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1始まりの音

表紙

挿絵(By みてみん)


大理石で造られた広い廊下を真っすぐに駆け抜けていく。

後方からは私を追いかけてくる騎士の姿。

踝ほどまであるスカートに足がもつれそうになると、私はグイッとスカートを持ち上げた。


「お待ちください、お嬢様」


「お嬢様、お部屋へお戻りください!」


全くうるさいわねぇ、少しぐらいいじゃない。

ここはいつもと同じように……。

私は廊下の突き当りにある部屋を目指すと、カギを取り出しノックもせずに勢いよく扉を開いた。


「ごめんなさい、失礼するわ」


バタンと勢いよく扉を閉めると、外からは戸惑う騎士の声が耳にとどく。

内側からカギをかけほっと胸を撫で下ろすと、カーテンが閉められた薄暗い寝室のベッドに、男女の姿が見えた。

おもむろに人影が動くと、女の悲鳴と男の呆れたため息が耳にとどく。


「はぁ……またか」


「きゃぁっ、エッ、エリザベス様!?申し訳ございません。あの……私は……その……ッッ」


女は肌を隠すようにシーツを持ち上げると、慌てふためている。

隣にいる上半身裸の男は、なだめる様に女の髪をなでたかと思うと、平然とベッドから立ち上がった。


「リサ、また追いかけられているのか。まったく今日はどうしたんだ?」


「クリス、毎度お楽しみのところごめんなさいね。手芸なんて鬱陶し……コホンッ、手芸をしていたんだけれど、疲れたから気分転換に部屋を抜け出して北の塔に行ったの。でねぇ~そこで面白そうな古本を見つけたのよ。それでちょっと下準備をしてたんだけど……そんなことをしてたら、メイドに見つかっちゃって、あれよあれよと騎士たちに追い回されて大変だったわ」


そう話すと、また深いため息が耳にとどく。

この男は私の婚約者である、第二王子クリストファー。

長いプラチナの髪を後ろにまとめ、王族特有の琥珀色の瞳。

幼いころ親が決めた婚約者……けれど婚約者というよりも、友人と言った方がしっくりくる。

だからこうやって王子が令嬢と寝ていてもなんとも思わないわ。


私は公爵家の令嬢で名はエリザベス。

父は王の側近として勤め王族とは懇意の仲。

勝手に王子と婚約をさせられて花嫁修業のために、この城へ連れて来られた可哀そうな生贄。

王族と婚約、普通はみんな喜ぶのだろうけれど、私は国の為、民の為、賢く慎ましく生きていくなんて無理。

手芸もコルセットを着けるのも、お茶会も全て大嫌いだもの。

だけど両親の決めた決定を覆すことが出来ない、だから渋々花嫁修業をしているの。


「北の塔?あんなところにか?暫く使われていないだろう。まぁいいが、ほどほどにしておけよ。もうすぐ俺とお前は夫婦になるんだ。少しは落ち着いてもらわないとな」


「わかってるわ~。だからこそ残りの時間で、すべきことをしているんじゃない」


王子へウィンクすると、私は窓際行きカーテンを開けた。


彼の言う通り、私は王子と一週間後に結納を交わす。

そうなれば私は王族の一員。

だけどそれは彼との約束を破ることを意味する。


王子は椅子においてある服を手に取ると、気だるげに袖を通し始めた。


「ところでその古本は聖女についてか?」


「まぁ~そんなところ。ふふっ、成功するように祈っていて」


扉から聞こえる騎士たちの声が騒がしくなると、私は窓を開け身を乗り出す。

淵へ足をかけ手を伸ばすと、向かいに見える枝を掴んだ。


「エリザベス様、またですか?そろそろ落ち着いてほしいのですが、はぁ……さっさと戻りますよ」


その声に顔を向けると、真下には私についている護衛騎士、リチャード。

ブロンドの髪をかきあげながら、サファイアの瞳でこちらを見上げる。

彼も古くからの友人で、護衛騎士という立場だが、気心しれた相手だ。


「リック、今回は見逃してくれない?面白い古本を見つけたのよ。一度試してすぐ戻るから、お願い。ねぇ?」


「今回は……って、いつもでしょう……。はぁ……」


呆れるリックを横目に、木を伝いヒラリと地面へ飛び降りる。

彼へ向かって軽くウィンクを見せると、スルリと横をすり抜け、私は聖堂の方へと走っていった。

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