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8/14

実は昔に出会っていた

 その日は地域コミュニティの運動会だった。


 この世界では亜人という別種族が存在するので種族間の関わりが希薄にならないように、定期的に地域で催しが開催される。たいていは飲み会や飲み会や飲み会など、家庭に居場所のないおじさんの集まりが主だ。年に数回だけ、このようなちゃんとした催しものが開催される。


 今回の催しものは運動会だった。


 基本的に五十メートル走などのガチンコな身体能力勝負は年代別に分けられて行われる。玉入れなどレクリエーション要素は年齢で分け隔てない。この催しものの特色としては両方、人間と亜人を分けないで行われる。


 ケンタウロスなど、身体的に運動が得意な種族が有利過ぎる。


 そう思っていた。


 よくよく考えれば中年男性。それも年がら年中飲み会を開いているおじさんが運動するのだ。人間、亜人関係なくまともに走れるわけがない。


 ケンタウロスのおじさんの腹はでっぷりと膨らんでいた。人間部分、馬の部分どちらも脂肪を蓄え、およそ僕が前世で想像していたケンタウロスとはかけ離れたものだった。そこまで太っていると走るのすらおぼつかない。同じような腹をした人間のおじさんには負けはしないが、普段からジムに通って鍛えていますよと言いたげボディをしたイケおじには完敗を喫していた。


 これを見ていた中年男性たちは大いに盛り上がり、走り終えたイケおじもケンタウロスのおじさんを呼び寄せて乾杯していた。運動会の最中ということも忘れて酒盛りしていた。


 種族間の交流がメインのため、趣旨には沿っているけど、どうなのだろう。


 そう思っていたら放送で注意されていた。


「ああいう大人にはなりたくないね」


 同じく運動会に参加していた悟が言った。


「そう? 楽しそうだから別にいいと思うけど?」


「あら、小太郎は案外社交的ですのね」と未希。


「小太郎は誰とでも仲良くやれるからなー。うちの組ってなにかあったら小太郎引っ張ってくし」


 僕が便利屋扱いされていると言及したのは澪だった。


「……君たちが起こした問題がほとんどだけどね」


 悟が苦言を呈すも、二人は素知らぬフリをするばかりだった。


「澪、未希、二人ともそろそろ出番じゃないの?」


 僕がそう言うと「いけないいけない」とそそくさと逃げて行った。


「小太郎くんは二人に文句言わないの?」


「これぐらいのことなら別にどうってことないさ」


 生前、仕事で無茶振りを散々されてきた身としては、これぐらいのことは可愛げがあるうちに入る。なにより責任を取らなくていい。失敗しても逆に「大変だったでしょう」と褒められる。


「……そう。小太郎くんがいいならそれでいいよ。僕もちょっとトイレに行ってくる」


 一人きりになり、親のところに戻る気にもなれず、その場で騎馬戦を見ていた。ケンタウロスに跨り、文字通り騎馬になっていた組があった。それで問題ないのかと思いもしたが盛り上がっているので問題はないのだろう。


「やあ、一人なら少しわたしと話さないかい?」


 話しかけてきたのは同年代の、おそらく未就学児と思われる幼女だった。栗色のロングヘアを流し、猫のようにぱっちりとした目をしていた。将来は美人であることが決まっているかのような子だった。


「名前はなんていうの?」


「ん、了承したとみるよ。わたしは千代丸春香。千代丸が苗字だよ。変わってるだろう」


 その子供の第一印象は変な子供に絡まれた、だった。


「失礼なことを考えているだろう」


 やけに言い回しが大人びており、子供らしからぬ子供は僕の感情を読んでいた。


「もう少し大人になれば違和感もなくなるさ。ところで君の名前をまだ聞いていないのだけど」


「二宮小五郎」


「……二宮……小五郎? 知らないなぁ」


「初対面だよ。知らなくて当然じゃないか」


「当然じゃないよ。篠原澪、三原未希、睦月悟の世界は三人だけで完結してるはずだった。君の存在は語られていない。もしかしたらファンディスクで語られた人物かもしれないけれど、あいにくわたしはそこまでのファンではなかったからね」


「ファンディスク?」


「……ふむ、君はわたし以上にこの世界のことを知らないみたいだね。いや、もしかすると知ってて当然の方が希少なのかもしれないね」


「人が少ない場所で話さない?」


 千代丸の言い方からすると、それは僕がこの世界に生まれたことと意味があるようだった。生まれ変わりを人に話すにはリスクがあると考えていた。殺し殺されなどといった物騒なものまではいかないだろう。けれど、親には気味悪がられ、子の中ではいじめの対象にされる可能性は否定できない。


 そう考えると、わざわざ話すことではない。


 しかし、千代丸は何かを知っていた。


 知っておくことで回避できる可能性が生まれる。


 ならば知っておくべきだろう。


「ああ、聡明なようで安心したよ」


 僕らはグラウンドから少し離れた木の影に移動した。視線を遮るものは木しかないが、大人たちは自分の子供たちの応援や酒盛りに夢中のため近くにいない。暇を持て余した子供が周囲を走り回ってはいるが僕らの会話に聞き耳を立ててはいなかった。


「千代丸。君は何者なんだ」


 それに対し千代丸は指を振り、ちっちっち、と舌を鳴らす。


「春香。親しみを込めて呼んでくれたまえ」


「春香」


 ぶっきらぼうに呼ぶ。


「君は親しみを抱くと扱いが雑になるタイプかい? それはそれで味があるから嫌いではないよ。おおっと、イライラしないでくれないか。これは性分でね。どうしても治らないのだ。――生前からね」


 やはり、というべきなのだろう。


 千代丸は僕と同じ生まれ変わりを果たした一人だった。それも僕よりも訳知りな。


「教えてくれないか。この世界のことについて」


 目の前の少女は微笑む。


「嫌だね。もしかすると君は敵になるかもしれないじゃないか」


「敵? なぜ僕らが争わなければならないんだ」


「んーそうだね。これぐらいは教えてあげないと駄目かな。澪と未希、悟がいるだろう? 女性は悪役令嬢に、悟は攻略対象になる。君はイレギュラーだ。本来いないはずの存在になる。バグみたいなものだね。本当、本来の意味でのバグだ。君は君が望む望まないに関わらず世界の運命を決める一因となってしまった。これを覚えて日々を過ごせば問題ないさ。君は君が望むように、わたしはわたしが望むように生きる」


 言うだけ言ったら千代丸はグラウンドの方に戻ろうとする。


 僕は「千代丸」と呼び止める。


「教えてくれてありがとう。最後に一つ。教えないと駄目になることってなんだ?」


「信頼関係とは一定のルール下でこそ発揮されるものなんだ。どんな悪人にでもルールに従わないという最低の信頼を勝ち取ることができる。だからルール自体を理解できていない人は、信頼するしない以前の話になる。だから話したまでだよ」


 僕が返答をする前に千代丸は僕のおでこに痛くないデコピンを喰らわせる。


「親しみを込めて~」


 返答を求めてる千代丸に渋々「春香」と答えた。


 その後、僕らは分かれた。春香もとい千代丸が言うには高校は同じとこに入ることになるとのこと。それまでに僕らは何度か会う機会があるという。


 僕はそれを信じ、それ以上は今は何も聞かなかった。


 元の場所に戻ると澪と未希が、活躍を見なかったことで責められていた。


 僕も悟と並んで正座をし、叱られることになった。

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