孤児院の攻防
イザベラの屋敷、コユキ村と、対策は用意していたオルフだったが、このボイサーの孤児院については無策であった。
ここの管轄が四天王”水瓶”のドナテロであり、マンダラに対して良い感情を持っておらず、すでに一度、越権行為を行っていたので大丈夫だと判断していたのだ。
そんな無策、無防備に近い孤児院に、成人しているのは女性だけの孤児院に、魔の手が迫っていた。
「気に入りません。気が進みません。マンダラ様は、なぜ。このような越権行為。いたいけな少年少女。清きシスターの襲撃など……」
コユキ村で動員されなかった分、ドナテロの管轄でもあるので、過剰なほどの軍を率いているにも関わらず、兵に聞こえる音量で愚痴をこぼす。
その進軍も遅く、亀の歩みのような緩やかさでボイサーの孤児院へ向かっている牛歩戦術。
戦意の下落、進軍の遅滞というデメリットしかない行為をする指揮官に、誰一人として意見することが出来ないでいた。
「この”流砂”のダート。このような赤子の手をひねるようなことをする男ではないぞ……」
鎧など身に着けず、ラフな格好の人化した”流砂”のダート。
マンダラが四天王にならなければ、本来の運命なら四天王として、采配を振るっていたはずの”流砂”のダートに意見できる者など居ないのだ。
そんなダートの足元、孤児院が見えてきたところで、突き刺さる一本の矢!!
ーーーーーー
「シスター・パピ。これは私の我儘。貴方も、皆とボイサーの中枢、避難所に逃げていてください」
「嫌ですよ~。シスター・リョカ。私だって、孤児院が無くなれば行くところが無いんですから。出来ることはしたいですよ」
遠くに見える、ゆっくりと街外れにある孤児院の方角から進軍してくる魔王軍が発見され、街は厳戒態勢が敷かれた。
進軍してくる魔王軍は、全てをなぎ倒すだろう、孤児院を、迷える子供たちの家を、唯一の拠り所を。
長命種である私が、創立当初から携わってきた、この尊き場所が蹂躙される。
「生きてさえいれば……。頭では分かっているのです。それでも心が、魂が、それを看過してくれない。おばあちゃんになりましたね。頑固になったものです」
「エルフですもんね。そりゃあ、私達より老人ですよ。老害? 頑固も筋金入りでしょうよ」
緊張を和らげるための軽口に、ポカリと軽く、笑って叩く。
「ーーーっ!??? ……サーセン」
「え? そんな強く叩いてませんよ? 涙目にならないで」
そんな風にふざけ合っていると、私の弓の射程内に、指揮官らしき人物が入る。
「オルフ。私には、過分な物をありがとう。元気でね……」
オルフから寄贈された”母へ”とだけ彫られた、銀等級が使うような立派な弓から、決死の一撃を放つ!!
ーーーーーー
「これは、驚いた。なんと気高い。目が覚めるようだ……」
マンダラから受けた厳命は、”孤児院の破壊”と”シスター・リョカの殺害”だけである。
可能ならば街の壊滅、人族の殲滅だが、ドナテロの管轄ゆえ邪魔が入ることを予期しての命令。
孤児院の破壊は容易いが殺害は、中央の避難所に逃げるだろうから面倒だと思っていたダート。
予想に反して、子を、家を守る聖母のように立ちはだかるシスター達を眩しいものを見るような目で見る。
「……我が主、”泥土”のマンダラ様から受けた命は”孤児院の破壊”と、そこのエルフ。貴方の殺害だけだ」
全軍を制止し、一人、単独でシスター・リョカの前で歩み出るダート。
射かけられる矢、投げつけられるナイフ、その全てを”流砂”の二つ名に相応しい砂の防御で防ぎつつ、悠然と歩み出る。
「おとなしく、破壊と殺害を受け入れるなら。他に危害を加えないと約束しよう」
「え!???」
突然の申し出に驚き、射かける矢の掃射が止まってしまうシスター・リョカ。
「街の人間。孤児院の孤児達には、決して。決して、手は出さないことを”流砂”のダートの名に懸けて誓おう」
孤児院と自分の命だけで、街の、子供達の安全が保障されることに困惑し、決意しかける……。
ふいに放たれた小石の投擲、ダートの砂の防御ですら、攻撃だと判断しなかったくらいの小石の投擲が、ダートの胸に当たる。
「帰れ!!! お母さんは! 僕らが守るんだ!!」
「オルフ兄ちゃんの代わりに! 守るんだ!! 帰れ!!! バカ!!!!」
孤児の二人、ラックとルーが母を、避難する混乱に乗じて抜け出し、母を、此処には居ないオルフの代わりに守ろうと、震える脚をしながらも立ち向かう。
「駄目よ!! ラック! ルー!」
シスター・パピと共に、二人を、ラックとルーを庇うように覆いかぶさるシスター・リョカ。
「怨みますよ。魔王様のためだと言われたから、四天王だって競わず譲った。貴方の策は汚くても、結果を出したから従った。コレが結果を出さなかったら。気高く美しい、この光景を踏みにじらせた報いは、受けてもらいますからね」
防御に使っていた流砂を尖らせ、槍のようにしたモノをシスター・リョカにだけ当たるように、最大限の集中を持って、放たれようとしていた……。
「文句が有るなら、自分で考えることじゃ。自分の身の処し方を他者に任せた時点で、オヌシは駄目なのじゃよ」
シスター・リョカを貫こうと放たれるはずだった砂の槍を、現れた老人に向けて、全力で放つ!
「もっと、決定的に、ワシの領地で暴れてからなら、完膚なきまでにマンダラを叱責できたのじゃがな……」
ダートの砂の防御のように流れる流水、否、激流が攻撃を飲み込み、無力化する。
「「ドナテロの、おじいちゃんだ!!」」
無邪気に、ドナテロの出現に気づいたラックとルーが声を上げる。
「温泉好きを自称するワシとしては、共に汗を流した友を無視できなんだ。……そこまで読んで、無策だったのかのう?」
「ドナテロ様。管轄外、越権行為だとは分かっています。ですが、最低限の仕事は、させてもらいます。見えないのですか? この大軍勢が」
そう言われて、ダートの背後に控える軍勢を一瞥するドナテロ。
「大津波」
つまらなそうに呟かれた呪文に導かれ、何も無いところから大量の水が、海と見紛う激流が発生し、控える大軍勢を、ダートですら、なすすべもなく飲み込んでいく。
「正しく精進すれば、四天王にもなれた才能は有ったじゃろうな。だが、考えることを他者に委ね、考えることをしなかった。だから、その程度で終わるんじゃ」
あれ程の激流、津波が起きたとは思えぬほどに、周囲の木々、地面が少し濡れているだけで、嘘のように静かになっていた。
あれだけの軍勢も、何処ぞへと流されたのか、飲み込まれたのか、ドナテロに狙われたモノは全て、消え去っていた。
「……あはは、嘘でしょ?」
鳩の獣人である、シスター・パピが、まさに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「さ~て、一汗かいたの~。背中を流してくれんかの? ラック坊、ルー坊や」
「「うん!」」
こうして、オルフの人間性の一つが守られた……。
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
六章完結まで、平日6時、土日祝日1時に投稿します。




