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27閑話:彼女との出会い (リック視点)

世話の意味がわかってから、彼女との関係が変わっていった。

冷たくあしらう暇などなく、令嬢らしからぬ行動をする彼女を必死で止める毎日。

突然フラッと居なくなり、探してみるといつもとんでもないところから現れる。

その度に捕まえて王子の元へ連れて帰るのが日常になっていった。


「こんなところで何をしているのですか!王妃様のお茶会に行くのではなかったのですか?」


「そうだったわね、ごめんなさい。花に見惚れていたらはぐれてしまったの。だけどリック見て、この花すごく綺麗でしょう?」


彼女は花壇に咲く白い花を指さすと、屈託のない笑みを浮かべる。

しかし僕は花と同じ白いワンピース姿の彼女に魅入ってしまった。


「どうしたの?」


彼女の声にハッと我に返ると、僕は慌てて彼女の手を握る。


「花はもう十分見たでしょう。皆が心配しております、戻りましょう」


彼女ははぁいと返事をすると、大人しく僕の後ろをついてきたのだった。


彼女を知れば知るほど、僕の知っている令嬢という者から逸脱している。

最初の頃感じたあざとさは狙っているのではなく、何も考えていないのだと気が付いた。

彼女は自分を飾らずいつもありのまま。

楽しければ笑い、悔しければ泣き、負けん気が強く、王子と真正面からぶつかる。

感情が豊かで公爵家の令嬢とは到底思えなかった。


嫌なことは我慢せず、すぐに逃げ出そうとする。

その姿は見ていて頭が痛い。

手芸や音楽、ダンスなど嫌な稽古事から逃げ出しては、騎士やメイドがあたふたと探し始める。

変に頭が良いためなかなか捕まらず、余計にたちがわるかった。


何度か叱った事があるけれど、彼女曰く子供だから好きに生きたいのだとか。

大人になれば嫌なことを嫌と言えなくなるからだと。

大人びているのか幼稚なのか、本当に彼女はつかめない。


だがそんな理論が城で許されるはずもない。

僕も彼女を探すのをよく手伝った。

隠れる場所は様々で、立入禁止と書かれた場所だったり、来客用の部屋だったり、木の上だったりと。

普通の令嬢では考えられない場所にいるんだ。


「なっ!?こんなところに!?ここは使用人の屋敷ですよ」


「わぁお、リック良くここがわかったわね」


窓越しに彼女は目を丸くすると、笑いながらピョンと窓から飛び降りる。


「エリザベス様、扉から出て下さい、危ないですよ!」


「まぁ~いいじゃない。一階なんだし怪我なんてしないわよ」


エリザベスはクルリと回って見せると、ニッコリ微笑んだ。

その姿は令嬢に見えるが……いや普通の令嬢はスカートをたくし上げて窓から飛び降りはしない。

僕は慌てて彼女の腕を掴むと、お城へと連行する。

大人しくついてくる彼女を手を握って先導していると、いつの間にか隣に並んでいた。


「ねぇリック、よくあそこにいるってわかったわね。ところで二人で居る時はリサでいいわよ。クリスだってそう呼んでいるんだから」


「いえ、エリザベス様と呼ばせて頂きます」


まったく何を言い出すのか……騎士である僕が王妃になるだろう彼女を愛称で呼べるはずがない。

呆れた表情を浮かべると、彼女は不満げにプクっと頬を膨らませた。


「いいじゃない。最初の頃よりは仲良くなったんだし、ねっ、呼んでみて、リック」


彼女は前に回り込むと、立ちふさがるように僕の瞳を覗き込んだ。

その姿に立ち止まると、思わず言葉を詰まらせる。

澄んだ瞳に僕の姿が映し出され、その瞳によくわからない感情が込み上げた。


「ほら、はやく」


「……ッッ。わかりました。ふぅ……リサ様、今はダンスのお時間ですよね?なのにどうしてあんなところに居たのですか?」


「へぇっ!?、あー、えー、うん、そうなのだけれど……えへへ」


「ダンスがお嫌いなのは承知しておりますが、皆探し回ってますよ。嫌なことから逃げるのはそろそろおやめください。もう子供ではないでしょう。ダンスは貴族の嗜み、恥をかくのはリサ様ですよ」


そう、もう僕たちは子供ではない。

徐々にエリザベス様が女性らしい体に変わってきている。

そう自覚すると、胸がなぜかモヤモヤしてしまう。


「えー、はぁ……わかったわよ……。せっかくリサと言ってくれたのに、説教なんて……ブツブツ」


肩を落とす彼女の姿に僕は小さく笑うと、ギュッと手を握り、繋いだまま歩き始めた。


言い聞かせただけで逃げ癖が治るはずもなく、頻度は少なくなったが、それでも逃げ出すリサを見つけては連れ戻していた。

最初は探すのに四苦八苦していたが、慣れればパターンがわかってくる。

大人には気が付かないだろう、彼女独特の逃げ方。

それを見つけ出してからは、簡単に彼女を捕まえることが出来るようになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎回リサを探すのがリックで必ず見つけ出せる所 リサがぶつぶつと様付けで説教有りだけど、名前を呼んで貰って喜ぶ所 [気になる点] 逃げ回る理由。 →将来自由がなくなるし、婚約者でいたくない…
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