第十四話 レディ・ファイト。
決着をつける。
かたをつける。
けりをつける。
どれも同じ事を指す。
物事のきまりがついておわりをむかえる為に行動する事。
今回の決着は、どうつけるのか?
どの様に行動するのか?
アリアさんと『かしら』ことマリアさん。
二人は、名前は一文字違いで同じくエルフ族。
人類の中では、知的で温厚な性格であると認識される種族。
一方は、不幸な生い立ちを背負い、国に追われる冒険者。
一方は、男言葉を話す、建築現場の監督。
そんな二人が求め争うモノは何と人間族の男。
その者の名は『煉』。
S級冒険者【夢追人】のリーダー。
世界でも希少な刀術使い。精霊までも駆使する若きリーダー。
彼を求め競い合うエルフの美女二人。
今宵、おこなわれるその熱き戦いは、きっと後世に伝説として刻まれる事でしょう。
◇◇◇◆◇◇◇
長い口上を一度も噛む事なく言い切ったキャンディスさん。
は中央のリングに居る。芝居掛った話し方はツボに入っていた。
凄い才能だと思う。政治家になったらいいんじゃないかな?
ここは、都市国家サーゲイロードの闘技場。らしい。
らしいというのも、見ればリングがあるからだ。
あの後、その日は宿に戻って夕食を皆で食べてから寝た。
気がついたら、ここに居た。何でここに居るのか?それは拉致されたからだろう。
しかも、加担していたのはパーティーメンバー全員じゃないか?
だって、あその主賓席にプレストンさんとパークリーさんとミスコンティさんが居る。
美味しそうに何か飲んでいるよ。あっ?金を出している。まさか賭けをしているんじゃ?
えっ?僕?
僕は、賞品ケースの様な場所の中に居ます。
なんで、落ち着いているのかって?
それはアリアさんに説得されたから。
気がついた時は半狂乱になっていたよ?だけど、やけっぱちと言うか何と言うか。
アリアさん曰く、『決着ついたら、もう二度と近づかない。』と言ってきたとか、なんとか。
たぶん、引くに引けなくなったんじゃないかな?
アリアさんって直ぐに、意固地になるから。
キャンディスさんに嵌められたんじゃない?
対決スタイルは、武器・防具は禁止。
放出系魔法も禁止の格闘だそうだ。素の状態での肉弾戦って事だね。
放出系魔法は禁止だけど、それ以外はOKなんだってさ。
契約書も交わしての真剣勝負。
キャンディスさんは絶対これを、儲け話として見て動いたんだろうね。
ここまで大事にするとは思わなかったけど。
「赤コーナー。燃える現場監督。恋の奪取を狙う美女。マリア~!!」
歓声を受けて、現場監督の『かしら』ことマリアさんがリングに上がる。
僕の方を向いてウインクをする。
言葉使いはアレだけど、仕草は可愛らしい。
「続きまして、白コーナー。乙女なS級冒険者。恋の奪取を防ぐ美女。アリア~!」
歓声に応える様に両手をあげるアリアさん。
結構、ノリノリじゃね?
二人とも、空手道着?柔道道着?とにかく道着の様な物を身に纏っている。
それも赤色と白色。そこは白じゃなくて青じゃないの?
あぁ、だから、青コーナーじゃなくて白コーナーだったのか?
オカシイだろ!というツッコミも無く進んでいく。
「世紀の戦いが、今、始まります!!」
カ~ン!
という音と共に始まった。
様子を見あっているのか、ちょっとずつ横に動き出す。
「決着をつけてやるぜ!」
「・・・。」
マリアさんは言葉を発し、アリアさんは沈黙し、動き出した。
なんで、声が聞えるのか?それは魔法装置が設置されているからだね。
他の人には聞こえるのかは分からないけど、少なくともこの賞品ケースの中にはスピーカーの様な物がある。そこから音が聞こえてくる。
少しの間、少しずつしか動かなかった両者。
だけど、不意にマリアさんが動いた。
バンっという音と共に一気にアリアさんへ近づいた。
アリアさんは右のストレートを放った後に、その動きを利用して後ろ廻し蹴りを放つ。
それを予測していたのか、マリアさんは横に避けた後、放たれたマリアさんの足に合わせるかのように、蹴りを放った。
空中で足と足が重なる。
面と面が重なったかのように、風が巻き起こった。
その風は客席にまで届いて、髪が煽られた。
どこにも、カツラ被っている人っているんだね~。
カツラが飛んでいる。それ位の風の強さがあったのかな?
「なかなかやるじゃないか?!嬉しいね!」
「アンタもやるわね。」
そんな会話をリング上で、おこなう二人は嬉しそうな顔になる。
好敵手でも見つけたかのような感じだ。
もしかして似た者同士?
まさかね。
同じなのはエルフという種族と種族的共通点だけだと思うんだけど・・・。
それからは、全くの互角と言わんばかりの戦いが続いた。
お互いの攻撃を躱し合いながら、お互いに攻撃をする。
隙を伺いつつも、隙を作る為に攻撃の手を緩めない。
飛んでしゃがんで回転する。蹴り、殴りのレパートリーが尽きる事の無い戦い。
息の合った演武を見ているかのような気分になる。
だけど、お互いの眼が演武でない事を伝えてくる。
相手を倒す。そういう意志がこもった目だ。
ギラギラした目が相手の一挙手一投足を見逃さない。
そうした戦いが一時間に及んだ頃だった。
皆がその戦いに集中しているその時に起こった。




