暴力
シリアスに見せかけたギャグ回です。
「……次から次へと。面倒だナ!!!」
嵐のように去っていった魔王を見送った後、進んだ先の四天王”遠雷”のジョイフルが苛立っていた。
俺のところに来るまで、あの自由奔放で傍若無人、圧倒的な強者である魔王を相手に、神経を擦り減らしていた所への来訪を考えると納得しかない。
「他の奴らは、どうした? まさか、俺っちを相手に、単独で挑む気じゃないだろうナ?」
「その、まさかだったら、どうする? 大勢で来たら、怖がって逃げてしまうかもしれないからな」
マンダラの毒を除去するまで、スノウが戻り、全員に風の鎧を纏わせて進軍するのを待ってもよかったのだが、マンダラや魔王の登場など、不確定要素が多すぎた。
速さに自信が有る俺でも、雷の速さには敵わない。
これ以上、敵の逃走を許さない為にも先んじて攻めたのだ。
「間違いだったことを教えてやろう。俺っちは逃げも隠れもしないってナ!!! 閃光!!!」
以前も見たことのある、雷と化して、直線的に攻めてくる戦法。
前と違うのは宝斧・ルギスによって、段違いな魔力、熱量を持っていることだ。
「マンダラや魔王が来なくても、ジョイフル。お前には、俺だけで挑むつもりだった。その為の準備、対策は、してきた」
雷を通さぬ四天王”鬼火”のウィルの外皮で強化した武具を身に纏い、剣には雷を付与してある。
俺を貫こうとしても、ウィルの外皮に阻まれ、剣に引き寄せられて着弾点を誘導される。
着弾した際の熱量は、熱によって強固になる外皮のおかげで、より武具を強固にし、壊れることは一切ない。
「捕まえたぞ。これで、雷になって動けないだろう」
以前のように安全に、少し離れた所に着弾させるのではなく、俺の目の前で実体化させたジョイフルの腕を掴む。
他者ごと雷となって移動できないのは、スノウとの実験で実証済みだ。
「閃光を封じただけで良い気になるナよ! 俺っちと、この距離で! 殴り合いの間合いで、殺し合えるってノかヨ!!!」
ジョイフルが真の姿、二メートルを超す”鬼”の姿へと変貌を始める。
「俺を超える速さを失った。お前など敵では、ない!!! 解除! 黒炎・生前を越えて!!!」
火の魔力で起動する俺の神々からの恩寵【人狼の魂】を、増大した火の魔力で起動させる。
火の邪神・ジャミラから授かりし、火の加護を持ってして!!!
ーーーーーー
「オルフ。オルフ!!」
戻ってきたスノウさんに風の鎧を纏わせてもらって、まだ瘴気が抜けきっていない洞窟を駆ける。
逃走されるのを防ぐ意味で、単独でジョイフルを打倒するために先行したオルフを想う。
スノウさんは、オルフが準備も対策も万全、単独でも大丈夫だと言っていたが、心配で胸が張り裂けそうだった。
「オルフ!!!!」
鈍い轟音が鳴り響くジョイフルの居城、オルフが戦っているであろう場所の扉を勢いよく開け放つ!!
「止めろ!! 止めてくれ!!!」
悲痛な叫びを上げながら、ジョイフルと思しきボロ雑巾を殴りつけ続ける黒き獣人に追いすがるジョイフルの部下達。
「死んでる!! もう死んでるんだ!!! 止めてくれ!!!!」
止めに入るが、圧倒的な力の差で止められないどころか、その暴風のような暴力の余波で部下達の死体が積みあがっている。
『があああああああああああああああ!!!!!』
そんな光景、地獄のような光景の中で、黒き獣人が吠える、殴る、蹂躙する!!
悪魔のような黒き獣人、その頭髪だけは見覚えのある、愛しき人の白くなった頭髪!!!
「止めて!! もう止めて!!! オルフ!!!!」
ーーーーーー
火の邪神・ジャミラから授かりし【黒炎】の加護により、白い【人狼の魂】が黒く染まり、黒き人狼の姿へと変貌する。
神のレベルに手が届いていた俺の氷と火が融合した黒き人狼は、”鬼”など意に介さぬ”神”の暴力をジョイフルに浴びせかける。
「■め■!! ■■て■れ!!!」
下界の生物であるジョイフルの部下の声など、神界の”神”と化した俺には、よく聞こえない。
下等な生物の言葉など気にせず、ジョイフルを痛めつける!!
「死■■る!! もう■■■る■だ!! ■■■■!!!!」
『があああああああああああああああ!!!!!』
殴る、ベラ嬢のため、叩きつける、勇者などという過酷な運命を産む【魔王】の精鋭、抉る、憎き四天王、潰す、王都を襲撃し、殴る、ヒルダさんを殺した主犯の一人を……殺す!!!
『もう良いよ。もう良いの、オルフ』
「■めて!! もう止め■!!! オルフ!!!!」
今は亡き懐かしい温もりが、ジョイフルを殴らんと振り上げられた拳に重ねられる。
途端に、鮮明になる視界と周囲の音。
視界の端で泣き崩れるベラ嬢を見つけ、我を忘れていたことを思い出す。
(ありがとうございます。ヒルダさん。貴女のおかげで、還ってこれました)
現世から離れかけていた俺は、現世から離れたヒルダさんの後押しで還って来れたようだ。
死して尚、俺を、俺達を見守ってくれたヒルダさんには感謝しかない……。
もう僅かも無い俺の黒い頭髪を見ながら、全力で戦える回数が少ないことを再確認するのだった。
Q、何故、もっと早く止めなかったのですか?
A、え? だって、私が死んだ襲撃の主犯の一人でしょ?
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
六章完結まで、平日6時、土日祝日1時に投稿します。




