31閑話:彼女との出会い (リック視点)
彼女はこの世界を知っているかのように馴染んでいた。
聖女が驚いた食事や湯浴み、マナーを彼女は自然と行う。
寧ろその所作は洗練されていて、貴族令嬢と思うほどだ。
どうしてこんなに聖女様と違うのか、育ちの差なのだろうか?
この時はその程度にしか考えていなかった。
ある日、言葉を学ぶ彼女のためにハーブティーを用意させた。
このハーブティーはエリザベスが好きだったものだ。
香りが鼻孔を擽ると、今でも彼女の姿がはっきりと頭に描かれる。
3年もたっているのに忘れられない。
僕は机に向かう彼女の肩を叩きハーブティーを差し出すと、彼女は眼鏡というもの越しに嬉しそうに笑った。
その姿がエリザベスと重なった。
彼女もハーブティーを用意すると、そんなふうに笑ったから。
目の色も髪の色も違う彼女の笑みが、なぜかとても良く似ていると思ったんだ。
その笑顔をまた見たくなって、僕はハーブティーを淹れるようになった。
その度に彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
次第に彼女を意識するようになると、笑顔だけでなく仕草や反応がエリザベスとよく似ていることに気が付いた。
その日の夕食は、たまたまエリザベスの好物が用意されていた。
僕はこの料理を好きではない。
匂いがきついし、味も個性的で、美味しそうに食べるエリザベスをいつも疑問に思っていた。
異世界の彼女はこの料理をみてどんな反応をするのだろうか。
さすがにこの料理はエリザベスと同じ反応をしてくれないだろう。
現に同じ料理を聖女に出したところ、微妙な反応をしていたと聞く。
匂いももちろんだが、奇抜なこの料理の食べ方が分からなく、暫く手を付けなかったらしい。
夕食を持っていくと、彼女は目を輝かせ嬉しそうに食べ始めた。
エリザベスと同じ反応で驚きを隠せない。
加えて彼女はこの料理を知っていたのではと思うほど、綺麗に完食した。
そのマナーも完璧だった。
他にも同じような出来事が続いた。
もしかしたらエリザベスと何か繋がりがあるのかもしれない。
けれど言葉が通じない以上、確かめるすべはない。
まだまだ語学を始めたばかりの彼女では到底理解できないだろう。
言葉が上達したら聞いてみよう。
世話役になって数か月がたった。
言葉は片言だがわかるようになってきているが、まだ僕の質問を理解するのは難しいだろう。
だがそろそろ北の塔から追い出さなければいけない。
聖女派の貴族たちが、部外者が敷地内にいるのを良く思っていない。
今はまだ王子が押さえつけているが、それもいつまでもつか……。
エリザベスと重ねてみていたせいか、変に情が沸いてしまった。
言葉も拙い彼女を街へ放り出すのは胸が痛む。
だがここに居続けるのは無理。
少しでも彼女の力になりたいと、僕は彼女を連れて街へ向かった。
そこであることに気が付いた。
彼女は言葉をわからないふりをしているのだと。
だがなぜ言葉をわからないふりをしているのか、そもそもそれは不可能ではなかったのか?
残っている聖女の書物では、聖女の言葉が全てこの地の言葉に変わる。
そう記載されていたはずだ。
だからこそ今まで異世界の文字や言葉は一切伝わっていない。
考えてもわからないと悟った僕は彼女に問いただそうと試みた。
けれど邪魔が入り有耶無耶のまま。
明日には確認しよう、そう思っていたあの日、事件が起きた。
塔の近くで火災が発生したのだ。
僕が慌てて塔へ向かうと、そこにいたのは愛しいエリザベス。
髪の色も目の色も違うが、間違いなく彼女だった。
驚きすぎて固まっていると、懐かしい音色が僕の名を紡いだ。
その声に我に返ると、僕は彼女の腕を取り塔から脱出させる。
そのまま人目を避けながら走ると、離れた丘の上へやってきた。
彼女を抱きしめ存在を確認する。
温かい熱が伝わると、離したくない、そんな気持ちが込み上げた。
彼女を下ろし腕を掴めると、真っすぐに見つめる。
3年前とは違う黒い瞳、だがその奥にある光は同じもの。
「あなたは……エリザベス様なのですか?」
問いかけてみると、彼女は狼狽した様子で首を横へ振った。
言葉がわからないふりも忘れ、エリザベスとは誰なのか質問すらない。
必死に否定しているが、その行動こそ自らがエリザベスだと認めていると同じ事だ。
似ているとはおもっていたが、まさか本人だったとは本当に予想外だった。




