第六話 アギトの街のギルド。
ギルドとは、国の支配下にない組織の一つである。
中立と言っても過言ではない。国の支配を受けるギルドは無くとも、国の影響を受けるのはギルドの永遠の宿命だろう。国の支配地域内にギルドを建てるのだから永遠の課題と言っても良い。
そしてアギトの街にあるギルド支部は、反乱軍(解放軍)オーブの決起を境にして三択を突き付けられた。
1つ、反乱軍に参加する。
1つ、中立を維持する。
1つ、撤退する。
商業ギルドは居残りを決めた。
中立という表向きの立場のまま、物資支援をおこなった。
盗賊ギルドは撤退した。
本部の意向によりアギドの街の盗賊ギルドは廃墟となった。
鍛冶ギルドは積極的に協力した。
武器や防具の修理や提供をおこない反乱に貢献した。
様々なギルドは、それぞれの思惑や関係性において、判断し行動を起こした。
戦争の結果は、反乱軍(解放軍)オーブの勝利となった。
一時的であったとしても、勝利した。勝てば官軍である。
その結果により、ギルドの明暗は大きく変わったのである。
「こりゃあ、すげぇな。」
冒険者ギルドは、積極的に参加する形となった。
否、ギルドは表向きには参加を表明していないが、クエストの受理し発行した。
≪アギドの街の独立運動に協力せよ。≫
冒険者の協力は、オーブにとって、大きく有利に働いた。
各地から、オーブに冒険者が来て協力する事になったのだ。
彼等は魔物退治に特化した集団であるが、魔法などの戦闘に役立つ能力を有した存在である。戦力の補充に大きく貢献したのである。
同じく傭兵ギルドも加担している。
ただ、傭兵ギルドは何処に行っても同じ様に金で働く。金により味方になり、敵になる。
そもそも正規兵を多く持つカーリアン帝国においての需要は少ない。
となると、こういう時には簡単に協力するギルドである。
が、冒険者ギルドはそうではない。
一国に加担する行為を避けているギルドである。
そこが、少しであっても協力する様子を見せたのは大きな一歩であると同時に危険な行為である。カーリアン帝国内の冒険者ギルドは多難な時代を迎えると言えよう。
その為に、受理と発行をしたのは、アギドの街の冒険者ギルド支部での単独の判断である。と主張する事になるのだが。
「怪我人だらけじゃないか?」
煉達一行は、今冒険者ギルドに来ていた。
オーブに協力をした結果、冒険者達の多くは負傷した者を多く出す事になった。
そして冒険者ギルドは負傷者の受け入れをしている様だ。あちこちから呻き声が聞こえる。
「これでは、まともなギルド運営は期待できそうにないわね。」
「そうかもしれませんね。」
外から見た景色は気分を落とすのに効果的な景観である。
建物に破損は見られない事から、ギルド職員には怪我人などは居ないだろう。
「とりあえず、カウンターまでは行ってみましょう。」
アリアの言葉に従って煉達はそのままギルド内へと足を運ぶ。
煉達の目に飛び込んできたのは、以外にも受付のあるこの区域には怪我人が横になっている様子は見受けられなかった。
「大丈夫なのか?」
「かもしれないわね。」
そのまま受付カウンターへと向かう。そこには、受付嬢が居た。
「いらっしゃいませ。えっと、この街の冒険者ではなさそうですね?」
「はい。」
「もしかして、あのクエストを受けに来た方かしら?とりあえず、撤退したみたいでオーブからはクエスト終了の連絡が来ているのだけど?」
「え?あのクエスト?」
「あれ?オーブに協力しにきた冒険者の方々では無いの?」
「ああ、違います。普通に冒険者として活動しようと思っています。」
「ああ。そうなのね?ごめんなさい。私はこのアギドの街の冒険者ギルドで受付をしているエンリケです。冒険者パーティーよね?パーティー名を伺っても?」
「あっ、ハイ。夢追人です。」
「はいはい。ちょっと待ってくださいね。確認します。」
エンリケさんが奥の部屋に入って行く。
少しして、戻ってくる。
「すいません。お待たせしました。ギルドカードの提示をお願いします。」
それぞれが、ギルドカードを提示した。
「はい。ありがとうございます。これでここでの照会は終わりです。」
「はい。」
ギルドカードは、世界共通のカードである。
そのカード情報は全世界のギルドで確認をする事が出来る。
戦績やランク情報などを管理しているのだが、新しく街を動いた際にはこのように照会を行う必要がある。ただ、照会をしておけばそれ以降の受付時や買い取り時の対応をしてもらえる。そして、クエスト受託も出来る様になるというモノである。
クエストの達成報告などの履歴をつける為にも、必須事項と言える。
カード自体が身分証にもある為、見せるだけで事足りる場面も多いのも事実である。
管理者である冒険者ギルド側の都合という面も大きい。
生存確認等の側面も受け持っている為だ。
「Aランクパーティーですね。今は街がこんな状況なので依頼も少ないのですが、何か希望はありますか?」
どうやら、このままクエストの見繕いもしてくれるようであるが、それもその筈、Aランクパーティーは世界に数多く存在するが、それでも決して多い存在ではない。当たり前の行動と言える。
「そうですね。この街は物資不足ですよね?それらの依頼があれば見せてください。」
「本当ですか?助かります。少しお待ちください。」
受付嬢エンリケは嬉々とした顔になって後ろの種へ向かった。
「いや~助かります。戦争のおかげで人手不足で、なかなか色々貯まっているんですよね~。これも全部ギルドマスターの責任ですけど。」
どっさりと両腕に抱えて持ってきたクエスト依頼の数々。
およそ100枚はあろうかという枚数だ。
「ここでは時間がかかりそうなので、別室に案内しましょうか?」
「いや。全部受けるよ。時間制限とかあるヤツはあるかな?」
「いえ。今はこんな状況ですし、それらは優先してこの街に滞在しているAランクパーティーやBランクパーティーにしてもらっていますのでありません。・・・全部受ける?」
「ああ。全部だ。」
「ええ~!!」
プレストンさんのドヤ顔での返答に、絶叫する受付嬢エンリケさんの姿がそこにあった。