【幽霊御嬢様が】異世界地下墓のボスモンスターを攻略するスレ【あらわれた!】 その五
「とりあえず187、193、200の三つな。俺はアルアにこれまでの経緯とかあらましとか、その辺をざっくり説明するからゆっくり考えると良い」
何も無い空中を見ながらそう言い捨てたヨイツはアルアへと向き直る。
傍から見れば何も無い所へ急に独り言で話しかける騎士甲冑のやべー奴だが、アルアはそれがヨイツの語った異世界との連絡手段であると察した。
「……それが貴方の言っていた連絡手段ですの? 何も無いように見えますし、そもそも筆談と言っていなかったかしら?」
「ああ、元々頭の中で思い浮かべてやり取りする様な物だから基本俺自身以外には認識出来ないんだよ。こんな風に可視化する事も出来るけどな。後、思い浮かべれば良いだけだから口に出す必要は無いんだが、喋ってたのはまぁ気分だな」
そう言いながらヨイツが右手の平を開きながら上に向けると、そこに音もなく白い光を放つ板(アルアの確かには無いが、言語化するなら空中投影ディスプレイとでも呼ぶべき物)が現れ、そこに見知らぬ文字の羅列が次々に現れては上に流れてを繰り返していた。
その摩訶不可思議な光景にアルアは目を丸くする。
「これが……見た事の無い文字ですわね。何て書いてありますの?」
「あ、そっか。日本語だと読めないよな」
「ヨイツ、私なら読めるよ! 私が翻訳する?」
「うーん、そう言ってくれるのはありがたいけど、それだとスレの速さやネットスラングに対応するのが大変そうなんだよなぁ……ウドン神、何とかして頂けます?」
「ウドン神?」
ヨイツの口にした『ウドン神』という単語にアルアが反応する。
公爵家令嬢として高等教育を受けたアルアには一般常識としてルミークライン世界で人類種、及びその友好種族や敵対種族に信仰されている神々の名前と来歴、司る権能などを知識として知っている。
だが、ヨイツの口にした神の名は全くと言っていいほど聞き覚えが無く、その為そんな神居たか? と首を傾げたのだ。
「ん? ああ、ウドン神ていうのは俺をこの世界に転生させてくれた神様の事だよ。元の世界と連絡が取れるこれもウドン神がくれた力だ」
「そうだったんですの。神が直々に力を与えて転生までさせるなんてよっぽど徳の高い事をしたのね、貴方。どことなく響きが貴方や若葉さんの名前と似ていますが、貴方の居た地球という世界の神ですか?」
「いや、別に俺は徳が高いとか言われる様な人生は送って無いんだがな? それと、ウドン神はマイナーだけどこの世界の神様だよ。正式な名前はウドンドン・ドンカッツって言うんだ」
「ウドンドン・ドンカッツ……確かに古代語の様な響きですが、わたくしも古代語にはあまり明るくないので名前の意味までは判りませんわね」
「名前の意味は『境界に坐す万能の主』だよ」
「『境界に坐す万能の主』……」
その名とその意味を知り、しかしアルアはますます困惑した。
ルミークライン世界の神々は、各々の持つ名前の意味がそのまま自身の力や司る権能を表している。
その為、ルミークラインの神は名前とその意味を知れれば、その能力や神としての格を凡そ知ることが出来る。
アルアが困惑した点はそこだ。
『境界に坐す万能の主』。明らかに最上位の、それこそ神々の中でも神王や神祖の類の神格が持つべき名前であるのに、その様な名前の神の存在を欠片でも耳にした事は一度もない。
ルミークライン世界の常識を知るが故に、その強烈な矛盾にアルアは困惑したのだ。
「……その、貴方を疑う訳ではありませんが、本当にウドン神様はこの世界の神なのですか? 最上位の神格が持つに相応しい名であるにも関わらず、わたくしはそのような神の事を一度も耳にした事が無いのですが」
「本当にこの世界の神だよ!? 信じてアルアちゃん!!」
「どうどう、落ちつけ若葉。アルアの疑問ももっともだが、ウドン神が無名な事にはちゃんと理由があるんだよ。その辺も含めて俺が地球で死んでからウドン神に転生させて貰ってここに来るまでの事を一通り説明するから質問は説明を聞いてからにしてくれ」
「ええ、そう言うのでしたら説明をお願いしますヨイツ」
「おう任せろ」
「アルアちゃ~ん、信じて~!」
「何で泣いてるんだ若葉?」
「だって~!」
ウドン神の存在を疑われて泣きべそをかきながら信じてと言い募る若葉。
そんな若葉の様子に首を傾げながらも、ヨイツは自分が死んでからウドン神と出会い、力を貰ってこの世界に転生して来た時の事。
転生後のスタート地点が地下墓だったため、早速貰った力を使って元の世界の人間に助けを求めた事。
元の世界の人間たちと交流しながらウドン神の説明に従ってガチャという物を行い若葉と出会った事。
若葉と二人で探索を開始した矢先に隠し通路を見付け、その先で酷い目に遭いながらもアルアと出会う事となった事。
そしてウドン神から聞いた、ウドン神がどういった神でありこの世界の一般的な神々とどういった違いがあるのか。
以上の事をヨイツは一通り説明し終えたところで、質問はあるかとアルアに聞いていた。
「――と、ここまでが俺が死んでからこうしてアルアと出会うまでの出来事だな。何か質問ある?」
「質問……と言いますか、ええと何から聞いたらいいのかしら? ヨイツ単体や若葉さんのお話だけでも驚愕の連続でしたけど、それ以上にウドン神様の……この世界のあらゆる神々よりも古くから存在する、この世界の本当の創造主だというお話を聞いて頭が混乱していますわ」
「アルアちゃんアルアちゃんっ、信じてくれた?」
「信じた、と言いますかその……ええ、ヨイツや若葉さんが嘘をつくとは思っていませんから信じてはいますが、正直知った情報を受け止めきれていないと言いますか」
「まぁそうなるよね」
「良かった! 判ってくれたんだねアルアちゃん!!」
判る判ると腕組みしながら頷いているヨイツを見て淑女にあるまじき、こいつ殴りたいという感情を覚えつつも喜びはしゃぐ若葉の顔を曇らせない様にぐっと堪えるアルア。
この程度の事でアルハザード家の娘が怒りをあらわにするなんてはしたない事は出来ないと自分を戒めるアルアだったが、同時に「んじゃあそろそろアクセス権渡してアルアにも掲示板に合流して貰うかなぁ」と暢気に言っているヨイツをいつか殴ろうと心に誓っていた。
「……ハァ、それでヨイツ。そのアクセス権とやらはどうやって受け渡しする物ですの?」
「ああ、それならこれを受け取ってくれたらそれで済む様になってる。後、自動翻訳機能も付けて貰ってあるからこの力限定だがアルアも日本語、ってか地球言語が判る様になるぞ」
「ヨイツ! 私の分は?」
「あー、若葉の分かぁ。正直若葉の教育に悪い様な気もするが……ま、仲間外れは寂しいもんな! 若葉も受け取れぃ!」
「わーい! やったー!」
「あの、若葉さんの教育に悪い様な物なんですかそれは?」
「うんまぁ、あんまり酷い様ならきちんと俺がシメるから、ね?」
「不安ですわ……」
アルアと若葉にそれぞれ差し出したヨイツの両腕には、それぞれ白い光で出来たカードの様な物が握られている。
これを受け取ればアクセス権とやらが手に入るのだと察しつつ、アルアは若干不安げに、若葉は笑顔で飛び付く様にそのカードに手を触れた。




