コユキ村の攻防
分かる人には分かるパロディ回です。
冒険者として、やっていけるだけの実力は有った。
銅や銀とまではいかなくても、黒鉄として、普通の人々を、身近で危険な魔物を倒せるだけの実力は有った。
それでも実入りの少ない兵士、オスカー様、アレクセイ様の兵士になったのは、安定な生活もそうだが、帰るべき場所を失ったからだ。
冒険者に支払う依頼料を用意するのが遅れ、依頼自体も他の依頼に紛れ込み、後回しにされた。
頼みの綱の領主の貴族への嘆願も、他の村々の嘆願などや領主の怠慢により、後回しにされた。
こうして故郷の村は、俺を含む数人の生き残りを残して、滅んだ……。
他の村に移住していった同郷の者達に別れを告げて、雪深い、当時はオスカー・ヴォルフ辺境伯の領地に来たのは、愛想が尽きたからだ。
ここでは冒険者に依頼するよりも、オスカー様に嘆願した方が速く、安く済むと評判だった。
そういう所にも感銘を受けて兵士に志願を、遠方から来た余所者である俺を暖かく迎え入れてくれた。
そんなオスカー様は、入って間もない新人の俺を置いて、周辺に出た流れの魔狼を討伐に行って、還らぬ人になった……。
次の当主になったアレクセイ様も素晴らしい御方で、オスカー様と変わらずに誠心誠意、兵士として尽くした。
ここへ来てから十数年、俺もベテランとなり、新人の教育にも尽力し、最後の担当新人のシルバが入団した。
生き急ぐように、年齢にそぐわない程の落ち着きを見せ、自分よりも他者を、自分の命を勘定に入れないシルバを心配し、俺が守らればと心に誓った。
そんなシルバもアレクセイ様も守るどころか、俺を守るように、俺の目の前で亡くなっていった……。
俺の大切なモノは、俺を置いて、俺を残して、なくなっていくのに疲れたのだ……。
終の棲家として選んだのは、守ると誓ったシルバの故郷、コユキ村。
シルバの代わりに、シルバの両親のことを守っていこうと思ったからだ。
シルバの幼馴染のレオという青年と共に、狩りをしつつ平穏に暮らしてきた。
俺を置き去りにしてきた”死”が、ようやく俺を迎えに来る!
ーーーーーー
「ブルータスさん!!?」
「大丈夫だ!! 俺は、まだ戦える! まだ動くな、レオ!」
見る者が見ればリンチに映るような、村の住人が取り囲まれ、全員が集合する広場で繰り広げられる光景。
広場の中央で、代表者同士の一騎打ち、村の命運を決める一騎打ち。
「諦めろと言っている。この”疾風”のリラリラ。抵抗さえしなければ、痛みを与えずに葬ってやると言っているだろう」
「それで俺以外を見逃してくれる訳では無いのだろう? なら、俺は! 俺の心に誓ったままに!! 好きにさせてもらうぞ!!!」
目立った戦力も無く、小さな村の襲撃ということで大猿の魔物であるリラリラが引き連れてきた軍勢は少ないが、それらを差し向けずに一騎打ちを受け入れているのは、武人である矜持。
腕力を主体とする種族にあって、細身で小柄、”疾風”と呼ばれる程の速さに特化した異質な自分を取り立ててくれたマンダラの厳命を果たす忠義と、蹂躙とも言える襲撃の罪悪感の折衷案。
「へへ。馬鹿じゃねぇの? リラリラ様に敵う訳ねえのに。無駄に痛めつけられるだけじゃねえか」
「手加減されてるのが分からねえのかね? 速さが主体とはいえ本気で殴れば、ぺちゃんこなのによ」
周囲の魔物から嘲笑が、自身を顧みず他者を守ろうとする勇ましき者へのいわれなき批判。
一騎打ちなどという非合理的な、命令違反と取られても仕方ないようなことをしている負い目によって、嗤う部下達を叱責できずに押し黙るしかないリラリラであった。
「待てぇぇぇぇぇぇい!!!!!」
一騎打ちが行われる村の広場から見える、一番高い木の上に見える人影。
「敵わずと知りながら、理解しながらも立ち向かう。その者は”勇者”というのだ!」
防寒用のコートやマフラーで全身を覆い隠し、誰だか分からないが、覗く瞳や武器をしっかりと握るために手袋をしていない手。
「その”勇者”を嗤う貴様達! 武器を持たない! およそ戦うことの出来ない村人を多勢で責めたてる貴様達!!」
見える人影は人では無く、魔物であるのが明白!
「人、それを”外道”と呼ぶ!!!」
「何者だ!!?」
リラリラの部下の問いかけとともに、木から飛び降り、華麗に着地する謎の魔物。
「”外道”に名乗る名など、無い!!! 猛進!!」
瞬く間に、進路上の魔物達の首が飛び、胴が切断され、絶命していく。
「何をしている!? 迎え撃て! 矢を、矢を射らんか!!」
一瞬の出来事に惚けていたが持ち直し、部下達に指示を飛ばすリラリラだが、その指示を実行できる部下は居ない。
「隠し玉を用意していると聞いていましたが。魔物とは。教えてくれないとは、オルフ様も人が悪い」
「やっと、暴れられるぜ!!!!」
オルフの要請により、前もって村の周辺に居たエルネスト伯の執事・クラウスと、一騎打ちに敗れた後、自分よりも倒す可能性が有ると判断されたブルータスの一番弟子、見立てでは銅等級相当のレオによって、混乱の中で制圧されていた。
部下を制圧され、胸に去来するは”怒り”ではなく、”安堵”が浮かぶリラリラの表情は穏やかだった。
武人として恥ずべき一方的な略奪ではなく、対等の戦いになったことへの”安堵”。
それをもたらした魔物が静かに、こちらに向かって来ている。
「我が名は”疾風”のリラリラ。変な話だが、礼を言おう。これで”戦い”になった。大恩ある主の命とはいえ、気が進まなかったからな。……名を聞かせてくれるか?」
「……キリバ。”潜行”のキリバ」
速さを主体に置く両者の戦いは、一瞬で決まる。
「”疾風”!!!」
「爆進!!!」
背後で崩れ落ちるリラリラに目もくれずに、キリバは集められていた非戦闘員の中の人物達のもとへ向かう。
魔物の接近に怯えるが、窮地を救ってくれた相手、向かってくる足取りが穏やかで敵意を感じないので、止める者は居なかった。
民間人の集団の中の、とある夫婦の前で、うやうやしく膝をつく。
「魔物である某ですが、義によって助太刀しました。シルバー殿には恩義が有ります。この助太刀は、その礼。シルバー殿からの願いを聞いたまで」
「え!? シルバーが?? 嘘!? だって、あの子は……」
信じられぬといった表情で、シルバの両親が、母が泣き崩れる。
キリバの言葉には”嘘”は含まれていないため、誰一人として”嘘”と断ずるだけの確信を持てずにいた。
全ての真実を知るマンダラ以外の魔王軍の認識では、オルフはシルバの産まれ変わりまでは推測されていた。
キリバがオルフに、恩義を感じているのは本当のこと。
そのオルフに、オルフ・シルバーアーツ子爵に、村に何かある気配が有ったなら助力して欲しいと言われたのは本当のこと。
調査によりシルバの両親と、母から”シルバー”と呼ばれていたのは知っていた。
「死んでも、あの子は。シルバーは私達を……」
キリバの計らいによりシルバの想いは、無事に両親の元へと届いたのだ。
こうして、オルフの人間性の一つが守られた……。
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
六章完結まで、平日6時、土日祝日1時に投稿します。




