神への参詣
前世からの恩義ある人々の娘を勇者という過酷な運命から救おうとしていた。
しかし、世間から勇者と認識されてしまった娘の負担を減らすために、共に勇者としての道を歩む。
降りかかる災難を先んじて祓うために、娘の下から去る決意を固める。
「珍しき客だな。神に近づいたのだ。何度も呼ばれて来た経験も有る。自力で来ることも可能なのは道理だな」
自分の意志で、目的をもって神の世界に入ってきた俺を最初に発見した氷の邪神・ロッゾが、知人を迎え入れるように歓待する。
「来た理由には察しが付く。善かれと思ってのことだったが、浅慮だった。スノウには悪いことをした。詫びではないが、ここは不慣れだろう。案内しよう」
氷を司る神とは思えぬ風貌、活動的な性格、情に厚き、神・ロッゾ。
反面、非常に冷静で理性的、俺が此処に来た理由にも察しが付いており、話が速くて助かる。
「案内する神の順番は、こちらで決めさせてもらうぞ。話の分かる、時間に都合が有る、重要度の高そうな神から、勝手に案内する」
そう言い、俺の前を先導して歩き始める。
「下界に生命を創る時に、人族の神、魔物の邪神と別れた。そのせいなのか、お互いに拒否反応を起こしやすい。相手への嫌悪感、忌避で感情が仄暗くなる」
歩きながら、退屈しのぎなのか話しかけてくる。
「人族も魔物も。種族が違えば争うこともある。魔物は、それが顕著だ。だから、邪神は”誓い”を作った。子供達が争うのは、親なら見たくないだろう?」
何も答えない俺に、気を悪くすることもなく、気楽に話を続ける。
「加護を与えるのもだ。人族にあって、邪神の加護持ちの境遇は悪くなることが多い。それを失念していた。人と魔物。その垣根を越えて転生したスノウに、軽々しく肩入れすべきでは無かったのだ」
ある扉の前で立ち止まり、俺を先に入れるために、恐れ多くも開けてくださった。
「お前の場合は、最初から人族の神からの加護しか貰ってないので無理だが。俺の娘の為に、人族の神の加護を集めるのを手伝うくらい、お安い御用だ」
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歯車というのだろうか、パイプというのだろうか……。
王都のような大都市、特殊な施設でしか見かけないような機械と呼ばれるパーツが部屋中を埋め尽くす神の部屋。
「来たね。そろそろ来る頃だと思ってたよ」
良家の坊ちゃまのような風貌のメガネをかけた少年の神。
知性と閃き、創造の”雷”の神・キッド。
「あ! オルフじゃん☆ ヤッホー!」
目を疑いそうな光景だが、”雷”の邪神・エルザの全身がバラバラにされて、機械に繋げられていた。
キッド様の座る机に置かれた、鉢植えのような機械に繋げられていたエルザの生首から話しかけられる。
「彼女は、今回の”誓い”の乱用の罰で。僕の発明の実験台。エネルギー源も兼ねての処遇さ」
「そだよ~★ こうして罰も受けてるし、許してちょ!」
今回の訪問で、会えたのなら文句の一つでも言おうと思っていたが、エルザの惨状を見て、言う気が失せてしまった。
「来られた理由、来た理由も分かってる。エリーが直接、触れて加護を与えてしまったからね。それを打ち消す程の加護を与えるには、手渡しが一番なのさ」
キッド様が指先から凄まじい魔力を詰めた球体を生み出し、無造作に放り投げてくる。
その球体が、俺の身体に染みこむように入り込んでくる……。
「気を付けて貰いたいのは、下界に戻ってから目当ての人物以外に触れないこと。水が高いところから低いところに流れるように。少しでも適性があると、その人物に加護が渡ってしまうよ」
「……分かりました。気を付けます」
丁重に、お礼を言った後に、邪魔にならぬよう、すみやかに退室した。
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「キッド様は、エルザを好いているのですね」
「ほう!? 分かるか。あの光景から。罰を与える時に、率先して願い出た。キッドの奴は、生粋のサディストなのだ。エルザは、本当に男運が無いと言うか。不運な奴よ」
エリーと愛称で呼び、すんなりと加護を与えてくれたのは、二人っきりの蜜月を邪魔されたくなかったからだろう。
神が人知を超えた愛情表現をしてくるのは、身をもって知っているのも大きい。
その後、仲間の適格者達の戦力補強に”土”の女神、”水”の男神から加護を貰って、最後の目的地。
俺の信仰する、俺に執着する”氷”の女神・アスラ様のところへ……。
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氷の女神の部屋とは思えぬ、暖炉には暖かな炎が燃え、色とりどりの花が飾り付けられ、さながら高原の小さな家の春先を思わせる部屋。
花の甘い匂いが充満する部屋で、簡素なテーブルの前に腰掛け、優雅に紅茶を飲んで待っていて下さったアスラ様。
「いらっしゃい。私の可愛い可愛いオルフ。まっさきに会いに来てくれなかったのは寂しいけれど、許しましょう。せっかちな男は品が無いですし、好きなものは後で食べるタイプなのも知っています。神界に、自らの意志で来れるくらい神化したことを素直に喜びます。スノウへの加護の件で来たのでしょう。ですが、朝まで時間が有る。お茶を淹れたから、少し話しましょうね」
言われるがまま腰掛け、テーブルに置いてある俺の分の紅茶を飲む。
今回は、特に変わったものは入ってはいないが……
「どうかしら? 貴方の淹れる紅茶を参考にしてみたの。いつもイザベラに淹れる紅茶。私が飲んだことの無い紅茶。貴方を想って淹れてみたの。自由に来れるようになったのだから、時間が出来たら淹れに来て欲しいわ」
「私の淹れる紅茶で宜しければ、時を見て参上しましょう」
言葉の端々に、俺への歪んだ愛情を感じながらもアスラ様を敬愛し、信仰する気持ちは揺らがない。
この方が居なければ、その愛が無ければ、ここで呑気に紅茶を飲んでいる俺は存在しない。
「本当に!? 絶対よ。絶対に絶対よ」
邪神ではなくアスラ様の加護持ちの魔狼だからこそ、俺はオルフを保つのが、スノウより容易だった。
「楽しみだわ。私の可愛い可愛い、愛しい愛しいオルフの淹れてくれる紅茶。同じように淹れてるけど、やっぱり本人が淹れてくれないとね」
ベラ嬢の代わりに魔王軍との前線に立ち続けて、生きていられるのもアスラ様の愛が有ればこそなのだ。
ベラ嬢の平穏の為に、スノウの変化を止める為に、俺の変化は揺らがない!!
「名残惜しいですが、受け取りなさい。スノウに宜しくね」
茶会の最後に立ち上がり、そっと差し伸べた手に宿る加護の球体。
それを跪いて、そっと受け取る。
「感謝いたします。このオルフ。死ぬまで。いえ、例え死んでも、アスラ様への信仰は揺らがないことを約束いたします」
信仰心は全て、アスラ様に……。
それ以外は、失うつもりは無い!!!
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
六章完結まで、平日6時、土日祝日1時に投稿します。




