プロローグ
VRMMO『セカンドワールドオンライン』
俺こと佐々木冬馬は、このゲームにドはまりしていた。
毎日とは言わないが、時には寝食を忘れてしまうほどだった。
現実ではうだつのあがらない俺だが、この世界では『蒼炎の魔剣士』なんてこっぱずかしい異名すらあった。
そして俺は、ソロで見つけたこのゲーム隠しボス『異界の第5魔王』と戦い、長い激戦の末、勝利した。
俺は基本的にアタッカーメインの構成だったが、ソロでこのゲームを進めるにあたり回避能力を高め、周囲のゲーマーたちからとんでもない反射神経と言われていた能力を存分に発揮し、『蒼炎の魔剣士』の異名の元である魔剣の耐久値はストック分も合わせてすべて0になって砕け散り、ストックしていた回復、復活薬をほとんど使い切ったが、本来レイド級であろうボスを一人で討伐したことに満足感を得ていた。
そして俺はボスのドロップ品を確認する。
「ええ...こんなもん?」
ゲーム内通貨はゼロ、レア武器もなし、素材もなし、唯一のドロップは『異界への招待状』なる巻物一つ。
「あ、称号がついてるな。『魔を討つ者』か」
『『魔』の属性に極大ダメージ』、『『魔』属性耐性・極』か。なんともなぁ、明らかに赤字じゃん」
『異界への招待状』これ明らかに連続クエストだよな。
「まあ、使ってみるか。『異界への招待状、使用!』」
そうして、その日現実の世界で、一人の少年が行方不明となった。
「おい、おいっ!起きろ、死ぬぞ!!」
聞きなれぬ男性の声で目を覚ます。
「ん、んん?えっと」
「寝ぼけてる場合か!魔物の群れだ!この竜車を包囲している!!」
「ふぁ、寝落ちてた、すまんすまん」
「呑気してる場合か!囲まれてるんだぞ!もう終わりだぁ!!」
「おけおけ、要はモンスター倒せばいいんだろ?、武器は・・・う、全部『アレ』につかっちまったんだ。まあ基本格闘スキルでなんとかなるか?」
「お、おい!」
「まあ待っとけって。軽く蹴散らしてくるから。じゃ!!」
そういって俺はその車の荷台から飛び出した。
「なんだ、何かと思ったらただのゴブリンか、これなら余裕そうだな」
ん?いつものゴブリンよりかは頭一つ分デカいな、まあいいや。
様々な武器を手にしたゴブリンの群れ、俺は竜車を守るように槍を構えて囲んでいる貧相な装備に身を包んだ戦士たちの一人に声をかけた。
「なああんた」
「なんだ!!!」
「いやさ、槍使うなら越の剣使わないだろ?俺も戦う。貸してくれ」
「な!?、いやありがたい。こちらは猫の手の借りたい状態だ。護衛としては恥ずかしい限りだが頼む!」
俺はその戦士から了承を得て、そいつが腰に巻いた剣の持ち手を握りしめ抜剣する。
そしてその勢いそのままに目についたゴブリンに切りかかる。
「『スラッシュ』」
剣士の第一スキル『スラッシュ』最初に覚えるスキルにしてたくさんのコンボにつながる重要なスキルだ。
それにゴブリン相手なら。
「グギャアアアアアア!!!!」
横薙ぎ一閃。俺のスラッシュはゴブリンを豆腐のように両断した。
そして間髪入れずに、
「『ツインスラッシュ』」
「『ワイドスラッシュ』」
二撃目で二体、三撃目で四体を同時に屠る。
十二体いたらしいゴブリンはもう残り五体だ。
ほぼ一瞬で仲間を半分以上失った残りのゴブリンはほうぼうの体で同じ方向にかけてゆく。
巣でもあるのだろうか。
まあ逃がす理由はない。
「『ウィンドスラッシュ』」
風属性をまとった剣の一振りは、蒼い炎のエフェクトをまとって突き進み逃げるゴブリンをすべ両断する。
この蒼い炎のエフェクトが俺の代名詞。課金によって手に入れた特殊エフェクトは、あらゆる属性の魔法の『見た目』だけを蒼い炎に変える。
「「「「「おおおおおおおおおお!!!」」」」」
数名の護衛たちが勝鬨のような声を上げる。
「剣、ありがとな」
俺は剣を持っていない戦士に剣を渡す。
「えと、その」
「悪い、それを貸したのは俺だ」
駆け寄ってきた戦士は確かに鞘だけを腰に下げていた。
「あ、ああ間違ってすまん。改めてありがとう」
「いや、礼を言うのは俺たちのほうだ。おかげで助かったよ。ところであんた、相当な腕の剣士なのになぜ剣を持っていないんだ?」
「いや、な、ちょっと強敵に剣を砕かれてな...アイテムなんかも使い切ったから今の俺はほとんど文無しだ」
「なるほどな...俺の名はレオン。その剣は礼として受け取ってくれ。しかし、あんたの魔法剣はすごいな。炎なのに森の木には全く燃え移ってない」
「え、マジか!助かったよ。さすがに剣なしじゃ困ると思ってたところだったんだ」
レオンは腰の鞘を俺に投げわたし、続けた。
「文無しってんならこのまま俺たちにやとわれてくれないか?さっきみたいなことがないとも限らんし。依頼料には色を付けるぜ?」
「わかった。こっちも願ったりだ」
こうして俺は竜車の護衛として雇われることとなった
(ゲームにしては、妙にリアルだな)
少しの疑問を胸の内に抱きながら。
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