2始まりの音
幼いころ、両親に連れられ城へやってきた。
そこで出会ったのが、クリストファーとリチャード。
クリストファーは生意気な王子で初対面の印象は最悪。
態度がでかくて会ってすぐ嫌味の応酬。
だけど親たちは止める様子も無く微笑まし気だった。
お互いが負けん気が強くて、何でも張り合った。
高い木に登るスピードだったり、足の速さだったり、剣だったり、勉強だったり。
令嬢として育っていたから最初は負けっぱなしで、だけど負けるのが悔しくて、一人でこっそり練習したわ。
初めて王子に勝った時のクリスの顔を今でも覚えている。
信じられないってそんな表情で……ふふふっ。
そんなこんなで、今でお互い認めあえるライバル兼親友そんな仲。
リチャードは冷静沈着、ドが付くほどの真面目で、将来王子に仕える為、日夜練習に励む騎士見習い。
いつも王子の傍に居たから、必然的に彼と居る事も多くなった。
彼は最初、私に良い印象を持ってなかった。
冷たかったし、話しかけても無視されるしね。
だけど揉める私たちの仲裁役をするようになって、クリスと張り合って無茶しようすると止めに来るの。
令嬢なのにはしたないとか、真面目でお堅い彼。
そんな彼の静止を振りきって怪我をして、これでもかくらい怒られたのはいい思い出だわ。
そこからかしら……彼とよく話をするようになったのは。
クリスはリックが言うと素直に従うの。
どうしてかしらと思っていたんだけれど、ある時リックの目を盗んで、クリスと私でコッソリいつもより高い木に登って競争してたんだけど、誤って落ちてしまったの。
軽いけがですんだんだけどね、その時の怒ったリックは怖かったわ……。
これは逆らえないはずよ。
3人で過ごすことが多くなって、気が付けば信頼できる友人になっていた。
きっとバランスがよかったのよね。
クリスとお城の中を探検したり、リックの剣術を見学したり。
喧嘩をしてもすぐに仲直りして、バカ騒ぎして、夜の城内を探検したり。
貴族として役割なんて関係なかったあの時間が、一番幸せだった。
だけど王子と仲の良い私を見て、両親と国王が話をしたのだろう、気が付けば私は彼の婚約者候補となり、あっという間に正式な婚約者になってしまっていた。
互いの同意などない婚約に、私とクリスは怒りが治まらなかったわ。
だけど子供だった私達には、それを取り消す術などない。
二人であれやこれやと策を練ってみたが、そんなものに何の意味はなかった。
婚約が正式に発表された日。
私たちはいつも遊んでいた庭に座って、暗い表情で大きなため息をついていた。
その隣には婚約者のクリス、そして私たちを見下ろすようにじっと佇むリックの姿。
「……本当に俺とお前が婚約するのか?はぁ……俺は聖女と結婚するはずだったのになぁ。こんなじゃじゃ馬女が婚約者なんて……」
「お言葉ですけど、こっちだって願い下げよ。生意気王子の妃なんてまっぴらごめんだわ。それに王族教育も大変だし、この城から出ることだって出来なくなるじゃない。私はもっといろんな場所へ行って、いろいろなものを見たかったのに」
「はぁ……二人とも少し落ち着いて下さい。王が決めたことです。いくら文句を言っても覆せない。それに知らない相手じゃないだけマシなのでは?」
リックの言葉に、私とクリスは顔を見合わせると、また深いため息をついた。
知った仲だけど、知りすぎているわ。
彼と結婚するなんて想像できないし、友人としては最高なんだけれど……。
目の前には美しく咲き誇った花が、太陽の光を浴び生き生きと揺れている。
その向こう側には城の敷地内に佇む聖堂が目に映る。
その姿に私はある事を閃いた。
「あっ、そうよ!そうだわ!聖女様が来れば、クリスもハッピーで、婚約破棄できる私もハッピー。そうなるわよね?」
私は勢いよく立ち上がると、二人を交互に見つめる。
「まぁそうだな。だが聖女はいつ現れるかわからねぇ。18歳まで現れなかったら、お前と結婚……はぁ……」
「万が一現れればですが……そうですね。聖女様の権限は強い。婚約者がいた王子と聖女が結婚した記録も確かありましたし……。ですが以前この世界に聖女様が現れたのは、記録を見る限りでも200年以上前ですよ?その前は確か500年ほど前だったはずです。周期は不明ですし、難しいとは思いますが」
「なら聖女を召喚できる方法を探してみるわ」
私は二人に向かってガッツポーズを見せると、ニカッと笑って見せた。