屋敷の攻防
「……それに対する答えは決まっている。前から決めている……」
自身の望む返答かと期待を込めた視線を送ってくるマンダラ。
ーーイザベラの屋敷ーー
「この”鉄壁”のゲイル。そんな攻撃など子揺るぎもせんわ! プハハハハ!!!」
兵士、冒険者の経歴を持つ料理長・ロイであったが、凡庸の域を出ない彼の攻撃では、先代の四天王”堅固”のアントラからの二つ名持ちゲイルのスライムとは思えぬ外皮を貫くことが出来なかった。
「ロイさん……」
そんな彼を心配そうに見つめるレミであったが、彼女を中心とした使用人の集団もゲイルの兵達に取り囲まれており、予断を許さない状況であった。
(俺は、どうなっても良い。だけど、レミは。レミ達は逃がさないとな。待ってる奴、会いたい奴が居る。俺と違ってヒルダが! ロン生きてる奴くらいは!!)
そんな絶望的な状況に至っているにも関わらず、ロイの瞳から炎が消えない。
『ユニークなんて、他から与えられたモノより、自分で積み重ねたモノが、価値が有ると思いますよ。ロイさん』
思い出すは、かつての同僚、若くして散っていった戦友との他愛ない会話。
(あの時、どう返したんだっけな……。やっぱり土下座してでも欲しい。今だけでも! 今だけで良いんだ!! 俺に守るだけの力を!!!)
生きる意味、意義を失いかけていた男が、未来ある若者を守るために、みっともなく足掻く!!!
「諦めねえぞ!! 諦めてやるものか!!! ここで踏ん張らなかったら、顔向け出来ねえ! アレクセイ様にも! イザベラ様にも! シルバにも!! ヒルダにも!!!」
「「「グワアアアアアアアア!!!!」」」
突如として、周囲を取り囲んでいた魔物の軍勢が燃え盛り、悲鳴を上げ始める。
「よく頑張った。後は任せたまえ。指示は受けている」
囲んでいた魔物の背後から、エルネスト伯と見知らぬ小柄で精悍な青年の軍が躍り出し、戦況を一変させる。
「僕ちんと、僕ちんの軍が来たからには大丈夫なんだな! 使命を他者を守ることのなんと美しきことか! こうなりたいと思って、憧れてきた!! 行くぞ、お前達!! 鍛錬の成果を見せる時だな!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
「プハハハハ! 雑魚が集まった所で無駄だ! 私を倒せねば殲滅に時間が掛かるだけで、結果は変わらない」
「品の無い笑い方だね。あまり喋らない方が良い。品性を疑われるよ。君と、君を従えている主のもね」
戦況が変わったにも関わらず、それを意に介さずに自身が居れば十分と不遜な態度のゲイル。
それとは対照的に、涼しく冷静に、洗練された美しきレイピアを携え、対峙するエルネスト・メックリンガー辺境伯。
「蜂の一刺し!!」
一切の無駄を排し、洗練された所作から繰り出される火の魔力を込められた最速の突き。
家名を継ぐ前、王が帝冠する前、共に冒険者として、やんちゃをしていた時のエルネスト伯は”煉獄”と呼ばれる程の魔剣士だったのだ。
「ぬぅうん!! 無駄無駄! その程度、蚊に刺された程度にしか感じんわ!!」
まともに受けたにも関わらず、”鉄壁”の二つ名に恥じぬ防御力。
衝撃で後ろに、僅かだけ下がるだけで、自慢の外皮に傷一つ付いていない。
「喋らない方が良い、と言ったよ。蚊に刺されたと言ったということは、少しはダメージが有ったのだろう?」
自慢の一撃を防御されても気落ちなどせず、むしろ更に魔力を高ぶらせ、必殺の気迫を放つ!!
”黒鉄”等級だったオルフに二等級上、”銀”等級相当の”白銀”の等級を与えたエルネスト伯。
貴族付きであることの証明と等級試験が免除された証である青銅、白銀、白金、聖銀の等級だが、与える条件には爵位と実力が関係している。
子爵までが”青銅”、伯爵までが”白銀”、公爵から”白金”、大公や王が”聖銀”と定められており、原則として対象者の一等級上までが無条件で与えられることになっている。
一時の恩や見栄で与えられるのを防ぐためであり、対象者が身の丈に合わない依頼を受けて失敗しないようにとの処置なのだ。
オルフのように飛び級させるには依頼の保証、貴族自身が失敗の際に、自ら達成する保証が必要となる。
エルネスト伯の冒険者時代の等級は”金”!
国から勇者級と認められる規格外の”聖銀”を除く、現行の等級での最高峰!!
「煉獄! 蜂の一刺し!!」
先程と、全く同じ攻撃。
「ぬ! ぬぬ! ぬぬぬぬぬぬ!!!!」
違うところは、連撃だということだけ。
息もつかせぬ、同じところへの、多少の身動ぎでズレても構わず、当たった場所への執拗な連撃。
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぅうん!!!!」
当たれば、少し後ずさりする程の攻撃の間断ない連撃に、なすすべもなく、されるがままになるゲイル。
やがて自慢の外皮に、”鉄壁”と称えられる外皮が凹み、ヒビが入り、亀裂となり、砕かれる。
「馬鹿な!?? そんな! そんな脆弱な攻撃で!! ”鉄壁”が!? 私の”鉄壁”が!!!??」
動作の無駄を排し、魔力の無駄を排し、最小の労力で、最大の効果を生むエルネスト伯の魔剣術。
一度、火が入れば、相手が絶命するまで続く地獄に名付けられたのが”煉獄”。
「蚊に刺されたなどの情報を与えるからだ。1も積み重なれば億万となる。やはり喋らない方が良かったね。不利な情報を私に教える結果になったのだから」
「いや……それはエルネスト様だけですよ。その情報を有効活用できるの。……ここまで……愚直に連続攻撃できるとは思えませんもん」
襲撃を退けた安心感で気が緩み、多少の礼儀を欠いたロイであったが、言葉を選んで”愚直”と発言した。
連撃が止まる前に、すでに絶命していたゲイルの無残な死骸を見ながら、こう思っていた。
(見かけによらず、意外とエルネスト様は…………”脳筋”で、いらっしゃる……)
こうして、オルフの人間性の一つが守られた……。
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
六章完結まで、平日6時、土日祝日1時に投稿します。




