その名は……
前世での恩人達の娘のため、命懸けで戦うオルフ。
その戦いが、恩返しが結末を迎える。
『……』『……』『……』
ベラ嬢の屋敷の庭、並べられた三つの武具と、黙って見つめる六つの瞳。
恒例行事のようになっている新しい武具の報告を、俺とサラ、その他の仲間たちが聞いている。
「オルフ様が、邪神でさえも許容する”器”であったため。不要になった火の触媒”深紅”の首飾りの核。それを魔剣・干魃改の柄頭に取り付けました」
『……』
新調した魔剣の説明を黙って聞く俺達と、黙って見つめる二つの瞳。
「余ったものをサラさんの魔剣にも使いましたが、マンダラから奪った盾と兜に使われていた”聖銀”。これを使うことで、満足のいく出来。神に献上しても悔いのない出来に仕上がりました。オルフ様の全力にも耐えうると思います」
「自画自賛は好きじゃないけどね。ベラちゃんやカリンちゃん、スノウちゃんやクロイツェルさんの持つ宝具。伝説の武具並みの出来。オルフに相応しい最高の出来よ」
『……』『……』
満足のいく仕事を、やり遂げ、誇らし気な表情のレオナとロン。
それを証明する四つの瞳。
「私の見間違いでしょうか。オルフ。私、見えるんですの。私の魔剣の横に……ベラのフランベルのような者が」
サラが、不安そうに言うが、見間違えなどでは、決してない。
伝説の武具の、あまりの仕上がりに、武具が意思を、人格を持ち、思念体が生まれる。
サラの魔剣の隣に立つ活発そうな少女は、紛れもなく本物、伝説へと至った証!
「ええええ!!??? 居るの? ディーヴァ。貴女と同じのが」
「ワハハ! 照れるな。照れるな。俺は見えんが、お前の反応で可愛い娘達が見えてるのが分かるぞ。ワルター」
対応した属性を高めることで、気配を感じ、声が聞こえ、姿が見える。
サラの”火”の魔剣の思念体が見えずとも、自分の宝具が見える者達は、そこから存在を知る。
「名前を付けてやれ。アレは、お前のために創られた。お前が、最初に持つ……宝具」
俺の言葉を受けて、サラが頭を悩ませて命名しようと、うんうんと唸る。
『……名前……可愛いのが…………良い』『ふわぁあ……』
鉈のような武骨な魔剣・牙、度重なる改良、極めつけの聖銀による改良で強度が確保されたおかげで、実用的で飾り気は少ないが美しい長剣になっている。
その美しさに比例するように、可憐で物静かな、長い白髪の少女。
今まで名前を付けてもいなかったが、鎧も輝きを増し、宝盾・ワルターのように防具でありながらにして、伝説へと至った俺の、俺だけの鎧。
剣の少女と同じ白髪、クルクルと自然なパーマの掛かった髪型の、眠そうな少女。
その白い髪の思念体達、氷を主体に戦う俺の武具、これらを加味して名付けようと思った時、思いつく、連想したこと……。
「ユキ。レオナとロンの故郷、”コユキ”村から、剣は”ユキ”。雪が降った明け方、軒先に、家に付く”氷”。鎧の名は”ツララ”にする。馴染みのある名前が良いだろう」
製作者であるレオナとロンの故郷、前世での故郷、雪深いコユキ村の情景を思い浮かべながら、俺の新しい武具に名を付ける。
『……ユキ。可愛い名前。……嬉しい』
嬉しそうに、剣を持つ俺の右腕、服のすそを軽く摘まんでくるユキ。
『ふわぁあ。ツララ。ふわぁあ……』
こちらも気に入ってくれたのか、鎧の思念体らしく? 俺の背中に、ぶら下がりながら頭をペシペシ叩いてくるツララ。
「私! 決めましたわ!!!」
悩みに悩んでいたサラの声に、サラの剣の少女と周囲の者達からも注目が集まる。
「強固な黄土色の刀身。その中に真っ赤で、紅蓮の炎を込めることで強く、素晴らしくなる。アクセントとして、”深紅”が輝く。まるで、私の大好きなモノのよう」
真剣に悩んだのだろう、いつもより語彙が豊富で、深い思慮を感じさせる前振りに、否応なく期待が高まる。
「剣の名前は”オムライス”!!! 私の大好きな、黄土色の刀身で紅蓮の炎を包み、深紅を加えた至高!!!」
『おおお!! オムライス!! 良い名前だ! カッコイイな! 英雄に相応しい名前だ!!!』
火の思念体の声、姿を感じられない者達は純粋に呆れ、俺とベラ嬢は思念体の反応も合わせて苦笑いだった。
『……せめて、”オム”と呼ぶかの。”オムラ”でも良いが。”ちゃん”付けで呼んでやれ。せめての……』
思念体を代表して、フランベルが発案する。
魔剣・干魃改、あらため魔剣・オムライスのオムちゃんの誕生である……。
「アハハ! 貴女らしい名前ね。可愛らしくて、良い名前だと思うわ」
「姫様。本気で言っとるのかの? まあ、らしいと言えば、らしいがの」
こういう不意の登場が好きなのだろうか?
「え? 誰??」
この場の、屋敷の庭の、この領地の管理者、ベラ嬢が声を上げる。
顔を知っている俺とスノウ、サラ以外の仲間達は、脅威に気づいてもいない。
「ルナちゃん、凄いでしょ? 私のオムライスは。これさえあれば、フランベル無しでも魔王にだって負けませんわ!!」
空気を読まないサラとオムちゃんが、誇らしげに胸を張る。
「久しぶりと言うのが良いのかな。魔王ルナ。何の用だ!?」
俺の発言から脅威を感じ取った仲間達が、臨戦態勢になる。
「戦う気は無いのよ、オルフ。私の狼さん。【魔王】は止めてね。今の私は、ルナ。ただのルナ。貴方に恋する、ただの吸血鬼の少女」
若干の嘘と共に、四天王”水瓶”のドナテロを従えて、”元”魔王の登場に戦慄する。
完結まで更新は平日午前6時、土日祝日午前1時に行います。




