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36.口座振り込み確認できました

 リクを川に沈めようとしたアンを、チャンスがかわいそうなどと思うはずがない。キースからアンの悲惨な近況を聞いて、きっとチャンスは気分がいいのだろう。


「その流れでサラの動向も入ってきて」


 キースはサラの名前を出した。エドに狙われる笹本の味方をするために、笹本に接近するサラについて、リクはできるだけ情報が欲しかった。話をよく聞かなければ。


「サラはロバート様とリリー様に日本の大学へ行きたいと、希望を伝えてきたそうだ。日本人との結婚も考えたいと」

「え? 以前笹本にはアメリカに帰りたいって……」

「希望通りアメリカに戻ったはいいが、すぐにサラの元に激高したケイティが現れた。そしてサラと両親をこれでもかと罵倒。サラはケイティから、不出来な頭を暗示で真面にしてやると言われてしまい、暗示をかけられたくないサラはケイティに泣いて謝った。ケイティは頭を弄るのはやめたが、代わりに、『次はない。次に私を怒らせたら一発で殺す』と言い捨てて帰ったらしい」

「妹に対して、こ、殺すって、なんか凄いな」

「それで次はないと言われたサラは、アメリカは恐ろしい場所だと悟って日本に逃げ込みたくなって、進学は日本の大学を選んだらしい。笹本に連絡を取っているのも、のちのち日本へ戻るための布石かもしれん。それと日本人との結婚の承諾も、ケイティを見返すためだろうと言われている。日本人との間に優秀な子供が生まれれば、一族内でのサラの立場も上がるから」

「はぁ~、またそこか」


 リクは思わず声に出して溜息をついた。


「お父さんは知っているよな、その話。それなのに笹本に何も教えず黙っているなんて、巻き込まれている笹本が気の毒だ。今度会ったら今のサラの話をちゃんと話さないと」

「そうしてやったら笹本は、自らサラから離れそうか?」


 とキースに聞かれ、リクは無理かもしれないと思った。笹本はもうかなり、美少女サラに惹かれている。


「無理そうな気がする。あ~、笹本もかわいい子とは縁が切れないか」


 リクがそう答え、その晩のスカイプはそれで終了した。





 それから数日が過ぎた。あれ以降、雨宮と田端は現れていない。家で大人しく勉強でもしているのだろうか。川原も現れないし何も言ってこない。まだ怒っているのだろうか。笹本だけは偶に英語の勉強をしに現れる。サラの話を教えたら、ぎょっとした顔をしたが「ウ~」と唸るだけで、それ以上は何も言わなかった。きっとサラと連絡を取るのをやめたくないのだろう。キースの指摘通り言っても無駄だった。

 

 その晩リクはもう寝ようと、チャンスを連れて自分の部屋に戻った。今の時刻は午後十一時半。今日も朝から広瀬にたっぷり絞られた。疲れた。もう眠りたい。


「あ、リク様、報告です。リク様の口座に雨宮からの入金が、今日の午後確認できました」

「入金? 入金ってなんの……ま、まさか! あれか!」


 リクは、あの日のまだ片付いていない問題を思い出し、一気に眠気が吹っ飛んだ。まずい。大事なことなのにすっかり忘れていた。あのまま放置してしまっていた。

 確か雨宮はチャンスに、島村と白鳥と橋本の住所を聞くと言っていた。そして慌ててチャンスに連絡しようとしたリクを広瀬が止めた。広瀬からは今更チャンスに連絡してももう遅いと言われ、リクはチャンスに三人の住所を雨宮に教えるなと連絡しなかった。


 その後、雨宮は会ったチャンスに礼を言っていた。それでリクは雨宮にやられたと確信したのだが、アリスが現れあの騒ぎ。結局リクは、雨宮が住所を調べるといった話をすっかり忘れてしまった。

 あの日アリスが帰ったあと、笹本は休憩時に雨宮の『資料』を読んだ。雨宮は『ごめんな、笹本。お前をDVD持ち出した時誘ってやれなくて。ほらさ、色々とあんだろ? 俺らの秘密って』と言っていた。それから、『実はあの時ダビングした映像から、チャンスにリマスター映像を作ってもらったんだ。チャンスも技術経験したいってノリノリでさ。二十一世紀の技術は最高だぞ。それ今度貸そうか?』と言ったが、笹本は首をブンブン振った。リクはチャンスが雨宮の頼みで、そんなものを作っていたとは知らなかった。


『リク様もお好きだし喜ぶぞと言ってチャンスに頼んだら、チャンスもいい経験になるしリク様のためにもなるしと、喜んでやってくれた』


 知っていたら止めたのにというリクの考えはバレバレのようで、雨宮はリクの顔を見てそう言ってニヤリと笑った。


『それよりもさ、雨宮お前、子供の頃、ガチで犬を殺そうと思ったのか?』


 雨宮を見てそう言った笹本の顔色は、すこぶる悪かった。


『たかが小一の悪ガキの浅はかな考えだぞ。実際、親に止められたんだし。今更それって問題か?』


 雨宮は無表情で言う。


『問題って……たとえ子供でも生き物虐待は、普通考えないだろう、人として』


 笹本は尚も言うが、雨宮には何も響いていなさそうだ。無表情のままだ。


『人としての成長過程で、やっていいことと悪いことの区別はつくようになったんだ。生き物は殺さない。でも実際問題、怯えてる犬がかわいそうとか説明されてもさ、なんも感じないし、俺に牙を剥く犬なんてこの世から消えて欲しい』


 雨宮は淡々と言う。リクは思った。どこかおかしいと。


『それよりもさ、あの母親の絶叫がウゼエ』


 雨宮がそう言い加えると、『あいつやべえ、絶対やべえ』と笹本がリクの方を見て言った。笹本の怯えの混じった目は、リクに雨宮の異常性に対する同意を求めている。リクは笹本が気の毒だ。リクは笹本の味方だと言って、必死で笹本を慰めた。広瀬も『俺も、島村も白鳥も橋本も味方だから』と言っていた。笹本はボソッと『心強い』と言ったが、表情は冴えなかった。


 そんなこんなで、今日こうしてチャンスの口から雨宮という名前が出るまで、リクはあの重要な話をすっかり忘れていた。あの日、広瀬に断られた雨宮が次に取ろうとした行動の話を。

 そしてあれからもう数日が経ってしまっているから、雨宮はとっくに三人の家に押しかけて、代筆バイトを頼んでいるだろう。でも雨宮を嫌うあの三人が、金で雨宮の代筆をするとは思えない。多分、訪問してもインターホン越しで門前払い。家の中にさえ入れてもらえないだろう。仮に雨宮が得意の能力で首尾よく家の中に入り込めて、あの資料を読んでもらえたとしても、三人の反応は広瀬と同じだろう。

 しかし、三人に最も近い広瀬がリクに何も言ってこない。三人も雨宮について連絡を寄越さない。でもチャンスは入金を確認済みと言った。それなら雨宮は三人の住所を手に入れて、とっくに何かしでかしているはずなのだが。



読んでくださってありがとうございました。

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