少年、異世界へ
20年前、とある高等学校の生徒が次々に失踪した。
目撃者はおらず、証拠もない。
遂には警察も動けなくなり、この『高校生失踪事件』は未解決のまま動きを止める。
世間はこれを、【神隠し】と呼んだ。
しかし、5年後、失踪した生徒が次々に見つかり、事態は動く。
発見場所は高等学校のグラウンド。
学校長によって保護され、保護者に帰されたそう。
傷ひとつなく、関係者からは安堵の言葉が聞かれていた。
この状況において、事態は終息に向かっていると、誰もが思っていた。
「まさか、記憶がないっておかしい話だよな」
駆け上がる石段から小石が下へ転げ落ちる。
軽快な足取りで登る少年は、息を上げる少年に手を差し伸べる。
「おせーよ友里、平祐」
「はぁ…はぁ…はやいって」
「オレは友里を押してたのー」
月夜に照らされた少年3人は、白く反射した石段に影を落とすように登っていく。
味方するのは、風にあたり優しく揺れる木々達。
「はぁっ、もう、疲れたぁー…」
情けなくも裏返るその声に、少年はケラケラと笑い、高く腕を上げ指を刺し、手を引いた。
タッタッタッ
靴音を響かせ、駆け上る少年らの目の前には、目的地が広がる。
「着いたぜ。神隠しの聖地、廃墟の遊園地!」
「ひぃっ……っ」
風に揺られて歪な音を出す看板と軋む受付台。
蔓を巻き、曲がりくねったフェンスと柵。
鎖が切れた空中ブランコと色褪せたメリーゴーランド。
奥には錆びて路線を無くしたジェットコースターや汽車が。
街灯が寂しく、遊園地を照らしていた。
恐ろしくも好奇心が掻き立てられる光景に、少年らは息を呑んだ。
ズカズカと遊園地に入っていく少年達に遅れて歩く少年。
「…ねぇ、やっぱりやめようよ」
奇怪な景色に怯え、小さな物音に敏感に反応する。
「ったく、だから連れて来んなっつったのに」
「いーじゃん。これが面白いんだから友里は」
ニコニコ笑う少年は、怯えた少年にちょっかいを出し楽しんでいる。
「趣味悪ぃんだよお前…」
その光景にため息をついた少年は目を細め、腕を組んだ。そして、口角を上げた。
「まー、今回は中にも入れることがわかったし、今日はこの辺にして…ーーー」
ジリリリリリリリリッ!
♪〜
♪〜
「…なっ…何だ…!?」
突然のチャイムと音楽に身体中がこわばる。
上がる息の音、流れる音楽が混ざり、少年達を混乱させていく。
全員背中を合わせ、辺りを見回す。
背中から伝わる熱と拍動。
気持ちがどんどん焦っていく。
するとすぐに、その緊張は恐怖と混乱へ変わった。
ギィィィイイアアアアア!!!!
「「「!!!!!」」」
入口方面からこの世の物とは思えない鳴き声、音が響き、一同はその音にビリビリと体を震わせた。
「みっ耳が…!!」
「おい!なんか来るぞ!!!!」
巨大な黒いものが砂埃を立て、木や建物を破壊しながらこちらに向かってきていた。
「逃げろ!友里!海!」
青ざめた少年が走り出し、つられて残る2人の少年も走り出し、木が多い茂る元へ入り込む。
擦れる木の枝や葉に気にも止めず。
ただ一目散に背後から迫る謎の物体から逃げる。
「はっ…はぁっ…」
涙ぐむ少年ーーー友里はつまづきながらも走る。
だが、他の少年とは既にはぐれてしまっていた。
「海…?平祐!?」
振り返ると音さえしない森の中にいることに気付かされる。
暗い森の中。
今や、月の光も木々を通り抜ける風も味方などしてくれない。
前しか進む選択肢のないその絶望の中、どこからかうめき声が聞こえた。
「ぐあぁっ!!!」
仲間の声だとわかった友里は、見えない恐怖にただただ怯え、順番を待つことしかできなかった。
熱くなる喉。
涙が汗かわからなくなったその雫が体を濡らしていく。
次は自分の番であると悟った友里は、目の前に広がる木々に吸い込まれるように、ただ必死に走り出した。
脳裏をよぎるのは後悔と優しい日常の風景。
あの日々はもう、自分には訪れないのだと、恐怖に心を散らしていく。
「はぁっ…はっ……あれ…?っ…」
暗い暗い森の中、一縷の光を見つける友里。
一度立ち止まり目を擦るが見えるその光に、ハッとして一目散に向かう。
背後には冷たい恐怖。
進むは前のみだった。
「ごめっ…2人とも…ごめんっ」
友里は走り出す。
その光は優しく友里を包み込み、この先ゆく未来を支援した。
神隠し。
その名の通り、神によって隠されたのか否か。
意味があるのかないのか。
真相はわからないのである。
「時代は動く」
ある者は、その先を既に見据えていた。
【2023.3.15 start】