第八話 村の防衛力を高めよう。
急いで魔物の死体を回収した僕等は直ぐに撤退する。
ただし、真っすぐ村に向かうのは避けた。大きく迂回する道を選び村落から離れた場所へと出た。そして敢えて近くの川へと入った。
「冷てぇ。」
「やべぇな。この冷たさ。」
二人の男は冷たいと言いながらも楽しそうだ。
僕とアリアさんは手を繋ぎゆっくりと入った。
ここまでは、敢えて匂いを残し追跡出来る様にした。ここから先の行動は読まれない様にとの判断だ。
「レン君。手を離さないでね?」
「はい。」
二人の空間を作り出してしまったが、後の二人は気にした様子は見せない。
大人の男なのだろうなと思う。
川を渡り切った僕等はそこから消臭魔法を利用して村へと戻る。
これで、かなりの時間は稼げるだろう。
「ここからが、正念場よね?」
「そうだな。どうする?」
「キングが居るという前提でここまでは動いた。この後も森をキッチリ調べる迄は居るという前提で動いた方が良いだろう。村長に万が一の事を伝えておく事と、一人はギルドに戻って、村の護衛と森の捜索を手伝ってもらう様に動きましょう。」
僕の考えを皆は理解してくれた様で、頷いてくれた。
「で、誰がアギドの街へ戻るかですが、パークリーさんにお願いしたいのですが、良いですか?」
「わかった。なら直ぐにでも俺は出よう。馬を一頭使うぜ。」
「はい。お願いします。」
「おし。じゃあ、行ってくる。」
「僕等はパークリーさんが戻ってから再度、森の探索をしましょう。それまでは村で防衛待機です。」
直ぐにパークリーさんは出て行った。
残った僕等三人は、村長さんの所へ向かった。
「なんと?!本当ですか?」
「はい。まだ可能性ですが高いと思われます。ただ間違いなく居る訳では無いので、今ギルドに連絡をしに行っています。」
「そうですか。どうしたら良いでしょうか?」
「直ぐに避難が出来るならして欲しい所です。ただ確証はありません。」
「村から逃げても、追いつかれる可能性もあります。」
村人200人をこの世界で移動させる。
それは普通であれば軍隊を動員し、守りながら移動する。
僕達少数では、安全とは言えない。
「そうですか。村は失いたくありませんし、現状では逃げる判断は出来ませんね。オークの集落が近くに合っただけでも脅威です。助かります。では、村の警備隊の者を呼んで手伝わせますので、使ってやってください。」
「わかりました。ただし、キングの件は確証が出来るまでは伏せてください。大騒ぎになってしまうでしょうから。いざとなったら、僕等が村の方全員が逃げる事ができる様にしますので、安心してください。」
「そうですね。わかりました。」
この村は200人程度の村で、防衛力も低い。
さらに警備隊と言っても、自警団でしかないので、戦力としては期待できない。
村の若い男達で組まれているのだから、それも仕方のない事だろう。
「先ずは、今日はこのまま、休ませてください。明日より行動を開始します。」
「わかりました。明朝集まる様に言っておきます。」
「よろしくお願いします。」
「いやいや。こちらこそお願い致します。」
こうして僕等は村の入口に馬車を置かせてもらう事にした。村の警備の人が門番の様な感じの事をしていたので、順番で馬車の外に一人ずつ出る事にした。
◇◇◇◆◇◇◇
無事にその日は、夜が明けた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「おはよう!」
僕等三人は朝の挨拶をして今日これからの事の相談を始める。
「パークリーさんが戻るまで、早くて4日。遅ければ5日は掛るでしょう。そして休息に一日充てると、およそ五日から六日の間の時間を過ごす事になります。その間に、村の警備隊の方と一緒に村の防衛力を高める必要があります。」
「そうだな。少しでも上げておく方が安全だ。」
「はい。そこで、僕達は一日を三分割して、睡眠時間や休憩時間を確保しませんか?」
「いいぜ。」
「そうね。その方が効率良いかも。」
「では、決定という事で。」
①0:00~4:00・12:00~16:00
②4:00~8:00・16:00~20:00
③8:00~12:00・20:00~24:00
こ例外の時間は好きに使って良い事にした。
最低限の活動時間と決めての行動で、補完し合える様にと考えたからだ。
もちろん非常時は、予定通りにはいかないだろうけどね。
①は僕で、②はプレストンさんで、③はアリアさんが受け持つ事になった。
「じゃあ、早速私が受け持つわね。」
「はい。最初なので僕も行きます。」
「そうだな。挨拶ぐらいは一緒にしといた方が良いだろうな。」
卵の焼ける音は良いね。食欲がそそられる。
そんな音を聞きながら、皆で準備した朝食を一緒に食べた。
パンに卵にハム。日本の朝食の様な感じだけど、素材は全て一緒では無いから味は違うけどね。うん。それは仕方ない。しっかりと食べ終わった所に警備隊の人達が来る時間になった。
「すいません。村長に言われて来たのですが。」
「はい。お待ちしておりました。」
「本当にオークが近くに多く居るのですか?」
代表するように一人の青年が、僕達に訊ねてくる。
後ろにいる数十人の男達の眼も懐疑的だ。
先ずは、彼らの意志をどうにかする事から始めなければいけないのかもしれない。
そう、人間とは都合の良い生き物だ。
多くの人は、自分は大丈夫と思うモノだ。
それは異世界でも変わらないという事だ。
僕達三人はお互いの顔を見て、溜息をつく事からスタートしたのだった。