16孤独な彼女(杏奈視点)
その夜部屋で一人になると、レベッカの言葉が何度も頭を過る。
3年前……クリストファー様に何があったのかしら?
リチャード様の様子からして、あまり表にだしたくない話だとはわかる。
だけど彼の事をもっと知りたい、そんな欲望が顔出す。
幼い頃の王子はきっととっても可愛かったのだろうと想像できる。
どんな子供だったのかしら?
そんな話を王子に聞くわけにもいかない。
……里咲さんなら何か知っているかしら?
里咲さんは王子と幼馴染で親友。
きっと王子の事も詳しいはずだわ。
でも部外者の私がこんな詮索してもいいのかしら……。
きっとよく思わないわよね、だけど王子のことが気になってしまう。
うんうんとジレンマに悩まされること数時間。
辿り着いた答えは、近々里咲さんに会うとの結論に至ったのだった。
どのタイミングで面会を頼もうかと考えていると、あの日事件が起きた。
里咲さんが暮らしてた北の塔から火災が発生したのだ。
夜も更けた頃に、突然鐘の音が鳴り響く。
聖堂で聞いた鐘の音は違う、カンカンカンと警報のような音。
慌てて廊下に出ると、目の前を騎士達が慌てた様子で走り去っていく。
すぐに王子が私の元へやってくると、北の塔が燃えていると教えてくれた。
居てもたってもいられなくて、王子に案内してもらい私も現場へ向かった。
だけどもうそこは火の海で、手の施しようのない状態だった。
騎士達が集まり周辺を調べさせるが、里咲さんは発見されていないようだ。
「どうして……誰がこんなことを……ッッ」
「大丈夫、きっと彼女は無事だ。リチャードがすぐに駆け付けたはずだからな」
励ます彼の言葉が頭に入らない。
燃え盛る炎が目の前に広がる中、火の粉が舞い熱風が頬を掠める。
王子に肩を抱かれ燃え盛る塔を前に、私は何もすることが出来ず只々泣き崩れた
里咲さんどうか無事でいて……。
私は居るのどうかもわからない神に必死に祈った。
消火作業が続き、数時間経過したころ、ようやく火が消えた。
里咲さんの死体が見つかるのか畏怖していたが、それらしきものは見つからなかった。
無事に避難している事にほっと胸を撫で下ろしたが、周辺どこを探しても里咲さんの姿はない。
暫くすると、リチャードが王子の元へやってきた。
報告では、彼が駆け付けた時、里咲さんの姿はもうなかったようだ。
すぐに捜索を始めたが、見つけられなかったらしい。
捜索が難航する中、私が探し行くと王子に進言してみたが受け入れてもらえなかった。
お城を抜け出そうともした、だけどどんくさい私は、すぐ護衛騎士に見つかり連れ戻されてしまう。
どうすることも出来なくて、次第に気落ちしてくると、里咲さんが見つからない現状に、私は自分を責めるようになった。
こうなるのは私のはずだったのに……里咲さんは必要な存在だったのに。
私はいつも自分の事ばかりで、里咲さんを気にかけていなかった。
里咲さんはあんなにも私を気づかってくれていたのに……。
彼女の言葉に甘えて、私が彼女の居場所を奪って……。
聖女でもない、なんの価値のない私が残ってしまった。
食事もする気にもなれず、部屋に引きこもる毎日。
王子は何度も来てくれらけれども、会う気力もない。
このまま私がいなくなれば……
日に日に衰弱していく中、ある日リチャードが珍しく私の元へやってくると一枚の手紙を渡された。
おもむろに開くと、紙には懐かしい異世界の言葉が書かれている。
[杏奈へ
心配をかけてごめんなさい。
私は元気にやっているわ。
実は先日の火事で、リチャードに正体がバレてしまったの。
でも彼に協力してもらって私の存在は隠してもらっているわ。、
無事に住む場所を見つけて、今は街で働いているの。
念のため、お店の名前を教えておくわね。
「酒場のラム」というお店よ。
何かあればここへ手紙を送って。
追伸
しっかりご飯を食べるのよ。
里咲より]
里咲さんが生きてる。
よかった……本当によかったわ。
私は手紙を何度も読み返すと、大粒の涙が溢れだし、文字が滲んでいった。




