悪役令嬢とは
千代丸と出会ったその日の夜、母のスマホでゲームをすると見せつつ調べものをしていた。調べた内容は『悪役令嬢』『攻略対象』とは何かだ。
検索した結果、様々な漫画や小説が引っかかった。
それらを軽く読んでいくうちに、おそらくこういう意味なのだろうという認識ができた。
『悪役令嬢』とは身分が高く若い女性が、物語上悪として立ち振舞うものをいう。古くからあるキャラクター類型の一種だと理解した。シンデレラを虐める継姉や前世の世界であった『お蝶夫人』などの性格を酷く醜悪なものにすればそれに当たると思う。
また、『攻略対象』についてはゲームにおけるそれが一番近しい意味だと感じた。ゲームで登場するキャラ達と仲を深めることを攻略と呼び、その対象となるキャラのことを攻略対象と呼ぶ。ギャルゲー、乙女ゲーム、それぞれでよく使われている用語らしい。
この二つの意味を澪たちに当てはめると、澪と未希は『悪役令嬢』。悟は『攻略対象』となる。澪と未希が『攻略対象』となる可能性も捨てきれないが、その場合において悟が役無しになってしまうため、ないと考えられる。
ここまでの情報をまとめると、この世界は乙女ゲームの世界だと推測できる。
どのようなゲームなのか、それを知っているのは千代丸ただ一人。
その千代丸が言うには、僕の、『二宮小太郎』という存在はゲーム内に存在しないはずだった。千代丸が知らないだけという可能性もある。乙女ゲームにはファンディスクと呼ばれる本編後の話や本編で語られなかった設定が語られるゲームが発売されることもある。それに出てくる登場人物である可能性は捨てきれない。
ここで母から「そろそろ寝なさい」と言われたので、布団に入る。
布団の暖かい感覚で思考がまどろむ中、頭を回転させる。
世界の運命と千代丸は言っていた。
運命――ゲームの世界における運命という言葉には非常に重い意味を持つ。
セカイ系と呼ばれるものがある。
主人公が世界の危機と関わるジャンルだ。偶然とも運命とも呼べる出来事の連続で主人公は日常生活から非日常に迷い込み、世界の危機を救うかヒロインの命を救うかを選択しなければならない、というのが話の大まかなテンプレートとなる。
もし、世界がそのような展開になるのならば僕は世界の危機、ヒロインの命、どちらも救う鍵になるのかもしれない。
これが杞憂でただのラブコメな日常に終始する作品という線もある。
現状、わからないことばかりゆえこれ以上は考えても無駄だと思った。
だから一先ず、精一杯に君とのたわいもない日々を続けて行こうとした。
物語は、千代丸が合流する高校からが本番だろう。ギャルゲー、乙女ゲーム、どちらも高校ものが多いのでそこは確定だろう。
そう考えた僕は、アドベンチャーゲームというものに対する理解が低かった。
調べた内容で、知った気になっていた。
物事には起因と結末が存在する。
物語の本番となる高校までには多くの起因が存在することになる。
最初の起因はすぐそこにあった。