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31.ねずみ花火で嫌がらせ

「「ネ・ズ・ミ! ネ・ズ・ミ!」」


 雨宮と田端は弾む声を合わせて言い、ねずみ花火を一つずつ右手で摘まんで、その手を頭上に挙げる。


「聖域から出ないように、駐車場と道路の境目から投げるぞ。花火が聖域から出るとまずい。道路に出そうになったら中へ蹴り込め」


 雨宮がそう指示した。

 浴衣のエドは玄関前にいる。その右側に川原。左側にチャンスの入った鍋を持った笹本が立っていた。リクはねずみ花火に火を点けるために道路側に立った。リクの両側には広瀬と雨宮と田端。リクの指先に三人がねずみ花火を近づけた。最初に広瀬の花火が火花を噴く。次いで雨宮と田端の花火がほぼ同時に火花を噴いた。広瀬は花火を軽く駐車場内に放ったが、雨宮と田端は申し合わせたように川原に投げつけた。


 川原とて、戦闘は不得意でも一族の一人。すぐに反応してエドの反対側によけて、リク達の方へ移動した。直前まで川原の立っていた所に、ねずみ花火二個がポトリと落ちる。そして狂ったように暴れ始めた。エドは花火が地面に落ちたと同時に動き、広瀬の投げた花火に巻き込まれないように立ち回り、リク達の方へスルスルと逃げていた。すぐに三つの花火は火花を撒き散らし、駐車場内を駆け回り始めた。


 取り残された笹本が「あわわわ」と言いながら後ろに下がる。花火の暴れ方が不規則で激しく、笹本はリク達の方へ来られない。下がり続ける笹本はとうとう玄関前に追いつめられた。


「おい、お前ら、助けろよ!」


 笹本がそう叫んだ瞬間、三つの花火のうちの一つの動きが止まり、パンっと破裂した。それに続くように二つ目、三つ目と破裂する。笹本はチャンスの入った鍋をギュッと抱きしめたまま固まり、目の前で破裂したそれを見ていた。


「はあ~」


 笹本はそこでやっと息をついて体の力を抜いた。


「何すんだよ! 俺に恨みでもあんのかよ!」


 笹本が雨宮と田端を睨み文句を言うが、投げた二人は笑っている。


「ワリィ、ワリィ。お前を狙ったんじゃないんだ」


 田端が笑うのをやめて言った。


「ちょっと川原をからかおうと思ったんだ。川原は一族だから、ねずみ花火に巻き込まれることはないだろうと思って投げつけたんだ。そしたら川原はちゃんと逃げて、笹本が動けなくなった。考えてみればこの中で一番どんくさいの、笹本だもんな。忘れてた」


 次は雨宮が笑いを止めて言う。


「どうせ俺が、一番動きが鈍いだろうよ。お前らが特別なんだから」


 笹本はそう言いながらリク達のそばへやってきた。


「そこにいる奴は、ねずみ花火が道路に出ないように見張らなきゃならないんだぞ。笹本、暴れる花火を家の方向に蹴り込めるのか?」


 雨宮に言われ、笹本は嫌そうな顔をする。


「じゃあ、どこで見ろと?」

「笹本君のために花火は一つずつ火を点けよう。それなら逃げやすいだろう。それにここは狭いしね」


 笹本が少し怒ったような声で言うと、エドがそう提案した。「迫力はなくなるが、仕方ねえよな」と、田端が同意しその流れになった。


「笹本、花火の動きにフォーカスしたいので、あまり動かないでください。火傷くらいしても大丈夫です。川原が治します」


 笹本が抱えるチャンスが言った。笹本は鼻の上に皺を作って、もとから嫌そうな表情をしていた顔を更に酷くする。


「一旦は火傷して熱い思いしろってことだろ? チャンス、お前は鬼か。無茶言うなよ」


 笹本は文句を言うと「誰かチャンスを持ってくれ」と続けて言い、チャンスはエドが持つことになった。


「そういや笹本ってさ、モテ期到来なんだって?」


 ねずみ花火をする順番を決めるためのジャンケンをしながら雨宮が言った。


「モテ期って?」


 笹本が尋ねた。


「知らんのか?」


 と田端。リクも笹本のモテ期がどんな話なのかわからない。


「一族の女どもだ。エドおじさんは聞いてるでしょ?」


 雨宮はそう言ってエドを見る。


「ああ、まぁ、ねぇ」


 エドはどこか引っかかるような曖昧な返事をした。リクは気になったが、とりあえずジャンケンが終わって順番が決まった。広瀬、田端、雨宮、笹本の順だ。チャンスを預けた笹本も、花火をしたいとジャンケンに加わっていた。リクは点火係、川原はただ見物だ。


「ちょっと待ってくれよ、このままじゃ気持ち悪いよ、教えてくれ。モテ期ってなんだ?」


 広瀬と雨宮と田端が玄関前に置いてある花火を取りにゾロゾロ行こうとすると、笹本がそれを止めた。


「ああ。エドおじさんが日本人の高校生男子を一人手に入れたって一族内に広めちゃったから、能力低い系の十代の女子どもが騒いでいるんだよ」


 雨宮はそう言うだけ言うと、花火のある所へ向かう。笹本は目を見開いて、信じられないものを見るかのような目つきでエドを見た。エドは肩をすくめる。


「だって本国の女の子達が、『エドおじさん日本に滞在しているなら、もう候補の一人や二人見つけているでしょ』って言って、しょっちゅう連絡寄越すんだ。それで『将来性のある子が一人いるよ、でもその子はサラ達と高校で一緒だったから、もうサラと仲がいいみたいだよ』って言ったら、そこから大騒ぎで。サラはロバートに睨まれているのに、日本にいたってだけで第一候補なんて認められない。希望者全員に見合いのチャンスを与えろってね」


 エドは言ってからニコニコしだした。


「嘘だろ?」


 そう言ったあとの笹本の口は半開きだ。唖然としているのだろう。


「笹本ってサラと付き合ってんだろ?」


 さりげなく雨宮が聞いた。



読んでくださってありがとうございました。

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