38本物の聖女 (杏奈視点)
暫くはずっと部屋に引きこもっていた。
だけどそんな自分が嫌で、私はエリザベスについて調べてみることにした。
彼女は有名人で、すぐに色んな情報を入手出来た。
公爵家の御令嬢でお転婆な令嬢。
メイドや執事、貴族、平民、誰に対しても平等に接して、親しみやすい。
頭も切れて、強くて凛としていて、気高いその姿は令嬢たちの憧れの的。
私が高校時代に見ていた里咲さんと同じだった。
地位そして名声もある彼女がここに現れれば、きっと有無を言わさず聖女になっていたとわかる。
そんな彼女がここへ戻れば、私の居場所なんてあるはずがない。
ならやっぱり里咲さんは優しいから……私をこの場所にいられるようにしてくれたのだろう。
里咲さんはいつも自分よりも他人を優先して、人の気持ちを分かってくれるそんな素敵な女性だったから。
だから私みたいな人にも話しかけてくれて……だからこそ彼女の周りに人が集まっていくのだと。
エリザベスの事を知り、数日間悩み続けた結果、私は王子にある提案をした。
「クリストファー王子、一緒に街へ出かけられませんか?」
突然の誘いに王子は驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑みを浮かべるとニッコリ笑った。
「あぁ、出来なくもないが……そうだな、明後日はどうだろうか?」
私は深く頷くと、手に持っていた里咲さんからの手紙をギュッと強く握りしめた。
里咲さんは聖女になりたくないそう言っていた。
だけどやっぱり私にこの席は間違っているのだと、はっきりと気づいてしまった。
私は物語の主人公になる器じゃない。
現に里咲さんが聖女であれば、ハッピーエンドになっていたじゃない。
なのに……モブの私が邪魔をして物語を崩してしまった。
里咲さんに気を遣わせて、私の場所はここではなかったのに――――。
翌々日、王子と一緒に街へ向かった。
酒場が開店するのはきっと夕刻。
朝から街へ赴き、王子との最後の逢瀬を楽しむ。
変わらない笑みを見せてくれる彼。
久しぶりに真っすぐに見つめた彼の琥珀色の瞳が綺麗で。
その瞳に映し出される自分の姿が嬉しくて。
だけど里咲さんの事を話せば、こうして王子の隣に並ぶことも出来なくなる。
だから彼の笑顔を……しっかり目に焼き付けた。
夕刻になり、馬車で街はずれへ向かうと、「酒場のラム」の近くに停車した。
扉が開き王子の手を取り外へ出ると、夕焼けが私たちを照らし出す。
周りは畑が広がり、シーンと静まり返るその場所で私はゆっくりと息を吸い込んだ。
「クリストファー王子、お話があります」
琥珀色の瞳が夕焼に染まっている。
吸い込まれそうなその瞳を真っすぐに見つめた。
「どうしたんだ?街の外れなんて久しぶりに来たが……この場所に何かあるのか?」
私はコクリと深く頷くと、酒場へと顔を向ける。
「私は聖女ではありません。今まで騙していてごめんなさい。私に鐘の音なんて聞こえなかった。……本当の聖女は一緒にやってきた彼女なんです」
王子は驚き目を丸くすると、混乱しているのだろう頭を抱えた。
「ちょっと待て、どういうことだ?あの女は言葉が話せなかっただろう?今までやってきた聖女皆、こちらの言葉を理解できていたはずだ。それを考えてもアンナが聖女で間違いないと思うが……。それに彼女は塔から逃れた後消息がわかっていない」
「彼女はあの酒場に居ます。黙っていてごめんなさい。……きっと会えば全てがわかると思います」
私はゆっくりと歩き始めると、ラムと書かれた酒場へ向かう。
後ろから騎士や王子の足音が聞こえる中、扉の前へとやってきた。
ここに里咲さんがいる……。
これが正しいことなの……。
深く息を吸い込み酒場の扉を開けると、その先に元気そうな里咲さんの姿。
私の姿に目を丸くすると、慌てた様子でこちらへ駆け寄ってきた。
「杏奈、どうしてここに?何かあったの?」
心配げな表情を浮かべる里咲さんを見つめると、何だか泣きそうになった。
本当はお城で優雅に暮らすべきだったのは里咲さんのはずだったのに。
なのにこんなところで働いて……どんな場所か確認すらしなかった。
里咲さんなら大丈夫だって勝手に思って……。
泣き出す私の姿にオロオロと慌てる彼女。
困らせたくなかったのに、涙が止まらない。
「里咲さん……ごめんなさい」
精一杯の謝罪。
彼女の手を握ろうとした刹那、店内に声が響いた。
「エリザベス……」
「なっ、なんでクリスがここに!?」
里咲さんは彼の姿に飛び上がると、あたふたしながら奥へと逃げていく。
王子が追いかけようとする姿に、私は思わず引き留めた。
「待ってください!」
しかし王子は私の手を振り払うと、こちらを見る事無く走り去っていく。
振り払われた手はジンジンと痛み、薄っすらとピンクに色づいた。




