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3始まりの音

そう決意したのが、今から数年前。

図書館で本を読み漁ったけれど何も見つからない。

王族専用の文献まで見せてもらったけれど、見つからなかった。

だけど城から一番離れた北の塔。

貴族の犯罪者や表に出せない貴族が収容される場所。

誰も近づかないそこで、埃の被った古い本を見つけたの。

それに書いてあったのは、探し続けていた聖女を召喚する方法だった。


表紙を見る限り正規で発売した本ではない。

だけど試さないって手もない。

必要なものを準備して早く取り掛かりたかったのに……城に戻ったところをメイドに見つかってしまった。

まぁリックがいればもう大丈夫だけどね。

私は手入れされた庭を駆け抜けると、本を片手に聖堂へ向かった。


聖堂、そこは異世界から聖女がやってくると伝えられている神聖な場所。

聖女様が現れた時には、尖塔にある鐘が大きな音で鳴り響くと言い伝えられている。

しかし聖女はここ数百年現れておらず、その音を聞いた人はもういないだろう。


聖堂にやってくると、私は真っ先に鐘を見上げる。

揺れる事の無い鐘、どんな音色なのかしら。

ふと後ろから駆け寄ってくる音が耳にとどく。

きっとリチャードが追いかけてきたのだろう。

彼は王都の騎士団に入隊した実力者。

私を捕まえるなんて簡単なことだが、彼はいつだってそう、捕まえないで見逃してくれる。

危険だとわかれば即止められてしまうけれど、友達の特権だわ。


私がシーンと静まり返った聖堂へ入ると、中からひんやりとした空気が吹き込んでくる。

本を開き書いてある手順を見ながら、薄暗い側廊を進んで行くと、突然地面が揺れ体が大きく傾いた。

そのまま強く床へ体を打ち付けると、リックの声が耳にとどく。


「エリザベス様!!!」


彼の声に顔を上げようとした刹那、目の前が暗闇に染まると意識が闇の中へ沈んで行った。



ふと気が付くと、視界がぼやけ何も見えない。

耳も何だか……とても遠くてはっきりとは聞き取れない。

思うように体も動かせず、声を出すことも出来ない。

次第に涙が溢れ、感情が高ぶると赤ん坊の様に泣きじゃくった。


暫くすると薄っすらと見える視界に見たこともない女の姿が映る。

その瞳に映った自分の姿は赤子。

最初は訳が分からなかった。

さっきまで聖堂に居たはずなのに、どういうことなのかしら?

考えてもわからないし、赤子の脳では考えが定まらない。

だけど成長していくにつれて、ここは聖女たちがやってくる異世界だと気が付いた。


聖女については、国に保管されている古文書を熟読したわ。

文明が発達した世界からやってくる聖女様は、様々な知識で国を豊かにしてくれる。

だからこそ国を挙げて聖女をもてなすのよ。


けれど実際に異世界を目の当たりにすると、想像していた以上に近代的で、驚きを隠せなかった。

自動で開閉する扉に、太陽のように明るい人工的な光。

馬車なんて比較にならないほど便利な移動手段に、遠隔でコミュニケーションが取れる機械。

王族や爵位もなく、国民全員が教育を受けられる平等な世界。

日夜人々が活動し慌ただしく過ぎていく日常。

スポーツも勉強も女だろうと男だろうと好きに選べる。

なんて素晴らしい世界なのかしら。


私は新たな異世界ライフを満喫しながらスクスク成長していった。

学校に通うようになると友達も出来て、自由に遊びまわった。

爵位がないから誰とでも気軽に話せ、無駄な駆け引きなんて必要ない。

勉学にも精を出して、将来何になろうかなんて考えたりして。

貴族だった頃は将来どうなるのかは決まっていた。

だから全てが新鮮で毎日が充実していた。

だけどどれだけ時が経とうとも、エリザベスの記憶は薄れる事無くはっきりと残り続けたの。


年齢を重ねていくにつれて驚いたのが、髪や瞳の色が違っても、見目がまるであの世界にいたエリザベスとそっくりになっていくことだった。

この世界での名は里咲(りさ)、あちらの世界での愛称もリサ。

全く別人となったはずだけれど、何とも不思議な感覚だった。

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