48王子の心情(クリス視点)
あいつは突然俺の前に現れた。
勝気で令嬢らしくない令嬢。
女のくせに俺のすることを真似したり、張り合ったり、王子の俺に対してズバズバものを言うんだ。
頭がいいはずなのにどこか抜けていて、感情を隠さない彼女と過ごす時間は嫌いじゃなかった。
言いたい事を言い合える関係。
気が付けば仲良くなっていた。
エリザベスと俺は友人なんて軽い関係ではなく、同志といった方がしっくりくる。
お互いを信頼し常に競い合い高みを目指すそんな仲だ。
だがあの日、そんな俺たちの婚約が決まった。
薄々気がついていた。
王族である俺の傍に居られる女は、婚約者候補とみるのが妥当。
けれどそんな事忘れてしまうぐらい、あいつと過ごす時間は有意義だったんだ。
親が勝手に決めた婚約。
俺は納得できなかった。
今更リサを女としてみるなんて無理だし、俺に相応しい女は、聖女のような特別な存在だろう。
思ったことをそのまま言葉にすると、聖女を召喚する方法を探すことになった。
だがそう簡単に聖女を召喚する方法なんて見つからない。
今まで見つかっていないのだから当たり前だ。
大人になるにつれて、成長し女性へと変わっていくリサを隣で見ていた。
だがやはり女として見られなくて。
俺自身問題があるのかと、適当に令嬢を引っかけて確かめてみた。
熱くて柔らかい肌、潤んだ瞳を見ると衝動が抑えられなくなる。
令嬢に触れると欲望が込み上げた。
年頃だったし抑えられない快楽を求め満たすために令嬢を抱く。
甘い声に強請るような仕草に夢中になったんだ。
そんな俺の様子にリサは何も言わない。
苦言を言ってきたのはリックだけだ。
だがそれを適当に受け流していた。
大人になってもリサはリサのままで、俺たち3人の関係は変わらない。
くだらない話で笑いあったり、バカなことで言い合いになったり。
彼女と将来結婚するが、この関係は変わらないものだと思っていたんだ。
当たり前の事が当たり前でなくなる日が来るなんて、考えもしなかった。
エリザベスが消えたあの日、何かが欠けてしまった。
胸の奥にいつもあったそのピース。
いつも傍に居たあいつの姿はどこにもない。
部屋のドアが開くたびに、リサの姿が頭にチラつく。
あの日引き留めていれば変わっていたのだろうかと――――――
あいつがいなくなってから、何もかも楽しくなくなった。
令嬢を抱いても、以前のように夢中になれない。
リックとも3人でいる時のように話せなくなった。
エリザベスがいなくなった世界はひどく退屈で。
俺は居なくなって初めてあいつの存在の大きさを知った。
これが恋なのか、それはわからなかった。
だけどふとしたときに浮かぶのはいつもあいつの姿で。
隣に並ぶのはあいつ以外考えられない。
だから俺は新しい婚約者を作らないと決めたんだ。
リサの大事さを知り、彼女の姿を探す毎日。
その時に気が付いた。
俺と同じ目でリサを探すリックの姿。
彼女を求めるその姿は、友人ではなく恋情なのだと。
いつからリックはリサを想っていたんだろう。
考えたこともなかった。
あいつは度が付くほどに真面目で面倒見がよくて、婚約してもそれは変わらなかった。
あまりにいつも通りでリサを想っていたなんて全く気が付かなかった。
いや、俺がちゃんと見れていなかっただけなのかもしれない。
リックの気持ちに気づき、改めて考えてみると、令嬢とのお遊びに口出ししてきたのは、お節介ではなく別の感情があったのだろうか。
あいつはいつもリサの異変に真っ先に気がつき、俺が見つけるより先に彼女を捕まえていた。
夜会で彼女が飛び降りた時も、一番早く気づき駆けつけたのはリックだった。
その頃すでにリックはリサを好きだったんだろうか。
俺はどうなんだ?。
リサが居た頃、女として見られなかった。
だが居なくなってその大事さに、存在の大きさに気が付いた。
これは果たして恋情なのだろうか……。
答えはわからない、けれど俺の隣に必要なのはリサだという事ははっきりと分かる。
彼女が戻らないまま3年が過ぎたあの日、聖女がやってきた。
信じられなかった、しかも二人もだ、前代未聞。
あの聖堂でいなくなったリサの手がかりを探すためにも、俺は聖女の世話役を買って出た。
だがそれは失敗だったのかもしれない。
聖女と居る時間が増え、彼女が変わっていくのがわかった。
信頼してくれていたその眼差しが、恋情に変わっていくのが……。
聖女に婚約を申し込まれれば、王子である俺でも簡単に逆らえない。
それは困る。
俺の隣はエリザベスなんだから。
だからネイサンを紹介し、彼女に近づけさせた。
俺は距離を取り二人が親密になるように仕向けたんだ。




