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44.竜を狩る儀式

「だから普通の剣など持ってくる意味がないと言ったろう」


 リルドは軽蔑を込めてショウヤに言う。


「それを、身をもって確認するのも必要だ。これからの攻撃の指標となる」


 ショウヤはリルドの方へニヤリと笑った顔を向けた。森の中でのショウヤの返事では、彼はリルドになんとなくついて来たように見えたが、今のショウヤは不敵な笑みを浮かべている。そして彼はこの狩りを楽しんでいるはずと、双子の兄のリルドはわかっていた。


 実はこのギグードラゴン。繁殖期は雄雌交互にしか口から攻撃をできない代わりに、それを補うように、体の外皮が岩や金属を思わせるように硬くなるのだ。硬い外皮は敵から身を守り、雌の体内で形成されつつある卵も守る。この時期のギグードラゴンの外皮に楽々穴を開けられるのは、上位の神達のみ。中位以下の神達の攻撃では、数人がかりでも全く歯が立たない硬さだった。

 リルド達も大人からこう教わっていた。もしギグードラゴンを狩りたいなら、それは繁殖期でない時期を選べと。例え両方の首から同時に攻撃されても、その方が仕留められる確率が高いからだ。


 しかしリルド達はこの時期のギグードラゴンを狙っていた。この時期のドラゴンを倒してこそ、この儀式は価値があるのだから――そこまで頭に入ってきて、リクはふとこの言葉に引っかかった。儀式? 儀式とはなんの儀式だ?


「次は俺に行かせてくれ。神希棒の威力を試したい」


 トミイの神希棒という単語に、リクのそれまでのリルドから取り込みが途切れた。トミイは棒術師のウォーミングアップのように、両手で器用に体の周りにクルクルと棒を回すと、棒をピタリと右脇に挟んで、竜に向けて攻撃準備のポーズをとった。一部の隙もない見事な構えだ。


「時間がないぞ、トミイ。トミイの攻撃でデータを取ったら、次は集中的に首を落としにかかるぞ」


 リルドはそう言うと突然、足元の地面にパンチを入れた。リルドを中心に地割れが起こり、土が盛り上がる。ショウヤはジャンプしてリルドから距離を取った位置に着地した。しかしトミイは足場となる土が崩れても、気にする様子はなく構えを解かない。

 花々も盛り上がった土ごと根こそぎ持ち上げられ、花畑は土台を失った花々と土と水の入り混じった無残な姿になった。リルドは数メートルずつ、前後左右ちょこまかと移動しては、その行動を繰り返す。

 竜はリルドの移動を追うように浮いた体を揺らす。竜の仕事は侵入者を追い払い、花畑を守ることだ。リルドは竜に見せつけるように花畑を破壊する。リルドは竜をより怒らすために、わざとそんな行動をとっていた。ある程度破壊するとリルドは破壊をやめ立ち止まった。竜は体をリルドの真正面でピタリと止める。


「グワーッ!」


 ベテルギウスが叫び、同時にリゲルが強烈な水圧の水砲となった水を吐き出し、無法者リルドにぶつけようとした。リルドはそれを避けるために空中に飛び上がる。リルドが先程同様ちょこまかと前後左右に逃げると予想していたのか、リゲルは首を左右に動かしながら水砲を撒いた。水砲はリルドが立っていた場所の後方の土壌一面を抉り取り、花々を巻き込んだ泥水となった。そして水砲の勢いは辺り一帯に大量の泥水をはね散らかし、花畑に泥水を降らせた。

 その泥噴水の更に上空でリルドは体を前傾させ、ベテルギウスに向かって拳を向けながら頭から降下した。


「行け!」


 リルドが叫ぶ。竜はリルドの動きを読んでいて、落ちてくるリルドに向かってベテルギウスが口を開けた。しかし何かに気づいたように口を開け切らずに止めると、すぐに口を閉じる。死角から竜に攻撃を仕掛ける者がいた。トミイだ。リルドに注意が集中している隙に、静かに竜の背後に回り込んでから飛び上がっていた。トミイは神希棒をベテルギウスの長い首の真ん中あたりに、薙ぎ払うように叩きつける。


「く、くっそ!」


 トミイは簡単に棒ごと弾き飛ばされた。斜め下に向かって勢いよく落ちていくトミイは地面ギリギリで態勢を立て直すと着地したが、勢いが止まらず後傾姿勢のまま両足が数メートルずり下がり、最後に仰向けにひっくり返った。リルドはベテルギウスの頭に向けていた拳を開いて、手の平をベテルギウスの頭につくと、腕を軸にして体を半回転させ、ひっくり返ったままのトミイの横に着地した。


「さすが神希棒。俺の剣と違って折れなかったか」


 いつの間にかトミイの横にやってきていたショウヤが言った。ショウヤはトミイの手を掴むとトミイの体を引っ張り上げる。その勢いに手伝われたように、トミイは自力で立ち上がった。


「神希棒でもビクともしねえ」


 トミイは自分の頭よりも高い位置にある、右手で斜めに持った神希棒の先を見上げる。


「これであいつの皮膚の硬さは確認できただろう。よし、やっぱり、あれを使うぞ」 


 リルドはそう言うと竜の脇をすり抜け森の方角へ走った。ショウヤとトミイもリルドの後に続く。ベテルギウスが三人に向かって火を吐いたが森は竜の背中側なので、首を後ろに回しながら吐く無理な体勢になり、結局首が回りきらず火は届かなかった。

 リルド達は花畑の始まりと森の出口の丁度中間地点で立ち止まり振り向いた。竜も宙に浮いた体をゆっくりと回し、リルド達の方を向く。リルド達が花畑の外にいるからか、リゲルもベテルギウスも攻撃してこない。むしろオニモグラが気になるのか、リゲルがまた穴の入り口を覗き込んで穴の中に水を吐き出した。


「ルマ! 隠れているだけでそこにいるんだろう! 例のやつ持って来てくれ!」


 リルドは森の中へ向けて脅し声を響かせた。



読んでくださってありがとうございました。

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