44収穫祭
静まり返った部屋で私はその場にしゃがみ込むと、先ほど触れた彼の熱が思い起こされる。
クリスが私を好きだなんて……考えもしなかったわ。
3年前は間違いなくお互い婚約破棄を望んでいた。
だから聖女探しを頑張っていたのよ。
なのに今更好きだなんて、信じられない。
だけど……こんなことを冗談でいう男じゃないわ。
彼が私を好きだとしても、どうすればいいの?
今更それを知って、どうしろって言うのよ!
クリスを好きかと聞かれればよくわからない。
友達としては好きだけど……恋人なんて考えたこともないわ。
あぁもうどうなっているのよ!
告白なんて生まれて初めての経験過ぎて頭がついていかない。
答えのない疑問に膝を抱え体を丸めると、頭をかかえる。
頬の熱はまだ冷めない。
落ち着け落ち着けと念じながら、深く息を吸い込み心を落ち着かせ天を見上げると、窓の外には満月が美しく輝いていた。
恋愛の好きと友人の好き。
違いは何なのかしら……?
「私はどうするべきなのかしら……」
一人ボソッと呟くと、三日月が雲に隠れ私の心と同じように暗闇へ包まれていった。
・
・
・
「おい、起きろ」
ハッと目を覚ますと、私はベッドの上に居た。
眠気眼を擦りながら体を起こすと、ベッド脇にはクリスの姿。
「クリス……?おはよう……どうしてここに?」
ふはぁと大きく欠伸をすると、キュッと鼻をつままれる。
「コラッ、まさか昨夜の事覚えてないなんて言わないよな?」
昨日……?
ぼーとする頭を一生懸命作動すると、クリスの告白が蘇った。
一気に目が覚め慌てて布団を頭にかぶると、暗闇の中へ閉じこもる。
そうだったわ、昨日クリスに告白されて、そのまま寝てしまったのね……。
「ははっ、その反応、ちゃんと覚えているようだな。戻ってきたら眠っているんだもんなぁ。ゆっくり考えろとは言ったが、気を抜きすぎだろう。眠りこけたお前をベッドに運んでやったんだ感謝しろよ」
なんてことなの、恥ずかしい……。
不甲斐なさに頭を抱える中、窺うように布団から顔を出すと、クリスはしょうがないやつだと言わんばかりに、はにかんでいた。
その姿に思わず目を逸らせると、ギュッと布団を掴む。
「……ありがとう。ねぇところで杏奈とリックはどうなっているの?罰なんてないわよね?何度も言うけど私が全て悪いのよ」
「あぁ、わかっているから安心しろ。杏奈はリックの屋敷で世話になっている。仕事も順調のようだ。リックも今まで通り、罰もない。それよりも朝食の準備が出来ている、さっさと支度しろよ」
その言葉にほっと胸を撫で下ろす。
リックが面倒をみてくれているなら安心だわ。
あの部屋で一緒に暮らしているのかしら……。
二人の事を考えていると、彼はポンポンと頭を軽く叩き立ち上がる。
それが合図だったのか、バタバタとメイド達が現れると、私は布団から引きずりだされた。
浴槽へ放り込まれ着替えさせらえると、鏡に映ったのはエリザベスそのもの。
髪と瞳の色は違うが、私を知る人が見れば、誰もがエリザベスだと思うだろう。
久しぶりに袖を通したドレスは何だか慣れない。
スカートの裾を持ち上げくるりと回ってみると、裾が足へひっかかった。
今更だけど、よくこんな動きづらい服で走り回っていたわね。
用意された朝食を食べるが、向かいに座るクリスが気になって堪能できない。
何を話していいのかわからなくて、終始無言のままで朝食を食べ終わると、王と王妃へ挨拶へ向かうことになった。
玉座の間にやってくると、そこには両親の姿。
懐かしい彼らの姿に挨拶するのも忘れ思わず抱きつくと、母泣き崩れながら私を叱った。
父は必死に涙を堪えながらよく戻ったと、私を強く抱きしめた。
「おかえり、エリザベス」
「ただいま、お父様、お母様。本当にごめんなさい」
泣きながら父へしがみつくと、王と王妃も私を歓迎してくれた。
エリザベスの自分が受け入れられた喜びをかみしめたのだった。




