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10.父親達のお宝

 後日、川原邸でポールおじさんの、田端邸でジョージおじさんのお宝を探して、俺は見事に発見した。本、石、ディスク。三人とも、お宝に大差ない。勝手に持ち出して父親のお宝と同じように、皆で楽しんだ。


 で、ディスクの中身をざっと紹介。

 俺の父親の好みは、『これはスポーツと同じだ! 明るく楽しく!』。場所も真昼間のアウトドアとか。

 八十年代? 九十年代? よくわからんが、二十世紀終わりを思わせるメイクやファッションの、笑顔の眩しいアメリカンな美女が、英語で誘ってくれちゃう系中心。海外のものばかりでどれもそのままでは、税関でアウトとなる映像だ。


 ポールおじさんは三人の中で、最もDVDの枚数が多い。どのディスク表面にも『ポール選映画集・〇〇〇の名作達』というタイトルが書かれ(〇〇〇には九〇から九二年とか、九三から九五年とか入る)、タイトルの後ろにディスク毎に1、2、3……と番号が振られていて、こまめに分類。でもどれも映画じゃねーよ。中身は当然魅惑のイ・ホ・ウ。この人よくここまで集めたな。


 中でも一番驚いたのが、ジョージおじさんの違法で異常なDVD。

 そのDVDは、『一九七八~一九八〇 アリゾナ旅行・フロリダ旅行・カナダ旅行 写真』と書かれたシールの貼られた、鍵付き工具入れボックスのような箱の底に置かれていた。無造作に突っ込まれている旅行写真の山の下の不審な底板をどけたその下に。

 ジョージおじさんの手書きらしい、きったない字の日本語で書かれた、『昭和レトロ・連れ込み旅館コレクション』『ひなびた温泉宿シリーズ』ってタイトルのシールが、DVDの透明なケースに貼られていた。嫌でも目に飛び込んでくるその文字列を認識した俺達は、まずそのタイトルにドン引いて目が点になった。再生して見た内容のマニアックさもこの三人の中でダントツ。

 あの真面目なジョージおじさんが? こういうのが好き? えええっ!





 そして。俺はまた捕まった。キャビネットを漁り始めてから半年だ。

 それは致命的なミスを犯してしまったからだった。


 俺はキャビネットから持ち出したDVDのケースを元に戻す時の、順番を間違えた。引き出し奥に隠されたDVDケースはタイトルも何もなかったが、No.1・No.2・No.3と番号の小さなシールが貼られていた。父親は用心のため、DVDをNo.1・No.3・No.2と、3と2の順番を入れ替えて保管していた。しかし俺は戻す時に、番号の順番通りに重ねて入れてしまった。父親はある日それに気づき、俺が侵入していると確信したのだった。クソ、ここにもトラップか。


 なぜ父親は母親ではなく俺だと確信したのか。それは母親を除外できる、女特有の馬鹿馬鹿しい理由があるからだった。母親は父親と結婚した時から、当時でかれこれ二十年、父親の大事なビデオやDVDや雑誌を見つけると、その後の母親の行動は常に同じだった。

 ゴミ袋に詰めたりビニール紐で縛ったりして、父親には無断で、収集日にゴミ集積所に置きに行くのだ。そう、母親は独断で断捨離するのだった。

 母親の言い分は『この家に全く必要ない物品だから』だった。あとから処分に気づいた父親はなん度か涙したらしい。それでもめげずに父親は入手し隠す。そして発見されては無断で捨てられる。


 そんな母親が不審なDVDを見つけて、元あった場所に戻してくれるはずがない。中身を確認したら即行、清掃車の餌だ。DVDを戻すなんて俺しかしそうもない。


 父親の本気を見たかった俺としてはちょっと残念だが、父親は今回の俺の侵入・持ち出しをあまり怒らなかった。未成年が見るものではないと注意はされたので、『いや、未成年だって見たいだろう』と言ったら黙られた。父親も、俺ら思春期男子の女体に対するピュアな探究心が凄くよくわかるのだろう。

 だがすぐに話題は変わって、母親には黙っていてくれと頼まれた。そんなものが家の中にあると知られたら、大騒ぎになるからだと。どんな状況になるかというと、母親は絶叫ではなく咆哮を上げて、ゴミ袋の口を広げ親の敵のようにブツをぶっこむらしい。


『HDDとかパソコンとかに保存しないの?』

『当然してあるがそれだけに頼るのは危険だ。見つかったらボタン一押しで全削除できるし、楓子からは知らないと惚けられたが、やられたと思われるデータ紛失もある』

『外に保管したら? データ保管サービスとかは?』

『引き落としで利用料がバレたらアウトだ。楓子は刀関連の巨額の出費はさほど気にしないのに、それ以外では一ドルでも見逃してくれない。不審な出費としてとことん追及される。だから大事なものは自分でできる限りの、多様なバックアップが必要なんだ。隠しDVDはその一つだ』


 それならば。


『母親に捨てないように、削除しないように、暗示かければ?』


 それが最も簡単なことじゃないか。なぜ、父親はそれをしないのか。


『それが女どもの怖いところだ』


 父親はゆっくりと、力なく首を振った。


『楓子はな、真知子さんや華さんにお願いしているんだ。「ニックに対する私の言動から棘がなくなったら、それはニックの暗示のせいだから。その時は男どもに報復して」って。それにあいつら時々顔を合わせて、互いに暗示がかけられていないか確認し合っているし』

『それなら、真知子おばさんや華おばさんにも、全員纏めて暗示をかければいいのに』

『お前は甘いな』


 父親はまた首を振った。


『例えばだ。女をひとり潰そうと思っても、そこからネットワークが四方に分かれているから、その先の四人も潰さねばならない。更にそこから四方に分かれ……女どものネットワークは無数に広がりキリがない。ネットワークには一般人ではない、暗示かけるのに手強い一族の女達も、人の弱みを握りたいから積極的に参加している。そして俺らを陥れるための、彼女らの結束は固い。さらに俺が暗示をかけた理由が、エロ動画を奥さんに処分されないためなんて広まったら……というかあいつら絶対に喜んで、軽蔑の笑い浮かべて広めるから、俺としてはそんなみっともない話を一族達に知られたくない。一族には俺を尊敬している奴が沢山いるんだ。俺の一族内での地位を想像してみてくれ。翔にならわかるだろう。でも楓子達は俺の立場なんて微塵も考えてくれない』


 いや、わからん。

 だから女は面倒臭いのだ。そして父親のくだらないプライド。こんな奴を尊敬しているのは、きっと強さにしか興味のない、頭の中が(いくさ)で一杯のイカれた奴らだろう。


 ただ、刀に関してだけは、部屋の外に無断で持ち出すなと言われた。それをやったら絶対に許さないと。それを聞いても俺は全くビビらなかった。俺は逆に、本気で怒った父親が見てみたかったから。でもせっかく持ち出すなら、ただ持ち出すだけではつまらない。できれば戦闘で使いたい。更にできれば、強い奴とやり合いたい。


 刀を持ち出す必要があるような事態が起きないかなと、期待もした。でもそう起きるものでもない。俺はその機会を待ち続けるしかなかった。


 俺が捕まった翌週、刀部屋から全DVDが消えた。父親はどこに持って行ったのだろうか。この二十一世紀に、なんであんなものをそこまで大事に保管しているのだろうとも思ったが、手に入れるのに苦労したのかもしれないし、父親にとっては傑作であるのかもしれないし、若かりし頃の思い出のビデオなのかもしれない。でも俺はダビングして一通り見終わったし、VHSや八ミリテープからコピーしたらしき超画質の悪いDVDなどもうどうでもいい。


 そういえばあとから確認したんだが、ポールおじさんとジョージおじさんのお宝の中のDVDのみが、保管場所から消えていた。大人の男どもは、一族以外の者に見られてはまずい内容の本よりも、不思議な力を持つ石よりも、エロDVDの方が大事らしい。本と石は俺達が見つけた隠し場所にそのまま放置だ。全く呆れる。


 DVDが一斉に消えたということは、俺の父親から二人に連絡がいった可能性が高い。俺が発見している可能性があるから場所を移した方がいいと。折角発見したお宝の一部は再び隠された。でも、それはそれで面白い。DVD自体には興味は失せたが、また探索ができるのだ。また俺の能力の訓練ができる。そう考えただけで、俺は楽しくて仕方がない。


 おじさん達は、できるだけ発見しづらい場所に移すがいい。俺は探す。とことん探す。ハードルが高ければ高いほど、俺の中の闘志は一層大きく燃え上がるのだから。


 以上。



読んでくださってありがとうございました。

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