第十五話 横槍?よこやり?
「おいおい。なんだ?この騒ぎは?」
数人の取り巻きをつれた若い男の人が大声を上げて入ってきた。
一瞬の静寂の中、その男は賞品ケースとリングの間に割って入っていた。
「げっ、面倒なヤツが来たな。」
「まじかよ。ドルケンが来たら、色々終わったな~。」
観客席から不穏な声があちこちで聞こえてくる。
中にはその姿を見て帰りだす人までいる程だ。
「おいおい。このドルケン様が何事か?とお聞きになっている。答えろ。」
ガラの悪そうな取り巻きの一人が、イヤらしい顔で命令するかのように言い放つと近くの人が答えている。
「はぁ?色ボケしたエルフの二人がそこの冴えない男を取り合っている?なんじゃそら?ウケル。がはははは。」
内容を聞いたその集団は笑う。
まぁ、笑える内容であるのは仕方がない。色ボケは訂正して欲しい所だけど。
その集団は一通り笑い終わった所で、リングへと向かっていく。
実は、この間もリング上での戦いは続いていた。
「おいおい。なんだ?しょぼい戦いだな~。」
えっ?この戦いを見てしょぼい?
頭がオカシイのか?
「魔法をバ~ン!と使ってやれば良いのによ~。」
「もしかして、使えねぇとか?」
「あり得る。うけるわ~。エルフのくせに魔法が使えないんじゃ、人間の男を奪い合うわな。」
「おいおい。そんなに男が欲しいなら相手をしてやろうか?」
「お前じゃ役不足だよ。見て見ろ綺麗な顔をしてるじゃないか?あれは俺様の女として相応しい。たまにはエルフも良いだろう?あはははは。」
下種な会話。
まぁ、笑うのは仕方が無いとして、それはないわ~。
とは言え、全く聞こえてないだろうけど。
二人にそんな余裕は無い。相手から視線を離せばやられるのが自分だと分かっているから。
それ程に、肉薄した戦いをしているし、魔法無しと考えれば、かなり高度な闘いだ。
観客の人々は、魔法が使えないのを知っている。
知らないのは、こいつ等だけだ。
すると、取り巻きの一人が調子にのったのか、リングに上がった。
「オイオイ。無視するとはいい度胸じゃねぇか。」
「部外者はリングを降りてください。」
キャンディスさんがそこに割り込み、追い出そうとする。
「うっせぇな!糞アマが!!」
いきなり殴りかかった。
それをキャンディスさんはすっと避けた。
避けた上で、男の腕を掴み組み敷く。
「ドルケンさん。ひいて貰えませんか?」
冷静に話しかけるキャンディスさんは、少しレアだ。
「生意気な女だな。俺の家を知っているのだろう?」
「存じ上げているので、ひいてください。とお願いしています。」
「ふん。良いだろう。だが、そこの女達を俺の元へ連れてこい。意味が分かるだろう?」
ニヤニヤした顔でキャンディスさんを見る。
「それはお断りします。ただ、ひいてくれと言っています。」
「ほぉ、断るのか?この俺様の優しさを?我がデイトリッヒ家を敵に回すのか?」
「家は関係ないのでは?」
「馬鹿か?この跡取りである俺様の言う事が聞けないのなら、相手の言う事を聞く必要は無いな。」
ニヤニヤした顔は止まらないドルケン。
「おい!邪魔すんな!!」
「まったくですね。」
流石に一時的に戦いを止めたマリアさんとアリアさんがキャンディスさんの傍に寄って来た。プレストンさん達の三人もリングの方へと来ている。
「もう一度、言います。速やかにひいてくれませんか?」
「くっくっく。分かってないな?俺様が言っている事を約束すれば聞いてやると言っている。」
ドルケンはニヤニヤしたままだ。
「お前はアホか?」
「話になりませんね。」
マリアさんもアリアさんも呆れた顔をしている。
その様子を見てドルケンは手を鳴らした。
すると、入口という入口から武装した人が現れた。
数にすると200人ぐらいだろうか?
魔法使いの様な人も居るな。これ全部取り巻き?なら相応に地位がある?金を持っているという事かな?
「脅しですか?」
「くっくっく。さぁ、どうだろうな?」
ドルケンの取り巻き数人もそれぞれ武器を持ちだした。
観客たちの動揺する声が聞える。
「さぁ、愚民どもはさっさと出て行け!お楽しみは終わりだ!!」
武装した集団は観客たちを追い出していく。
ミスコンティさんが僕の方へいつの間にか来ていた。
「少し辛抱してね。折角だから、このまま観客たちを逃がしてしまうから。」
そう言い残し、またすっと何処かへ行ってしまった。魔法鞄を残して。
ここまでするからには、元々これを潰すつもりだったのだろう。
「男に用は無い。女三人だけで良い。後は外へ放り出せ。」
さらに、プレストンさんやパークリーさんに僕を追い出そうとする。
暴れようとするプレストンさんとパークリーさんをアリアさんが止めた。
「今は従って。私達は大丈夫だから。」
「だがよ!」
ミスコンティさんが何処からとも無く表れて二人を掴まえた。
「大丈夫。今は従って。」
「わかったよ。」
こうしてパークリーさんと二人出口へ向かって行った。
そして、僕は追い出されずに、そのままだ。
「お前はそこで大人しく見ていろ。」
ニヤニヤした顔でドルケンは言う。
もしかして、こいつは、俺達がS級冒険者であるという事を忘れている?
もしくは、侮っていないか?それとも知らないのだろうか?




