表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神隠し先で出会った僕らは  作者: 月うさぎ
3/10

初戦

主人公に戦ってもらいます。



友里が集めた細い木の枝に、男が火を点ける。正しくは、手から火を出して、枝を燃やす。

何事もなかったように男は「よし!」と言い、友里は目を大きくして凝視していた。

……ここでは普通のことかもしれない。


パチパチと燃える火を前に2人は座り込む。

赤く染まっていた空は、星屑を纏った藍色に染まりつつあり、あたりの草原は薄暗く色を変えていく。

果てしなく続く暗い草原を背に、小さな物音に対してもビクっとする友里。それに男は笑った。


男を睨み、小さく縮こまった。


「大丈夫だ、ここは安全地帯。さっきのベータスネイクは訳あって出現したが………もう、この辺りには魔物の気配もねぇし、俺の結界魔法もあっから問題ねぇぞ」


ポカーン。

……色々つっこみたい言葉が多いが、整理すると、まず、ここ一帯は安全基地であり、ベータスネイクのような魔物は本来この辺りにいないらしい。また、男が魔法を施し、結界が貼られて安全であると言う。


安心しろと言わんばかりの笑顔とグーサインに、頷くことしかできなかった。


「そうだそうだ、自己紹介がまだだったな。俺は、サイ・フォーグロード。冒険者だ」


冒険者。

まるで物語の世界だった。


「拠点は置かない性分でな、パーティにはもう1人いるんだが……まあ、おっかねぇ奴だ……んで、好きなもんは、酒!肉!女!これは譲れねぇな。んで?お前さんは?」


少し緊張して、肩を上げる。


「ぼっ僕は、浅田友里、です!…ここに来た理由は分かりませんが、友人2人とはぐれてしまって………途方に暮れているところです」


ガハハハっと豪快に笑ったサイに、恥ずかしくなって顔を赤らめる。


「寂しかったんだなぁ、よく頑張った!……そうだな、名前が長ぇから、よし。今日からお前さんは『ユーリ』だ!」


「えっ」


「よし、ユーリ。お前さんを俺の弟子にしてやる」


「ええっ!?」






この後の記憶は正直ないに等しい。

サイが持ち物からコップのようなものを出し、謎の液体を注いだ後、乾杯をした。

そしてそれを喉に流し込み、そこから記憶がストップ。







「んんっ…」


瞼の向こう側が眩しくて、少しずつ目を開けた。

そこには既に目を覚ましたサイの姿があった。


「よっ、おはようさん、ユーリ」


「お、おはようございます!」


ここで生きていく。

友里は朝日を浴びて、大きく伸びをした。





そこから2人は地面が剥き出しになった道を歩き始めた。

そこで聞いた“冒険者”の話。

冒険者は、ギルドで試験を行い、受かった者がなれる職業で、主にギルドからの【依頼】や【クエスト】を受け生計を立てる。


「じゃあ、サイさんは今、【依頼】を受けている最中ということですか?」


「ああ。やかましいギルド様から直々にな。困っちまうよなぁ、ギルドで掲示板見てったら、ドスドスとリンクマネージャーの姉ちゃんが怖え顔して来やがってよ。安全地帯に上級クラスのベータスネイクが出たって。…俺ぁ暇じゃねぇのに。…あ、リンクマネージャーってのはな……」


【リンクマネージャー】

ギルド従業員。冒険者一人一人に依頼やクエストを本人の性格やレベル、私生活に合わせて提案をしてくれる。担当マネージャー。


サイのリンクマネージャーはヴィオラという女性らしく、気品あふれる淑女とのこと。だが、仕事に追われると血相を変えて業務を遂行するらしい。


「…まあ、お前さんも街に着いたら寄ってみるといいさ。………お?」


サイは目を細め、ある一点を見つめた。

ユーリもつられてそこへ目線を送ると、微かに動く生き物が見えた。


「…あれは魔物ですか?」


「あぁ。ブサギだな。初級魔物だから、お前さんでも倒せるぞ。……………きっと」


「きっと、って!」


ユーリの声にブサギが反応した。

長い耳をピンと立て、真っ赤な目と巻いたツノが鋭く光る。それを合図に、3匹のブサギがこちらに向かってきた。


「えっ!えーっ!サイさん!来ますよこっち!」


左右には多い茂る木々。

逃げるとしたら後ろ、だが。


「ほれ、これ使ってやっつけてこい」


サイが何かをユーリに投げた。


「えっ!は、刃物!?」


「短剣だ。初心者にはちょうどいいだろ。俺ぁ、ここでちょいと昼寝でもして待ってっから、チャチャっとやっちゃってこい」


「そんな無茶な…!」


「ほら、来るぜ」



ギーギー鳴き歯を鳴らす顔がブサイクなウサギが、ユーリに飛び掛かる。





3匹は確実に自分を見ている。僕を敵と認識しているんだ。

避けられない、体が動かない、このままではやられてしまう。


どうする!どうする!


凄まじい速度で思考が回転していった。

その時だった。



『お前さんは、ここで生きていくんだ』



サイの声が頭に響いた。



そうだ。

僕は、こんなところでくたばってはいけない。

海や平祐を見つけなくちゃ。

やられてたまるか…!!!




「うわぁぁぁあああ!!」




ユーリは目を瞑って大声を上げる。短剣の鞘を抜き、脇を締め顔の前で構え、そのまま短剣を思いのまま振った。













「ん…?」




ユーリは恐る恐る目を開ける。硬く瞑っていたからか、眉間がジンジンと戦いの余韻を残す。


ブサギの場所を確認しようと、短剣を構えながら周りをキョロキョロする、が。ブサギの姿はなく、残るはキラキラと輝く石とブサギの巻きツノのみ。


何が起こったのかと、咄嗟にサイの顔を見るが、サイもまるで同じ顔をしていた。



「…ユーリ、お前さん…何者だ?」


「な、何が起こったんですか…?サイさん…僕に何かして…?」



サイが首を横に大きく振り、その後、目を輝かせ、興奮した様子でユーリの肩を掴んだ。



「ブースターか!?なんださっきの動きはよ!!ユーリ、お前さんどっかの守護師様からの恩恵受けてんのか!?あ!?冒険者じゃなかったらなんだ!?わっからねぇよ俺ぁよ!!!」


「さ、ささサイさん!!痛いです!!痛い!!」



落ち着いたサイは「悪い悪い」と気持ちを落ち着かせ、再びユーリに問う。



「ユーリ、お前さん本当は最初っから冒険者か?」


「ち、違います!!」


「なら、誰かの弟子か」


「それも違います!!」


「なら、守護師様の」


「守護師様って何ですかーー!」


「……」



はあはあ、と息を荒げて反論をする。

黙り込んだサイはユーリの目をじっと見つめ、その後ユーリの額に己の手をかざした。

じんわりと額に光が差し込み、眩しくて目を瞑る。



すると。



「っ!?」



『うわぁぁぁあああ!!』


シャキィィン……



先程のブサギとの一戦が頭の中で映し出された。

そこには無駄のない動きの中で、確実にブサギを仕留めている自分がいた。

強く地面を蹴り、弧を描くように跳躍しながら1匹ずつ煌めく石に変えて行っている。

紛れもなく、自分。

だがどことなく、ベータスネイクを仕留めた時のサイの動きにも似ている。



「…これは」


「記憶投影魔法だ。術者の見た記憶を映像化して、相手に見せることができる」



サイの顔は真剣そのものだった。







「ユーリ。俺の弟子にならないか」






なぜ、自分にこんな動きができたのか。

運動神経は良くはないが、こんな動きはしたことない。

だが覚えている感覚がある。

この時、胸が熱くなって体が軽くなった。

どこまでも行けてしまえそうなそんな感覚。


何が起こったのかわからない。

でも自分自身に期待している自分がいる。



『お前さんは、ここで生きていくんだ』



ここで生きていくために。

強くなるために。

僕にできるなら。





「はい!!」





この先で出会う自分のために、ユーリは大きく返事をした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ