短編小説 こんな話をきいた「足音」
短編小説 こんな話を聞いた 「足音」
ガタガタガタ…
相変わらず、このシートは、乗り心地が悪い。
ファーストクラスとは言わないが、せめて、エコノミーぐらいの乗り心地にして欲しい。
よく、隊員たちが耐えられるのが不思議でならない。
窓の外は、快晴だ。
南の空を自衛隊機が飛ぶ。
島が見えて来た。
我が社は、年に数回、自衛隊機のメンテナンス指導に、この島へ訪れる。
今回は、私の番だ。
初めての硫黄島、
一見、ただの南国の島にしか見えない。
とても、激しい内戦があったとは…
…昔の事だ。
飛行機は、降りて行く。
「ご苦労様です」
「こんにちは、」
「お世話になります」
「こちらこそ」
私は、基地のゲストルームに案内された。
「こちらです」
隊員がドアを開けてくれた。
中は、質素だが、きちんと清掃されており小綺麗だった。
「今日は、長旅だったので、ゆっくりと休んでください」
「ありがとうございます」
退室する隊員。
「ああ、そう言えば、」
「はい、」
「…やっぱりいいです」
隊員は、去っていった。
少し気がかりだったが、気にせずベッドに横になった。
どのくらい時間が経ったのだろう。
私は妙な汗をかき、目を覚ました。
そして、ポットの水を一杯飲んだ。
2時か、
まだ夜中だ。
たまに飛行機の音が聞こえる。
夜中まで大変だ。
ザッザッザッ、
耳をすましてみる。
ザッザッザッ、
行進している音か、
ザッザッザッ、
練習か?
夜中に?
ザッザッザッ、
だんだん音が近寄ってくる。
ザッザッザッ、
すぐそばまで近寄ってくる。
ザッザッザッ、ザッ
止まった。私の部屋の前だ。
ドンドンドン、
「栗林中将は、おられますか、」
何だ?
部屋を間違えているのか、
ドンドンドン、
「栗林中将は、おられますか」
変だ、
私は覗き穴から、ドアの外を見て見た。
日本兵だ、
戦時中の日本兵だ、
慌てて、ドアの鍵を閉めた。ガチッ、
ドンドンドン、
ガチャ、ガチャ、
ドアの取っ手のが動く。
ドンドンドン、
「栗林中将は、おられますか、」
「山本独立歩兵連隊、ただいま帰還しました」
ドンドンドン、
再び覗き穴を見てみた。
日本兵は、皆、ガリガリに痩せており、血だらけだ。頭の欠けた者、腕の無い者、包帯だらけの者…。
ドンドンドン、
「開けてください」
「栗林中将、」
ガチャガチャガチャ、
ドアの取っ手が激しく動く。
私は、慌てて内線を取り電話をかけた。
「もしもし、本部、もしもし、」
「摺鉢山、玉砕!摺鉢山、玉砕!…」激しい受話器の声、
「何だ、」
受話器を投げ捨てた。
ドンドンドン、
ドンドンドン、
「私は違う、栗林中将じゃない!」
ドンドンドン、
「戦争は、終わったんだ!」
「戦争は、終わったんだ!」
ドンドンドン、
ドンドンドン、…
…気がつくと、私は床に倒れていた。
あれは、夢だったのか?
「おはようございます」
隊員が、私を迎えに来た。
「どうしたんですか、ひどい顔ですよ」
「ああっ、変な夢を見てね、」
「えっ」
隊員の表情が変わった。
「やっぱり…」
「何ですか?」
「すいません、やっぱり伝えとくべきでした」
「この島は、内地から初めての人が来ると、玉砕した日本兵が訪ねて来るんですよ」
「えっ」
「彼らは、まだ戦っているんです、いまだに」
「…」
そして、私は滞在していた間、ドアの前に水の入ったコップを置いた。
せめてもの供養のために。
すると、日本兵は現れなくなった。
硫黄島、激戦の地。