7章・補完、異邦人
今回は1話だけの番外編です。
「では、麗しい御嬢さん。私は、他の華を愛でに行きますので。機会が合えば、また御会いしましょう」
「はぁい。いつまでも御待ち申し上げております。お慕いしております、漆黒の君」
今日も身分を偽り、貴族の社交界に潜入し、また一人の儚い愛人を信者にすることに成功した。
この世界に来て、実に順風満帆だった。
人に好かれる、好意を得る、信仰を得るだけで強くなれるなんて、素晴らしい世界だ。
この世界に連れて来た女神がくれた【神々からの恩寵】、【雷に愛されし者】と【人誑し】のコンボは最強だ!!
老若男女問わず、魅了する【人誑し】で貴族のパーティーだろうと、門番を誤魔化し、貴族の御令嬢を喰い放題。
魔力持ちの多い貴族の令嬢を信者にすることで、効率的に【雷に愛されし者】の強化をすることが出来る上に、貴族だけあってかキレイ処が多い。
「命を危険に晒してまでレベルアップするような奴らが馬鹿なのさ。男は首から上さえ有れば良いのさ」
顔と頭が有れば、人生はイージーモードなのさ!!!
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「可愛らしいリザードマンの御嬢さん。貴女の御名前と、貴女と踊る栄誉を。私に与えてくださいませんか?」
いつも通りに愛人を増やすために、周囲のレベルよりも高いのに声が掛かって来ないのか、黙々と食事だけしている亜人の美女に話しかける。
魔力も周囲よりも段違いに高いので、その辺りが声が掛けにくい原因なのだろうが、俺からしたら狙い目である。
「食事の邪魔ですわ。あっちに行ってくださいまし」
………………は?
「聞こえませんでしたの? 私にとって貴方は、スプーンに残ったソース以下の興味しか有りませんわ」
この女、俺のスキルが効いていないのか!?
「私に話しかけ、あまつさえ踊ろうなど。なかなか、魅力的に見えますが。私の知る本物には、遠く及びません」
もう俺と話すこともせずに、食事に戻ってしまった。
色気より食い気な野蛮人だったから、俺のスキルが効かなかったのか?
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「美しい深紅のドレスが決まっていますね。貴女の御名前と、貴女と踊る栄誉を。私に与えてくださいませんか?」
気を取り直して、先ほどの野蛮人より多くの魔力を持っている気配のある美女に声を掛ける。
「……イザベラ・ヴォルフと言います。失礼ですが、何処の田舎から来た方でしょうか?」
にこやかに微笑んでいるが、言葉にナイフを仕込んでいるように棘が有った。
「私に話しかけるまでなら分かります。有名人ですし。ですが、踊りに誘うのは理解が出来ません。長く、社交界から離れていた田舎の無礼者でしょうか?」
なにやらイザベラ・ヴォルフ嬢から熱気が、焼けつくされそうな熱気が飛んできている気がする。
「私が、心に決めた方としか踊らないと! 公言していることを!! 知らなかったで済まされるのは!!! そういう田舎者だけンゴ!!!!!」
「ひいぃぃぃいぃいいい!!!」
飛んでくる敵意に圧倒されるように、一目散に逃亡する。
魅了する以前に、心に強く、固く誓った相手が居たのでは取り付く島もない。
こういう重い女は、前世で懲りたのだ。
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「あ、痛!」
急いで逃げていたので前方不注意で女性と当たってしまって、俺だけが尻もちをつく。
光に溶け込むような鮮やかな金髪の長髪、爛々と輝く紫の瞳、鮮血のように紅いドレス、白雪のような清らかな肌。
「大丈夫ですか? ずいぶん急いでいたようですけど」
さっきの重い女に勝るとも劣らない魔力の気配を感じ、動揺していた心情を抑え込み、愛人獲得のために行動する。
差し伸べられた女性の手を取り、颯爽と立ち上がって、スキルを全開にする。
「貴女のような女性と出会うために急いでいたのです。貴女の御名前と、貴女と踊る栄誉を。私に与えてくださいませんか?」
「……へぇ、良い度胸ね」
全身の毛穴が開き、暑くもないのに汗が止まらない。
「私に、よりにもよって、この私に。”魅了”を仕掛けてくるなんてね」
全身が小刻みに震え、寒くもないのに歯の根が合わない。
「覚悟は出来ているのよね? 自然と出た訳ではない。全力だったものね」
『社交界で信仰集めは良いけどさ☆ ちょっち注意しろよ★』
脳裏に浮かぶは女神の忠告。
『魔物の頂点。”魅了”の申し子。女王様には、喧嘩を売るなよ☆』
「ま、【魔王】……」
「あら? 【 】が言えるってことは、この世界の人じゃないのね。でも___
___容赦しないわよ」
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「あら? ルナちゃん。オルフは来なかったんですの?」
「来てたのね、サラちゃん。そうなのよね。だから、さっきから踊りっぱなし。余計な事まで有ったし」
旧友を見つけたことで、踊り地獄から一旦の解放されたルナが、サラと談笑を始める。
「来い!! 招待もされていないくせに、様々な御令嬢に声を掛けるとは!!」
「………………」
遠くで、胡乱な瞳で、口から涎を流れるままにした間抜け面の男が衛兵に連行される声と姿が見えていた。
「騒がしいですわね。社交荒らしでしょうか? 物騒ですわ」
「大丈夫よ。少なくとも、あの人は再犯しないと思うよ」
女神の計画が崩れ、夫に怒られるのは、また別の話であった……。
月1ペースで連載と完結を繰り返すのはマナーが悪いと思いますので、番外編を投稿するのは最後になると思います。




