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……あのさぁ

「――それでその、ここを押せばしゃしん? というのが見れるんですのね……あら可愛い! こんなに可愛らしい小鳥さんは初めて見ましたわ!」


「シマエナガ? って言うんだって! ヨイツの生まれた国に棲んでるみたい!」


「そうですの、シマエナガさんとおっしゃるのね……可愛いですわねぇ。ライクラフト王国の周辺には飼育に向くは居なかったので、ペットの鳥と言えば専ら海を越えて輸入した派手な種類でしたが……ああ、わたくしもこんな可愛い鳥さんならぜひ飼ってみたかったですわ! ねぇヨイツ、貴方の国から何とか連れて来れないかしら?」


「残念ながら飼育は禁止されてるんだよねぇ。ウドン神がシマエナガ型召喚獣とか創ってくれれば行けるか?」


「! ウドン神様!! 期待してもよろしくて?」


「アルアちゃん!? 私だって可愛いよ!!」


「勿論若葉さんだって可愛いわよ? でも若葉さんはお友達、シマエナガさんは愛鳥として傍に置きたいのですわぁ~!!」


 古ぼけた地下墓地に似つかわしくない姦しい声が響き渡る。


 掲示板を見る事が出来る様になった若葉とアルアはスレ民たちとの交流楽しみ騒いでおり、今は可愛い動物の画像で盛り上がっているようだった。


 なお、ヨイツは後方腕組みしながらこういうので良いんだよと言わんばかりにうんうんと頷いている。


 まるで二足歩行の赤べこ……にはちょっと見えなかった。


(うん、若干どころじゃなく心配だったが良い感じに交流出来てるようだな。スレ民のくせにやるじゃないか)


 この場で唯一ネットの民度という物を知るヨイツは、いつでも不適切な書き込みをした者に制裁出来るよう【呪詛】と【呪術】の準備をしていたのだが……現在のスレッドの様子を見る限り概ね問題は無さそうだった。


(なんだかんだ、最初の方のセクハラ以外は変な発言も……まぁネタ発言はいっぱいあったが、下ネタとかも特になかったし良かった良かった。やっぱウドン神が選んだメンバーだからそこまで人格に問題のある奴はいないのかな?)


 若葉とアルアの楽しげな様子に兜の下で頬を緩めつつ、ヨイツは通路の奥へと歩みを進める。


 目的地は、アルアの本体が安置されている地下墓の一室だ。


「それでアルア、このまままっすぐ進めば目的地なんだよな?」


「え? ええ、そうですわね。このまままっすぐで大丈夫ですわよ……へぇ、ゲーム。物語を体験する遊戯、素敵ですわね。ヨイツの世界には娯楽が豊富で羨ましいですわ。お勧めされたこのゲームも馴染みの無い絵柄ですけど、登場人物の姿絵豊富なのもとても良いと思います!」


「アルアちゃん。このゲームはヨイツもやってたソシャゲ? って言うゲームなんだって! ガチャも回せるよ!」


「ガチャ? 何でしょう。初めて聞く言葉なのに、とっても心惹かれるこの気持ち……皆様! 是非わたくしにそのガチャという物を教えてくださいな!」


「オイオイオイオイオイ」


 スレッドに夢中でヨイツに生返事をしつつ、スレ民にお勧めされた地球の文化に興味を惹かれまくるアルアと若葉。


 それはそれで別に良い事だとスルーしようとしたヨイツだったが、今回はお勧めされている物がスルーするにはヤバすぎた。


「っダメだ二人共! ガチャは、不味い!! 危険なんだ色々とっ!!」


「? でもヨイツ、私とヨイツが出会えたのもガチャのおかげでしょ?」


「ぬぅ、確かにそうだけど!」


「あら、そうでしたの? そのお話、詳しく聞きたいですわ」


 ガチャの危険性を何とか伝えたいヨイツだったが、そもそもガチャによってヨイツの下へ来た若葉の存在により危険性を訴え難くなっている。


 その上ヨイツと若葉の出会いがガチャによるものだと知り、益々ガチャに興味を持つアルア。


 どういう風に説明すれば良いんだと悩みながら、ヨイツは奥へ奥へと歩みを進める事となった。


 ちなみに、移動の為に歩いているのはヨイツだけで若葉とアルアは宙に浮けるが自ら進んですらいない。


 若葉はヨイツの肩に乗り、アルアはヨイツに霊体の一部をくっ憑けた状態で居るためヨイツが進めば自ら移動する必要が無くなっているのだ。




 そうして三人は、アルアの体の安置された石室へと辿り着いた。











 ◆











 ―――辿り着いた先で目にしたものは、人の為した悪業そのものだった。




「……なんだこれは」


 底冷えするほど低い声がヨイツの口から漏れ出る。


 意図して口にした言葉では無かったが、それ故にその言葉には何よりも雄弁にヨイツの感情が籠っていた。


 怒りが、悲しみが、義憤が、憎悪が、身近なその言葉に宿っていた。


「ウドン神、答えてくれ。ダナゴン教の連中って言うのは、こんな事を平気でやる連中なのか?」



603:KPウドン神

部分的にイエスでありノーですね

そもそもアルア・ジーフ・アルハザードの誘拐はダナゴン教の上層部によって計画され、詳細な事情を知っているのは命令した者と実行犯である教会騎士たち…そしてアルア本人も推測していますが、誘拐計画を承認したライクラフト王家を始めとする王国高位貴族の当主達のみです

その中には、アルアの父親であるアルハザード公爵も含まれていますね



 ギリッ、と金属の軋む音がする。


 音の発生源は固く握りしめられ僅かに震えている、ガントレットに包まれたヨイツの手からだった。


「ふざけやがって、アルアが何をした! こんな目に遭わされていい訳が、こんな事をして許されるかよ!!」


「――なるほどこれがガチャ、要するにここを押すと景品が貰えるのですわね? では早速……あら、これは良い当たりなのかしら?」



617:名無しさん

おおおおお! 十連一回目から限定キャラが当たってる!


618:名無しさん

おめでとうアルアちゃん!


619:名無しさん

は? 俺が百連回しても出なかったキャラが一発で?


620:名無しさん

涙吹けよ(天井でようやくお迎えした)


621:KPウドン神

ヨイツ、貴方が許さなくても彼らは許されると思っているのですよ

何せ、こんな事を凡そ五百年ほど続けてこの王国は繁栄して来たのですから



 石室に安置されたアルアの肉体、それはあまりにも無残な姿をしていた。


 外傷すらほとんどない、パーティー用の豪華なドレスに身を包んだアルアの肉体は一見するとただ眠っている様にも見えたが、見た者全てが例外なくもう死んでいると判断するであろう状態だった。


 杭だ。


 毒々しい紫色の、蝋の様な物で出来た杭がアルアの肉体の複数個所、両手首と両足首、そして心臓と脳天を貫き肉体の寝かせられた石の台座へと深く打ち込まれていたのだ。


 【魔力感知】を、そして【呪詛】と【呪術】のスキルを取得し既に何度か使用しているヨイツには、その杭に極めて強力かつ悪質な呪いが込められている事が感じ取れた。


 肉体の機能を封じつつ死にも腐敗もせぬように状態を保ち続ける、いわば不老の植物状態を継続させるという呪いが。


「こんな事をして何になるんだ。仮死状態で保存しておくだけならここまでする必要はない、これじゃあただ生きているだけの肉塊を保存しておくだけの……いや、それが目的なのか? 必要なのはアルアの生きた肉体だけ、だから万が一にも逃げられない様に手足を貫き考える頭に杭を打ったのか?」



638:KPウドン神

ええ、必要なのは死んでいない肉体だけです

アルアはその身に生贄としての適性を持って生まれてしまったのですよ

聖女という名の生贄の適性を



「アルアが、聖女!? それは一体どういう意味……!?」


「あーーーっ! またスカですわーーー!! 石が、石がもうありませんわ。もっと、もっと回したいのにどうしたら……」


「アルアちゃん! 課金? って言うのをやればお金で石が手に入るみたいだよ!!」


「課金……くっ、不覚! このアルア・ジーフ・アルハザード公爵令嬢ともあろう者が、現在無一文ですわ! せめて体が身に着けている宝飾品を換金出来れば!」



643:名無しさん

任せろアルアちゃん

一旦ゲームを閉じてからストアを開いて、コード入力の所からこのコードを入力するんだ!


【画像】


644:名無しさん

おっと負けてられんな、アルアちゃんこれも役立ててくれ!


【画像】


645:名無しさん

急にスパチャみたいなこと始まってて笑うわw


646:名無しさん

異世界美少女幽霊に貢げるんなら誰だってそうする、俺もそうする

アルアちゃん! 俺の今月最後の小遣い、受け取ってくれぇーーー!!!


【画像】


647:KPウドン神

ヨイツ…アルアが何故聖女なのか、そして何故このような事が国家ぐるみで容認されてしまっているのか

それを知るには、まずこのライクラフト王国という国の建国以前からの歴史を知る必要があります

長い話になりますが構いませんね



「……ああ、話してくれ。アルアにとって辛い話や受け入れがたい内容も含まれるかもしれないが、それでも俺たちは真実を知らなきゃいけないだ!!」


「皆様……ありがとうございます!! このアルア、皆様からの恩は決して忘れません。皆様から受け取ったお金で課金したこの石で、必ずや『雪の花嫁・ストラドスネルニカ』様をお迎えして見せますわっ!! ……あ、所でヨイツ! 小耳に挟んだのですが貴方、魔石を使ってガチャを回せる力を持っているんですってね? もう、水臭いですわ! そんなに素敵な力を持っているなら早く教えてくれればいいのに。次にガチャを回す時は是非わたくしもご一緒させて下さいまし!!」


「……ウドン神、ちょっと待ってね」


 一言ウドン神に断りを入れてからくるんとヨイツは背後に居たアルアへと向き直る。


 向き直った先では空中投影ディスプレイにソシャゲのガチャ画面を映し出したアルアと若葉が、手に汗握る様子でガチャを回していた。


 血が滲まんばかりに握り締められていたヨイツの握り拳はいつの間にか解かれていた。


「スカ、スカ、スカ、金……来ましたわ虹回転! 今度こそルニカちゃん様をお迎え、アアアアアッ!! すり抜けヴィノール様ですわーーーっ!?」


「おっしーい! 大丈夫アルアちゃん!! 次こそきっと出るよ!!」


「そ、そうですわよね若葉さん。まだ石は沢山あるんですもの……それに、天井まで回せば必ず当たるのだから無問題(モーマンタイ)ですわ!!」


「その意気だよ! アルアちゃん!!」


「……あのさぁ」


 顔を覆いたくなる気分を抑えて盛り上がる二人に声をかけるヨイツ。


 その声にキョトンとした顔で二人は振り返った。


「あらヨイツ、どうしましたの? あ! さては貴方もガチャを回したいんですわね!!」


「そっか、さっきから私とアルアちゃんだけで回しちゃってたもんね! ヨイツも一緒に回そうよ!! 楽しいよ?」


「いや、楽しいのは判るけどさ。二人共……というかアルアは特にさ、気にならないの? ウドン神がこれから誘拐された理由とか、王国の歴史の真実とか、何かそう言うの説明してくれるみたいなんだけど」


 ヨイツのその言葉に、アルアは小首を傾げて少し考えた後ヒラヒラと手を振ってガチャ画面へと向き直った。


 その姿は明らかに興味が少ない様子だった。


「気にならない訳ではありませんけど、長くなるようなら代わりに聞いておいてくださいな。わたくし、これからルニカちゃん様と共に世界を救う旅に出なければいけませんの」


「私も一緒だよアルアちゃん! 一緒に『大邪神・アスモザール』を倒しに行こう!!」


「ふふ、そうですわね! 一緒にレッツゴーですわ!!」


「ゴーゴー!!」


「えー、それってソシャゲのメインストーリーの話だよね?」


 悲報。ライクラフト王国の歴史の真実、ソシャゲのメインストーリーに負けた模様。


 余りの躊躇いの無さにヨイツも「本気で言ってる? 聞くのが辛いだけで無理してない?」と再三確認するが、アルアは本当に興味が薄いようだった。


「今更そんな事知ったところで過去が変わる訳ではありませんもの、そんな事より一番大事なのは目の前にある今ですわぁ!!」


「目の前にあるのはガチャ画面なんだよなぁ」




 思った以上にアルアが享楽的で図太い性格である事を知ったヨイツであった。


 なお、ガチャの結果は割と爆死気味でお目当てのキャラは結局天井手に入れた模様。


 「あんまりですわぁぁぁーーーーーっっっ!!!」と、アルアは大号泣をした。

『雪の花嫁・ストラドスネルニカ』

忘郷漂着の七花嫁の一人。彼女がただそこに佇むだけで周囲に降らせる雪は砂糖菓子のように甘く口にしただけで多幸感に包まれる―――致死性の猛毒である。


『大邪神・アスモザール』

嘆きのアスモザールとも呼ばれる邪神の一体。彼の声を聞いた万物は自重にすら耐えられないほど脆くなり、溶けるようにその姿を無くす。生まれながらに万物を弑する、孤独に呪われた神。




今回は作中内の架空ソシャゲのキャラクターとして、設定だけ考えてある作者の別作品のキャラクターの名前を使ってみました。

ちなみに、ヴィノールの正式名は「荊の花嫁・アウディヴィノール」です。

独創的なキャラクターネームを考えていた時に思いついたので名前の癖が強い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲報・異世界王国の歴史の闇、ガチャ沼に負ける
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