそうにしている。


「父さん、僕もアゲハが外の世界を旅することをこれで否定する意味は無くなったということはわかるんだけど、だからと言って、可愛い妹に復讐に生きて欲しくはないんだよ?」

「エー……」

「その上でアゲハが外へ出ていくのを許すなら、僕は許すことは出来ないかな」


 寒さが強くなる。

 いや、これは寒さではなくエーの殺気なのだと理解する。

 気付けば手が震えている。

 私の横に椅子を静かに運んで、アイが座り直す。

 というか、ここまで来てだが、こんな私達の家族の問題に付き合わされているアイが不憫に思えてきた。


「ごめん」

「お前も妹だろうし、エーも兄だ。イチロウさんも父である上で、今、ここのまとめ役の二番目は俺が担っているんだ。それである以上、突然の外からの来訪者との話し合いに参加しないということは出来ないし、したくない。まぁ、その、話が唐突だったが、レインさんのことも聞いていたから、腑に落ちる部分もあるのだがな」

「知ってたんだ」

「それはレインさんがということか?」

「そう」

「知っていると言っても凄い人というくらいの認識だ。俺としても記憶にあるのはモンスターを倒して持ち帰ってきていたくらいだし、戦闘している姿を見たことはないはずだ」

「なぁ、お嬢ちゃん」


 アイとしゃべって気を紛らわせていた。

 そうしないと辛いくらいな雰囲気なんだ。

 だから防衛として向こうの会話を無視していたというか、本当に向こうとこっちという空間が出来上がっているくらいの差があった。

 そんな中、向こうからこちらに移動していたゴルックさんが話しかけてきたのだ。


「なんですか?」

「お嬢ちゃんに確認したいんだが、外の世界に出れるとして何をしたい?」

「何をしたい?」

「目標だな。お母さんの、レインさんの敵討ちがしたいのかい?」

「……分からないな」

「分からない?」

「そうしたいと思っていたこともあったけど、今はそうしないといけないとは思ってないかな」

「ほぉ、それはなんで?」

「……ここにいて、出ていけないことが不満だったけど」

「けど?」

「カーシャとかがかまってくれて、どう言っていいのかな」


 何となくアイもゴルックさんも待ってくれていると思ったから、言葉を探す。


「怒っていた部分が残ってないとは言わない。でも、それで私が幸せを逃すというか、辛いことになるなら別にしたくないかなって」

「そんな風に思うようになっていたか」


 アイが驚く。


「いや、本当にさ。カーシャが私を見るたびにしけた面してんじゃないとか、酷い顔とか遠慮なく言ってきたんだけど、健康な時にも言われ続けて、言い返したんだよ」

「それは……」

「カーシャが来た時だから2年前くらいかな? そしたら、ただ死人のために生きているだけの人間だからまともな表情も浮かべれないんでしょうがって怒られた」

「うん?」


 いきなり殺気がこっちに飛んできた。

 アイの顔が速やかに青ざめる。

 これはエーがカーシャに敵意を向けるのではと気付いた。

 

「死人がそんなこと望んでるのかって事も踏まえて、お説教されたんだよ」

「なるほどな。そのカーシャってやつがどういうやつか分からないが、なんとなく本質が見えたぞ。そいつはアゲハちゃんのことを今も心配してるだろ?」

「心配もしてるけどね。一番は敵と思ってるんじゃいかな」

「あぁ……」

「うん? どういう?」

「カーシャは俺の嫁なんだが、その、慎ましい身体でな……」


 アイがそう口にした瞬間。

 ズドンと音がして部屋の扉がぶち抜かれた。


「誰がまな板ですって?」

「言ってないだろ!」

「死ね!」


 怒髪冠を衝くとはまさにこのことだろう。

 腰まで伸ばした髪が怒りか、それとも飛び跳ねるように向かってくるせいか逆立って見える。

 カーシャだ。

 アイと同じく25歳の女性。

 だというのにその背丈は私よりも低い。

 私が大きいだけとも言えるが、いや、カーシャの体形が小さいのだ。

 私よりも8歳も年上だと言うのに私よりも10歳も年下に見えるのだから、仕方ない。


「おい、アゲハ。お前、今、私を幼いと思ったろ?」


 殺気ではない。

 だがこの空間を支配していた空気を塗り替える怒気が放たれている。

 なお、アイはかなり手加減されてはいるがボロボロだ。


「あなたいきなり入ってきてどうしたいのかしら?」


 スノーさんが立ち上がる。

 なんで、どうして怒っているのかと不思議になるのだが、それよりもこれは不味い。

 今のカーシャにスノーさんのようなグラマラスな女性が話しかけるだけで、カーシャがキレるのは間違いない。


「うっさいよ、おばさん」

「おば、さん?」

「不満しかないわよ。可愛い妹、そう妹が無茶して意識なくして倒れたって言うのにいきなり現れた部外者に看病をするって言われて、挙句に面会も出来ないなんて」

「それで盗み聞き?」


 スノーさんが殺気を放つ。

 歴戦の戦士らしく、それはとんでもなく強いというのにそれと対抗できるだけどの怒気が放たれる。

 怪獣大戦争である。

 カーシャをここまで凄いと思える日が来るとは驚きである。

 そんな風に思っていたらギロリと睨まれた。

 やばい、気付かれた。

 というか、そんな態度をしたらスノーさんがさらに怒るのではと思ったら、一気に殺気が強くなる。

 ここまでくるとカーシャとしても対抗できずに飲み込まれてしまう。

 だからか、カーシャはスノーさんではなくエーの方を向いた。


「エーのくせに気付いていてわざと指摘しなかったんでしょ?」

「えっ?」

「……気付いてなかったんですか?」


 スノーさんが本当に驚いた顔をしている。

 というか父も驚いた顔をしていて、ゴルックさんも同様。

 私も気付けてなかったので、気付いていてたのはエーだけではないのだろうか。


「一応、弁明しておくとアイも気付いていたよ。ただ、僕がカーシャに対して敵対感情を持ちそうになって慌てたね」

「……もう」


 アイが解放される。

 ボコボコとは言わないが、満身創痍なのは間違いない。

 怒気が消え去る。

 スノーさんも殺気を出していなので、息が詰まる雰囲気は霧散している。

 カーシャはアイに抱き着いている。

 何というか、体格差もあってペットが飼い主に甘えているというか、猫が甘えているイメージが近い。

 ただ猫ではなく、ネコ科の虎の子供がとかそういう方が近い。

 

「……ねぇ、アゲハ?」


 そうやってカオスになったこの部屋でエーが私に問いかけてくる。


「この世界で今、アゲハはどう生きたい?」


 久々に優しくけれども厳しく兄としてそう聞いてきたのだった。

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