表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

12帰ってきた場所

リックの口からエリザベスとの言葉が出てきたということは、この世界にエリザベスは存在していて、反応を見る限り、私がここにいた記憶と差異はないのだと理解する。


「その反応エリザベス様と同じですね、分が悪くなるといつもそうやって目を逸らせる」


リックの言葉にムッと唇を曲げると、窺うようにサファイアの瞳を見つめた。


「ははっ、その表情も変わりませんね、エリザベス様そのものだ。……何度かそうではないかと思いました。ですがそれは……僕の願望だと言い聞かせていた。けれどあなたは聖女様とあまりに違いすぎました。異世界にないはずの、こちらのマナーを知っていたり、仕草や立ち振る舞い、そういったものもこの世界に馴染みすぎていた。エリザベス様、どうして最初に言わなかったのですか?なぜ知らないふりをしたのですか?あなたが居なくなって、私たちがどれほど心配したと思っておられるのですか?聖堂に入り突然いなくなったあなたを……ッッ」


彼は苦し気に顔を歪めると、私を強く引き寄せる。

抱きしめる腕から微かに震えが伝わり、触れた懐かしい彼の匂いに、自然と涙が溢れだした。


「黙っていてごめんなさい……。心配をかけてごめんなさい。あの日私は聖女を呼び出そうと思ったの。だけど私が異世界へ飛ばされて生まれ変わって、そしてまたこの世界へ戻ってきたの。だけど戻るときに彼女を巻き込んでしまった。だから彼女に聖女をお願いしたの。もとより私って聖女という感じではないでしょう」


エリザベスの言葉でそう話すと、目に浮かぶ涙を拭き真っすぐに彼を見上げる。


「エリザベス様が聖女様だということですか?はぁ……そんなことまで隠していたとは、呆れて怒る気もしませんね。ですが……無事で本当によかった……ッッもう二度と会えないのだと思っておりました……」


リックは今にも泣きだしそうな表情を浮かべると、私の存在を確認するように抱きしめ首筋へ顔を埋めた。

震える彼の体へ手を回すと、なだめる様に優しく撫でる。


「心配をかけてごめんなさい。でもリック、出来ればこのことを秘密にしてくれないかしら?」


「……無理ですよ。僕はクリストファー王子の護衛騎士。主を裏切るわけにはいかない」


「裏切る?ふふ、それなら心配ないわ。聖女の権力は強いでしょう。ここで私の命令に従わないと、今すぐ国から出て行くわ。それは困るでしょう?」


リックは顔を上げ意表を突かれたような表情を見せると、私を真っすぐに見つめた。


「それは……脅しているのですか?」


「えぇそうよ。だから言う事を聞きなさい」


私はニッコリ笑みを深めると、サファイアの瞳を真っすぐに見つめ返す。


「あなたの行動にはいつも驚かされます。変わっていない……」


リックは弱弱しい笑みを浮かべると、私からそっと体を離した。


「あなたの命令に従ったとして、これからどうするおつもりなのですか?」


丘の上から見える燃え上がる炎を見つめると、風に乗って黒煙と灰が舞っていた。

塔の周辺には近衛兵が集まり、バケツを手に飛び散る火の粉を消火する姿。


「そうねぇ、街へ出て住み込みの仕事を探すわ。いくつか当たりを付けてあるのよ。今日街を案内したのは、私を塔から追い出す下準備でしょう。丁度いいタイミングじゃない」


「いけません、あなたは公爵家の令嬢ですよ。街で生活するなど危険すぎます」


リックは私の肩を掴むと、強引に振り返らせる。


「リック、私は異世界から来た里咲よ。公爵家の令嬢ではないわ。ただエリザベスの記憶を持っているに過ぎない。だから家族に会うわけにもいかないの。だって私は異世界に生まれ変わったのだから」


「いえ、あなたは間違いなくエリザベス様です。髪や瞳の色が違ったとしても中身は変わっていない。僕の知る彼女そのものだ」


真剣な眼差しでこちらを見つめるリックの姿に苦笑する。

この世界へ来てから、何度もエリザベスに戻ったようなそんな気がした。

里咲だったはずなのにその記憶が薄れ、エリザベスの記憶が優先される。

だけど今更エリザベスだと出て行くわけにもいかないわ。

杏奈を巻き込んでしまっているし、クリスの婚約者に戻るつもりもない。

もちろん聖女として生きていくつもりも――――――。


「あなたがなんと言おうとも違うものは違うの。だから街で静かに暮らすのよ」


とりあえず今夜は身を隠して野宿かしらね。

早朝街へ出かけて住む場所を探しましょう。

塔から離れるように歩き始めると、リックが邪魔するように腕を掴む。


「ではこうしましょう。とりあえず僕の屋敷へ来てください」


「ダメよ、あなたのご両親はエリザベスを知っているわ。違う人間だと言っても、似ているのはわかっているの。だからエリザベスを知る人物に会うのは避けたいわ」


「それでしたら心配ございません。今僕は屋敷を離れ、城に近い別邸で暮らしております。メイドや執事もおりません」


予想だにしていなかった答えに、目が点になる。

3年前の彼は一人で暮らしてなどいなかった。

それにメイドや執事もいないなんて、どういうことなのかしら?


「……一人で暮らしているの?昔は屋敷で暮らしていたわよね」


疑問を追いかけてみると、彼は寂しそうに微笑んだ。

貴族が一人で暮らすなんて珍しい、何か大きな理由でもなければありえないことだわ。

私が居ない3年間の間になにがあったのかしら?

でも今はそれを確認している暇はない。


「……ッッ、とても魅力的な申し出だけれども、止めておくわ。これ以上リックに迷惑をかけたくないの」


「それでしたら尚更僕のところへ来て頂きたい。あなたを野放しにするほうがよっぽど不安です」


そう言い切る彼の姿に、言葉が詰まる。

思い返せば、エリザベスの頃から目を離せないと何度言われたかしら……。

押し黙っていると、グィッと腕が引っ張られる。

そのまま有無を言わさぬまま、私はリックの屋敷へと連れていかれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ