兵士としての日常
予約投稿です。
「アレクセイ様の、お気に入りだからって、調子に乗るなよ」
魔物討伐の出兵から戻ってきたハゲ頭の厳つい兵士長が、練兵場で訓練中に注意してきた。
「アレクセイ様の調子に乗ってたら、身体が保たんし」
練兵場の隅でチラチラと、こちらを見ていたアレクセイを見ながら溜息をつく。
「アレクセイ様は、執務も有るからな。お時間を取らせる訳にはな」
当のアレクセイは、身重の奥方に叱られ、耳を引っ張られて、執務に戻っていったようだ。
俺が来てからの日常風景なので、周りの兵士達も苦笑いだ。
ユニーク・スキル持ちで、鳴り物入りで兵士に採用された俺だが、訓練に参加する以外は兵士見習いの仕事を志願して、従事している。
まだ十五歳前の若輩者が、組織という集団に馴染むためにも、こういった雑用の下積みを軽視しては駄目だ。
国レベルの巨大な組織なら良いが、この規模の集団では団結が乱れるのは、組織力の低下が著しい。
少しでも戦力は強く、多いほうが良いのだ。
「恩寵持ち様に、自分の糞の掃除をさせるとはな。こいつらは、さぞ名のある名馬になるんだろうな」
同僚である十五歳のロイが冗談交じりに、明るく馬小屋の掃除をしている。
「ユニークなんて、他から与えられたモノより、自分で積み重ねたモノが、価値が有ると思いますよ。ロイさん」
「そんなモンかねぇ。シルバは、年下に思えないくらい立派だよな~。貰えるもんなら土下座したって欲しいぜ。ユニークは」
同僚から嫉まれず、笑いあえる関係が作れるのは大事だ。
ロイの人柄も有るが、命を賭けるからには、足を引っ張るより協力しあえる方が良いに決まっている。
午後の雑用を終え、夕食まで訓練でもしようと練兵場に向かっていると、食堂裏の庭で夕食の支度をしているのが目に入った。
「今日は芋料理ですか? ヒルダさん」
近々、生まれるアレクセイの子供の担当に抜擢された新人メイドのヒルダさんが、大量の芋の皮剥きをしていた。
ヒルダさんは基本に忠実だが、丁寧過ぎるせいで仕事が遅いのが難点。
籠に入った芋の量を見ると、夕食までに終わりそうになかったので
「手伝いますよ。自分の仕事は終わったので、暇ですので」
「身体を休めるのも、兵士の仕事ですよ。これは私の仕事なので、お構いなく」
子供の担当に抜擢されたので、相当な重圧を感じているのか、最近のヒルダさんはピリピリしている。
責任感も強いので、手助け無用の姿勢で睨んでくる。
「休むのも仕事ですが、お腹いっぱい食べるのも、兵士の仕事ですよ。体力作りは基本ですから。手伝わせてください」
「……そういうことでしたら、手伝わせてあげなくはないですけど……」
【偽装】(偽)って、便利。
「将来の英雄様だか何だか知らないけどね! 腹いっぱい食べるのも、兵士の仕事なんだろう!? まだ成人前小僧は、もっと喰いな!!」
食堂に行くと、食堂の小母ちゃんから尋常じゃない量の芋を盛られる。
あのやり取りを見られるか聞くかしたのだろうかと、小母ちゃんと共に配膳しているヒルダさんを見ると、顔を赤らめて、そっぽを向かれてしまった。
「おお~! やっぱり色男には、サービスが良いね~。おまけに将来有望だからな」
ロイと上司のブルータスさんと共に、食卓に座りながら、ロイが軽口を叩く。
「……上司として、シルバに仕事を与えよう」
芋が苦手なブルータスさんが、追い芋をしてきた。
『ブルータス! お前もか!?』
痴女の声が聞こえた気がしたが、今は芋の山と戦うのが大事だ。
「シルバ、お前はコユキ村の出だろ? ここ数年、あの方面に小鬼とかの討伐依頼が出てなかったのは、お前か?」
「あ、はい。実力を付けるために、狩れる魔物は狩ってましたから。そのせいかと」
「俺は、あの近くの村の出でな。依頼が来てからじゃ、被害が大きいからな。お前のおかげだったなら、礼をしないとな。どれ、手伝ってやろう」
他の同僚が話しかけてきて、仕事を少し受け持ってくれた。
その後、数人の近隣の村の出身の兵士達も、受け持ってくれた。
何とかなる量の小山になった芋を見ながら、兵士の一員になれた実感を感じていた。
ーーーーーー
そんなシルバからの近況の手紙を読みながら、兵士になったシルバを思う。
(良かったね。シルバ。皆に認められて、良かったね。偉い。偉いよ。……でも)
また始まった。と、諦めムードの兄を尻目に
(奥さんとして、ヒルダは。浮気は、駄目だよ。分かってると思うけど。思うけど。ダメなんだよ~)
シルバの手紙を、ちょっと皺にしながら、黒いオーラを噴出するレオナであった。
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます
章ごとに投稿を考えておりますので、誤字脱字の修正は遅れます。