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58.ミリアーニの族長争い3

「あとは三男に味方した中でも地位の高い家系の出身者とその家族を皆殺し。リルドは『一族内の大掃除終了。反逆者達は全員始末された。これで一族内も平和になる』と言って、次期族長になる宣言をした。リルドとショウヤの殺戮は恐ろしく手際がよく、全てはあっという間に終了した。父親の族長や祖父の元族長も手を出せず、上位の神達がミリアーニに干渉する暇さえなく、ミリアーニの跡目争いは大量の死者を出して、短時間で片がついた。それからはとにかく二人が恐ろしくて、一族は誰も二人に対して異議を唱えられなかった。父親である族長も、子供がたったの三人しか残らなくては、もう何もできなかった。リルドとショウヤの勝利だ」


 こうしてリルドは次の族長となり、きっとショウヤはその補佐に就いたのだ。


「トミイとルマの活躍もあったそうだ」


 エドはリルドとショウヤ以外の名前を出した。


「トミイは以前から、『三男は俺の言動を批判ばかりしてうっとうしい』、と言って三男を嫌っていた。トミイはすぐに頭に血が上る連中から人気がある上に、その豪快な性格が同年代に好かれ友達が多かった。『あんなにお行儀がいいのが戦の神の長でいいのか? 俺達みたいなのはすぐに粛清されるぞ。俺達の本質をよく考えてみろ。俺達の長に相応しいのはもっと、身勝手で好戦的で荒々しい奴だ。リルドの方がまだ近いだろ』と説得して仲間を集め率い、リルドとショウヤの妻子だけでなく味方の家族達も匿い、三男の兵を一歩も家族達に近寄らせなかった」


 リルドとショウヤはアラサーの年齢だ。妻子がいてもおかしくはない。トミイは彼らを守り抜いた。


「ルマはルマで『三男は外見も性格も一族の女どもに人気があるんだよな。ああいう危険な野郎の子孫は、なんとなくだけど、後世に残さない方がいい気がする』と言ってリルド達側の医者となった」


 リクは、なんだその自分勝手な理由は、と思った。それと共に一つ聞きたいことがあった。ルマがポールや川原と同じ脳味噌なら……。


「ルマには姉か妹がいたの?」


 リクはエドに聞いてみた。


「それはわからない。家系図が信用できる状態じゃないから」


 その件に関しては残念だが、とにかく、その時代の歴史の真相だけはわかった。


「アラサーの頃のリルドとショウヤは、十六歳の頃とは随分変わってしまったんだそうだ」


 あの日、生き生きと竜を狩っていたリルド。確かに彼は乱暴者で、怖気づくルマを殴ると脅し、儀式をしたいという自分の欲求に従い竜の夫婦を酷い目にあわせ、ヒスイの問いかけに対しても族長になるためなら弟を殺すと言い切っていた。ただ、弟である三男の首を残酷にも札をつけてさらし、その他の兄弟を笑って殺しまくる人物とは思えなかった。ショウヤだってそうだ。のほほんと竜を狩っていた。ヒスイに対しては失礼だったが、リルドと組んで短時間で笑いながら殺戮をやってのけるような残忍さは感じられなかった。


「これは当時を知っていた森先生が予想したことで、必ずしもこれが正しいとは言えないんだが……自分達にかけられた疑いを成長してから知って、リルドは最終的に殺されるのは自分ではないかと危ぶんだんだろう。そしてなぜそんな大事なことが、自分達が大人になるまで隠されていたのかと、殺される側の当事者リルドとしては怒りが湧いただろう。もっと早くから知っていれば、大人達に対して、もう少し上手く立ち回れたかもしれないのだから。まるでリルドが炙りだされるのを、大人達が待ち構えていたかのように感じたのかもしれない」


 リルド達にとってはある日突然、なんの罪もないのに突きつけられた死の可能性の運命。


「リルドが予言を知ってからのほぼ十年間、四人の中で最も命の危険を感じていなければならなかったのは、生まれた直後から疑われていたリルドだろう。予言が四人に知らされてから、今までその話題を口にできなかった周囲は、リルドにはっきりとした態度で接するようになった。周囲のリルドに対する視線やヒソヒソ話は酷いものだった。『あいつ早く死なないかな』などと、リルド本人に堂々と言うほどの奴もいたらしいから。しかもそれだけで済まず、誰かが先走ってリルドの暗殺を企てるかもしれない状況でもあった。現に当時の神々の間の噂では、『リルドは何度も急襲され命を危険にさらされていて、それゆえに常に周囲を疑い警戒し、暗殺を回避したり相手を返り討ちにしたりして、なんとか凌いでいる状態だ』と伝えられていた。必死で身を守っていたリルドとそれを助けるショウヤはその十年間、人目につかないように謹慎しているかのように生活をしていた。さっきも言ったが、大人しいという印象になっていた。でもそれはこれ以上一族達を刺激しないように気を使っていただけで、その間、腹違いの兄弟達を殺す準備を着々と進めていたのではないかと森先生は言っている」


 命を狙われる度にリルドの中に蓄積されていった一族への憎悪。リクの中に潜むあの荒々しい性格は、悲しいリルドの人生が残した記憶が受け継がれたものかもしれない。


「全てが終わり天下を取ってからの二人、特にリルドは、それは高圧的で冷たいオーラを出していたそうだ。リルドが族長に決まっても、やはり死ぬべきはリルドであったと思う一族達がまだ多数いたそうだから、気を緩めるわけにはいかなかったのだろう。当時のリルドは、去年の正月にリックの体を乗っ取ったあいつに冷淡な雰囲気が似ていたと、森先生は言っていた」


 やはりと思った。リクは高一の正月に見た、もう一人のリクを思い出す。自分を痛めつけた同級生達を、惨殺しようとしていた。そして河川敷でリクがウィルを追い詰めた時に一瞬だけリクに囁き、楽しんで異母弟ウィルを殺そうとした。その十年で悪ガキ・リルドは、人を惨殺するのを楽しむ、身内さえ楽しんで殺す、あんな恐ろしい闇を抱える人物に変わってしまっていたのだ。


「少し、リックの境遇に似ているかもしれないな。一族から命を狙われたリルドは」

「え? あ、そうか」


 エドに指摘されて、リクは自分の立場を思い出した。


読んでくださってありがとうございました。

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