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48.決着! 竜vs狸たち

 突然、竜の体が九十度東側へ回転した。ベテルギウスの頭もその方向に、地面に弧を描いて引きずられた。そしてリゲルはゆっくりと移動を開始した。リゲルが向かおうとしている場所はどこか、リルドはもうわかっていた。ヒスイの花畑の中にある、聖水の湧き出る泉だ。リゲルはそこでベテルギウスを癒そうとしているに違いなかった。


「急げ!」


 リルドは怒鳴る。泉は遠くない。時間がない。泉に辿り着かれたら即終了。ベテルギウスは首が繋がり始め、リルド達の負けが決定する。

 リルド達は飛び上がると体重をかけて剣を振り下ろす。しかしフワフワと移動するリゲルに引きずられたベテルギウスの首は、動いている分、剣を振り下ろす目標を定めにくくしていた。それでもそれを繰り返すことで傷口はどんどん深くなっていく。


 そしてとうとう、あと皮一枚ほどの厚さまで辿り着いた。しかしそこから、いくら剣を振り下ろしてもその一枚の皮が切れない。


「多分、ここだけションベンがかかってないんだ!」


 汗まみれになって剣をふるうリルドが叫んだ。

 ションベン? リクは一瞬ションベンとはなんだろうと思った。しかし『かかってない』という言葉と、黄色いボールから液体が飛び散ったのを思い出してすぐにピンときた。そして、そんなと思いながらも結論した。

 ションベン、きっと小便だ。彼らはそんな汚液を集めてボールに入れて運んで来たのだ。そして竜の首にぶっかけた。

 ベテルギウスの様子から考えるに、この竜は尿が苦手なのだ。尿は竜の体力を奪い、鋼のような外皮を爛れさせ、攻撃しやすいように弱らせる。


「ルマ!」


 リルドはルマの方を見る。ルマは神希棒を右脇に刺し、ボールを両腕で胸にしっかりと抱えた状態で、あたふたと竜のあとを追いかけてきていた。しかし決して白い花のラインの内側には入って来ない。数十センチ外側を走って来ていた。ルマはこんな状態の竜でも怖いのだろう。その一線をギリギリ越えない。


 リルドに名前を呼ばれたルマはビクッと体を震わせたあと、最後の黄色いボールをリルドに向け放った。リルドは剣を地面に突き立てると、ルマから投げられたボールを両手で受け取る。

 すかさずリゲルが、ベテルギウスから離れた位置でボールを持つリルドに向けて、大きく口を開けた。


「ぎゃあ~っ!」


 ルマの声がした。リゲルの開いた口を間近で見たルマは、絶叫しながら森の中に逃げたのだろうとリルドは思った。ルマの逃げ足は速いから問題ないだろう。どうせルマの役目はこれで、一旦は終わりなのだ。


「ショウヤ!」


 名を呼ばれたショウヤも剣を地面に突き立てた。


「リル…ジ、ゲキ」


 リクにはそんな風に聞こえる呪文をリルドが唱えた。リルドは呪文のあとボールに息を吹きかけ竜に向かって投げる。ショウヤはベテルギウスの頭の角を一本ずつ両手で掴むと引っ張り上げ、首の皮の一か所だけ繋がっている部分をリルドの投げたボールの軌道上に向けて移動させた。ボールは正確に当たってはじけ、と同時にショウヤが液体のかからぬうちに素早く逃げ、剣を刺した場所まで戻って剣を抜いた。


 一方、リゲルの吐いた水鉄砲がリルドを襲う。雨は降らせられなくても、まだ水鉄砲は吐けるようだった。リルドはそれを避けようと花畑を走って逃げた。水鉄砲はリルドを追う。それに伴って花畑が水鉄砲で抉られる。花畑を破壊するだけになってしまったからか、リゲルは水を吐くのをやめた。リゲルは移動を止めると、ベテルギウスの首の、リルドの投げた尿の球が当たった部分にチョロチョロと口から水を出してかけた。リゲルもこの黄色の液体を、竜にとってヤバい代物と認識したのだろう。リゲルの吐いているのは聖水ではないが、尿は薄まりはしたようだ。しかしベテルギウスの首の皮膚はすでに変色していた。


 それを見届けると、リルドは自分の剣を探して辺りを見回す。しかし見当たらない。水鉄砲に飛ばされてどこかへ吹っ飛んでしまったようだ。水を吐くのをやめたリゲルが、首の皮一枚つながっただけのベテルギウスを引きずりながら、泉へと向かうのが見えた。まだ荒らされていない花畑の中に、高さ二メートルまで噴水のように湧き出ている水が見える。あれが聖水の泉だ。泉まではもうあと五十メートルほどだ。泉の中に逃げ込まれては、尿の効果が薄れる。竜は生命力が強い。すぐに首が繋がり始めるかもしれない。そうなったら首はもう切断できない。

 ショウヤとトミイは息を切らしながら飛びかかって、竜の最後の皮を叩き切ろうとしている。しかし尿が薄まっている上に浴びてから時間もたっていないせいか、しぶとい。

 リルドは再び辺りを見回す。よく目をこらしてみると、三十メートルほど離れた泥の中に、水のきらめきとは違う光が見える。あの光がリルドの剣が反射する太陽光かもしれない。


 リルドは泥に足を取られながらも、その光に走り寄った。近くで見ると金属っぽい物が見える。多分これが剣だ。リルドは両手で泥をかき分けた。泥水の中になのでよくは見えないが、柄らしき模様が見えた。リルドはそれを右手で握ると泥の中からグイッと引っ張り出した。


「うわ、ショウヤの奴、ウゼエ~」


 リルドが拾い上げたのは、折れたためにショウヤが地面に放り出した剣だった。こんな所に流れ着いていたのだ。リルドはそれを悔しそうに叩きつけると、再び辺りをよく見まわす。再び光る何かを視界が捉えた。

 走り寄り見ると、今度は間違いなくリルドの剣だった。剣先半分が泥に埋もれているが柄は外に出ている。リルドは柄を握りしめ剣を持ち上げた。振り返ると、ショウヤとトミイが苦戦している様子が見える。竜はどんどんと泉へ向かって行く。

 リルドは剣を掴んだまま竜を目指して全力で走った。全力とはいえ、泥が跳ねあがり足元も悪く走りづらい。しかし時間がない。それでも竜の十メートル後ろまで追いついたリルドは、そこから竜の上空に向けて飛び上がった。

 両手で剣を握りなおして頭上に掲げる。


「いけぇー!」


 丁度ベテルギウスの首のそばにいたショウヤとトミイが各々の後方へ、飛び退る方向へジャンプした。リルドは体重をかけて剣を振り下ろす。


「大地よ、裂けろ!」


 リルドはそう叫んで、ベテルギウスの首の最後に残った僅かな皮に、剣を叩きつけた。


 ベテルギウスの首はとうとう胴体から外れた。しかしそれだけでは済まず、剣はベテルギウスの首の真下の地面にまで食い込んだ。その食い込んだ部分から前後に亀裂ができ始めた。ゴゴゴゴゴと音を立てながら地面を揺らし、亀裂は花畑を二つに分けるように、両方向に一直線に延びていく。やがて亀裂は聖水の泉にも到達した。丸く地面を掘って白い角石を敷き詰めて作られた聖水のプールにも亀裂が入った。噴水のように湧き出ていた聖水は勢いを増し、亀裂のせいで破壊された角石を天に放り上げた。聖水の噴水はまるで間欠泉が噴き出た時のように、十数メートルの高さまで噴き上がった。


「やったぜ! ひゃっほう!」


 リルドは右手で剣の柄を持ち、左手でベテルギウスの角の一つを掴むと、両腕を上にあげて叫んだ。ショウヤとトミイもリルドのそばにやって来た。


 噴き上がった聖水は天には吸収されず、天への勢いが止まると重力に引かれて雨のように地面へと落ちてくる。一緒に噴き上げられた角石も降ってくる。泉周辺の花畑は水と石に押しつぶされ、更に無残な姿になっていった。


 よし、目的は達成した、ベテルギウスの首を繋げてやるか。そうリルドが思った時、リルドは何かに右横っ面を張り倒され吹っ飛ばされた。

 十メートル? 二十メートル? よくはわからないがかなりの距離を飛ばされた。そして体は泥水の中に、左横向きに落下した。

 


読んでくださってありがとうございました。

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