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43.竜を狩る

 しばし睨み合うリルド達と竜。しかし竜はクルリと体を百八十度回転させ、体の正面を花畑の方に向けてリルド達には背中を向けた。竜はリルド達にはそれ以上の興味を示さない行動をとった。   

 それもそのはず。花畑に穴が開いていてそこからオニモグラが入り込み、大事な花畑の地下を荒らしている。この現状を竜は何よりも優先して、解決する必要があるからだった。

 

 この竜はヒスイの家臣で、ヒスイの命令で花畑の東側外苑を守っていた。花畑の地下で餌を求めて今現在暴れているオニモグラと、白い花の帯の境界線の向こうにただ立っているだけの子供達。竜がどちらを先に追い払わねばならないかは明白だった。

 竜はフワフワと浮いたまま花畑に入り、オニモグラが作って飛び込んだ穴の入り口の一つに向けてリゲルが首を下げ、穴の中に口から水を放った。ギグードラゴンは雄が火を吐き、雌が水を吐く生き物だった。

 水はどんどんと穴に吸い込まれていく。穴の中を洪水状態にされたオニモグラがどうなったのか、地上から地下の様子は見えないのでわからない。


「行くぞ!」


 リルド達三人は白い花の境界線を飛び越えて花畑に侵入した。その気配に気づいたのであろうベテルギウスが首を捻ってリルド達を見る。赤い双眸が光った。


「グワー!」


 ベテルギウスは大きく口を開け、脅すような咆哮をあげた。咆哮が辺り一帯の空気を震わせ、その空気がピリピリと、リルドの顔や手の肌に電気のような刺激を与えた。

 リゲルが水を吐くのを止めて首を持ち上げる。竜の体は再び百八十度回転し、リルド達の方を向いた。二つの頭がリルド達の方を向いた。リゲルもベテルギウス同様、その青い目を光らせている。二頭は怒ると威嚇のためにそう変化する。

 咆哮をあげた口を閉じず、ベテルギウスはそのままリルド達に向かって火を噴いた。


「おっと」


 リルドはそう言って、ベテルギウスの吐いた炎を飛び退いて避けた。ショウヤとトミイもリルド同様に飛び退いて逃げる。三人は花畑の中から、土の部分に十五メートルほど押し戻される形となった。

 白い花の境界線の向こうに三人が出されると、竜は再び体を百八十度回転させ、リゲルが今度は別のオニモグラの穴に水を注ぎ始めた。リルド達は再び花畑に足を踏み入れる。

 先程同様、ベテルギウスだけが首を捻りリルド達を睨む。リゲルは水を吐くのをやめて首を持ち上げた。竜は再度リルド達の方へ体を向けたが、その時、浮いている体の位置を少し移動させた。ベテルギウスがリルド達を睨み、リゲルがオニモグラの穴に水を吐ける、そんな位置に移動したのだ。リゲルのそばには網から最後に飛び出したオニモグラが開けた、三つ目の穴がある。リゲルはその穴に水を吐き出し始めた。


「グワー」


 ベテルギウスが咆哮をあげながら、リルド達に向かって大きく口を開ける。しかし脅すだけで火は吐かない。リルドはその理由を知っていた。今、竜達は繁殖期である。当然、竜の一種であるギグードラゴンも繁殖期であった。この夫婦はヒスイの花畑のどこかを借りて巣を作り、卵を産み子育てするつもりだろう。そして卵を産んでしまうまでギグードラゴンは体に栄養を蓄えるために、同時攻撃ができなくなるのだ。雌が水を吐いている間は雄が攻撃できない、雄が炎を吐いている間は雌が水を吐けないといった具合に。

 なので雌が水を吐いている今、雄は火を噴けない。リルド達を睨むしかないのだ。リゲルが水を吐くのをやめた。と同時にベテルギウスがリルド達に火炎放射を浴びせる。リルドは先程のようには退かず、上空に飛んだ。ショウヤは竜の体の右側に回り込む形で、トミイは左側に回り込む形で炎を避ける。リルドは竜の背中、二枚ある羽のつけ根あたりを右足で踏むとそのまま勢いをつけてジャンプし、竜の後ろの花畑に着地した。


「ガーッ!」


 ベテルギウスは一旦天を仰いで吠える。リルドに踏まれたことを怒っているのかもしれない。ベテルギウスが火を吐き終えたそのタイミングで、リゲルがオニモグラの穴に水を吐き出した。ベテルギウスは左側にいるトミイに向かって首を回す。それを見計らったかのようにリゲルが水を吐くのをやめ、ベテルギウスがトミイに向けて火を噴いた。トミイはリルドの方へ逃げる。それを追うように首を回し、ベテルギウスは火を吐き続けた。しかしトミイはすばしこい。竜の首の動きはゆっくりで、とてもトミイの動きに追いつけそうもない。


 一方のショウヤは、オニモグラの穴に向かって首を垂らしているリゲルの頭の上に飛び乗った。そしてそのまま坂道となったリゲルの首の上を駆け上がる。ショウヤはリゲルの首の付け根付近まで上がると、そこを蹴って上空に飛び上がる。ベテルギウスは丁度トミイを追っている。ベテルギウスの首の真後ろになるショウヤの姿は、ベテルギウスからは見えないか見えづらいはずだ。ショウヤは手に持つ剣を頭上で両手に持ち直し、逆手で構える。そして自分の体重ごと、剣でベテルギウスの首を突いた。


「うわ!」


 ショウヤの声とともにショウヤの剣は、ベテルギウスに当たった剣先から柄に向けて順々にひびが入り、粉々に砕けていった。粉砕された金属の欠片が四方に飛び散り、ショウヤの握った両手の中には柄のみが残る。ショウヤは柄を花畑に放り出すと同時にベテルギウスの首を右足で蹴って上空に飛び、そこで体を一回転させリルドの横に着地した。


「やっぱり硬いぜ。手がジンジンする」


 ショウヤが両手の平を上にして広げて、それを見ながら言った。



読んでくださってありがとうございました。

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