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4-2


 白い少女が扉をくぐった先は、夜だった。

 明かりの類いはおろか、月もない完全な暗闇であり、闇に慣れた目でようやく辺りがうっすらと青く見える。

 そんな中で、彼女は人気のない枯れた山道を歩いていた。

 吹きつける風は冷たいが、少女に震える様子は微塵もない。

 彼女は岩壁に開いた洞窟の前まで行くとそこに入り、探していた人物を見つけ出した。

 その風体は、人物、と呼ぶには語弊がある。

 その全身は虎のものに似た毛皮で覆われ、首から上は虎の頭蓋骨と虎の耳だけで構成されている。

 いわば、タイガーバーミッシュとでも呼ぶべき存在だ。

 そのバーミッシュと白い少女のいるその場所は土壁と岩壁に囲まれた広い空間で、中心に灯された焚き火以外に明りはない。

 炎はバーミッシュと少女に光と熱とを与え、高く掘られた天井へ静かに煙を昇らせていた。

 静けさの中で、パチパチと枯れ木の割れる音だけが静かに響いている。

 焚き火を前にして、タイガーバーミッシュは一人で座って微動だにしていない。

 じっと焚き火を見つめているようにも、物思いにふけっているようにも見えた。

 白い少女は炎の傍まで歩み寄ると、炎を挟んで相手に声をかけた。

「相変わらずね」

 少女が声をかけると、彼はわずかに顔を上げ、虎の耳を彼女へと向けた。

「……久しいな」

 彼に彼女を見る目玉はない。言葉を伝える唇もない。

 にもかかわらず、彼は彼女の存在を認め、並んだ牙を小さく鳴らしながら静かな声で彼女を迎えた。

「あなたらしいわね、こんな場所でじっとしているなんて。他に楽しみはないの?」

「……顔が要らんとは思わんが、大して執着もない。私がいなければ、この世界は無用のものとなってしまう」

「だから一生お留守番?ずいぶん寂しい生き方ね」

 いたずらっぽく言われたその言葉で、その場の空気がさっと冷えた。

「……誰のせいだと思っている」

「あたしの話に乗った、あなた以外のバーミッシュね」

 焚き火の中で、枯れ木の割れる音が一際大きく上がった。

「……確かにそうだ。同胞は皆、貴様を盟友と呼び、そしてこの世界を捨てた。捨てられた世界で空は荒み、地は割れ、ついに季節さえも忘れられた。私が残ろうが、ここが滅ぶのは時間の問題だろう」

「だったら、あなたもこっちに来ればいいのに」

「貴様に騙されたと気付いた同胞がいれば、彼等を受け入れねばならん」

 白い少女は肩をすくめて小さくため息をついた。

「……お仲間がまた一人、ヴィオキンに消されたわ。興味はない?」

 焚き火の音が再び大きく響いた。少女は続ける。

「あの世界には他のストレンジャーやその子孫もたくさんいて、あなた達と敵対している連中も多い。あなたが何もしなければ、そいつらのせいでお仲間がどんどん減ってしまうのよ。何か思うところはないの?」

 タイガーバーミッシュは何も言わなかった。

 ぱちぱちと、薪の割れる音が何度も上がる。

 沈黙の後、タイガーは膝に手を乗せ、ゆっくりと立ち上がった。

 白い少女を見下ろし、問いかける。

「次に襲われるのが、誰か分かるか?」

「やる気ね」

 頼もしそうに相手を見上げ、少女は微笑んだ。



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