僕と君が生まれた
僕は極々ありふれた一般家庭に生を受けた。
お金持ちでもなければ、貧乏でもない。血筋に恵まれた訳ではなければ、先祖が迫害された由来も持たない。海外とのハーフでもなければ、亜人とのハーフでもない。親がヒーローでなければ、ヴィランでもない。
極々ありふれた一般家庭に生まれた。
そんな僕だからこそ、運動神経は普通、頭脳指数も常識の範囲内、顔の作りだって整い過ぎない程度には整っている程度。超能力はもちろん持っていない。
当たり前な人間の範疇に収まる男として僕は生まれた。
唯一、他の人と違う点は自我を持つのが他の子よりも早かったことだと思う。ここでいう自我とは言葉を理解して、自己の考えを持つことができることを指す。前世の記憶があることと何か関連があるのかもしれないぐらいは考えたけれど、記憶と自我の関連性が薄いので断言は避けたい。
もしかすると皆同じぐらいに自我を持っているのかもしれないが「僕赤ん坊の頃の記憶あるよー」なんて会話、なにか特別なキッカケがなければすることはないので不明である。唯一僕が特別と思えることなので、不明のままにしておきたいと思う。
そういえば僕の名前をまだ記していなかった。僕の名前は二宮小五郎。妙に響きが古めかしいのは父の趣味らしい。普通から抜け出したいコンプレックスが僕に名前として発現したみたいだ。本来はより古風で難解な名前になる予定だった。案の一つではなんとか座右衛門があったそうだ。父方親族、母方親族が父を囲んで説教したという笑い話をよく聞かされた。小五郎はせめてもの情けで、偉人から拝借を許可されたという。
話を戻そう。
我が家のお隣さんにも赤ん坊がいた。
その赤ん坊が君だった。
僕らが同い年ということもあり、親がよく交流していた。君はその当時は好奇心旺盛で怖いもの知らずで、自分から動き回る子だった。最初は僕を見て泣きじゃくっていたけれど、僕に慣れたら一目見るなりハイハイで近づいてはタックルをかましてくる当たり屋行為をされていた。
それだけならまだしも唾をつけられた。人に取られないよう前もって手を付けておくという意味ではなく、文字通り唾をつけられた。涎の垂れ流しだ。
逃げようと思っても君は無尽蔵の体力で追いかけてくる。
親たちに助けを求めても微笑ましいと笑うだけで何もしてくれなかった。
この時から困った時、親に頼らなくなった気がする。
当時は君の方が力関係としては上だっただろう。
それが、それから数年も経たず逆転する時が来るとは僕も親も思わなかっただろう。
『未就学児編』は毎日23時更新します。
だいたいGWいっぱいぐらいに終わり、『小学生編』に移ります。