4~5章・補完、浸食される常識
アタシが、このベラの姉御の屋敷にメイドとして勤めて数年。
まだ、うっかりすると素の口調で話してしまって、ヒルダ姐さんに怒られてしまうことも有るが、このメイドも形になってきたと思う。
今もオルフの兄貴の実家から帰ってきて、溜まった洗濯物を手際よく洗濯し続けている。
「んごっ!!??」
背後からオルフの兄貴の洗濯物を盗もうとするベラの姉御の手を、振り返らずに洗濯棒で叩き落すくらいには、形になっているのだ。
「んご~~……」
未然に防がれて、しょんぼりしながら帰っていくベラの姉御を見送りながら、洗濯を再開する。
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メイドの仕事を覚え、それが形になってきたのだから、コレは当然の役得。
「んほぉ~! この匂い、たまんねぇ~!!」
「…………」
オルフの兄貴の成人祝いに合わせて、”鎧”を不眠不休で完成させようとしたロンの苦労が染みついた肌着を嗅ぐ。
結局、祝いまでに完成せずにパーティーが終わって、今でも作業し続けているロンの三日モノの肌着を嗅ぐ。
「いいゾ~これ」
「…………」
あどけない顔から想像が付かない程に、鍛冶仕事によって鍛え上げられた肉体から発せられる漢らしい匂い。
「フヒヒ! けしからん! 実に、けしか…………」
追加の洗濯物を手に、無言で佇むロンと目が合った……。
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「……いつから、居た?」
「ついさっき、”鎧”が完成して。溜まってた洗濯物を出しに。……『んほぉ~』くらいからかな?」
最初、から、かよ!!!!???
「でも、驚いたな」
そりゃあ、そうだろうよ!?
「レミが僕を、好いてくれていたなんて嬉しいよ。君みたいな綺麗な人に、熱烈に恋のおまじないされて、照れちゃうよ」
……ん? 流れ、変わったな。
「恋の、おまじない?」
「え? 違うの? レオナ姉さんが、よく好きな人のハンカチとかを嗅いでて。聞いたら、恋のおまじないだから。普通のことだからって。……違うの?」
純粋なロンに、間違った常識を教えるのやめろぉ!!!
「ち、違わねえよ。……ま、まあ、そういうこった……」
「だ、だよね。嬉しいよ。さっきも言ったけど、君みたいな綺麗な人に、ね」
二人して真っ赤な顔をして黙り込んでしまった時に、走る衝撃!
「うぐぅっ!!!」
アタシの下腹部を駆け抜ける電流!!
うずくまるアタシを心配して駆けよってくる愛しいロン!!!
「妊娠したぞ! コラぁ!! 責任、取れや!!!」
「なんでさ!!!!???」
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出し忘れていた洗濯物を出しに来たら、とんでもない状況に出くわしてしまった。
「アタシがロンの成分を嗅ぐのを認めるってのはよ! 実質、〇ックスと言っても過言ではないんだよ!!!」
「えええええええええええええええ???????」
とっさに隠れて様子を窺うと、凄い状況だ。
「あのロンに。鍛冶一筋で、女っ気の無かったロンに。春が来たようで嬉しいわ」
いつの間にか横に立っていたレオナが、ロンの姉のような振る舞いを見せていた。
「寂しいからと、送って寄越すように言っていたハンカチを、あんな風に使っていたのか?」
「身内の贔屓目だけど。ロンはカッコよく育ったと思うの。だから、女っ気が無かったのが心配。心配だったの」
俺の問いかけを無視しているが、ロンを心配する様子は慈愛に満ちた姉そのものだろう。
俺の洗濯物のパンツを被っていなければ……。
「で、使っていたのだろう。その様子を見ると、一目瞭然だが」
「寂しかったの! 寂しかったんだから!!! 仕方ないじゃない!!!」
激昂する俺のパンツ。
「今だって、抜け駆けしたいのを抑えて。コレで我慢してるの! してるの!!」
パンツの脚を通すところから見える瞳に涙が、にじんでいる
「十数年、寂しい思いをさせたんだから、コレくらい許すべき! そうすべき!!!」
過去の、生き別れた頃のように、可愛らしく拗ねるレオナに注意が出来なかった。
パンツの魔人状態でなければ、完璧に可愛かったのだが……。
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レオナが、さも当然のようにパンツを強奪して去っていった。
ロンとレミは、いまだに問答しているようだった。
「オルフ。寝る。睡眠の重要性」
レオナと同じように、いつの間にか隣に居たスノウに、寝て忘れるように忠告される。
着ているシャツの腹の部分の中に、俺の持っていた洗濯物を入れていなければ、完璧な助言だったかもしれない……。
「……俺が、おかしいのか?」
スノウも去り、出す洗濯物が無くなり、独り残された廊下に虚しく吸い込まれる抗議の声。
今回の番外編は以上です。
次作の投稿再開に合わせて、宣伝目的での再投稿を検討しています。
次作ともども、お楽しみいただければ幸いです。




