全てを無かったことに……
この章では”異世界転生の駄目な例”が出てきますが、特定の作者様や作品を批難したり貶したりする意図は無いことを御理解ください。
死にゆく者と、これから死にゆく者の、最期の別れ。
武人の情けとして、心ゆくまで別れを惜しむが良い……。
冥府にて、再びの再会を喜ぶが良い……。
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「ごめんなさい……駄目ね。しっかりしなくちゃって、思う……けど。何処か……抜けてるのが悪い癖」
そんなことはない……それが、ヒルダの可愛げ……完璧ではないけど、真面目なヒルダだから……娘を任せようと思えた。
我が愛する領民の一人が、過失も失態も無いのに謝罪する。
「オルフ。知ってた? 私、風の神様の信徒なの。……自由で……変化を、楽しい事を優先するのが好きなの」
知っていたよ……ヒルダを孤児院から雇い、引き取る時に、聞かせてくれたね。
領土を離れてまで、我が家に仕えてくれたメイドが、死にゆく。
「貴方の無事を祈るのには……氷の女神様が、良いよね。サンタナ様も変化が、お好き。……私、1人くらい……貴方の為に…………
幼い頃から知るヒルダの瞳から、光が、命が、輝きが失われる……。
尊き、愛する、守るべき、我が領民の命が散る……。
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「何故だ!!? 何故、立てる!!!?」
勝利を確信していた我の眼前に、驚愕の光景が広がっている!
立ち上がることも出来ずに、上体を起こすのが精一杯だった男が、死にゆく女の下に這って行くしかなかった男が!!
「別れを待っていて貰ったのに、申し訳ないが……。『守るべき領民を、よくも!!』 俺は、此処では終われない!! 『ヒルダの仇を討たせてもらう!!!』」
幽鬼のように立ち上がり、様々な声色で語られる嘆きの、憤怒の、決意の咆哮!!
黒き髪を白く染め上げ、向けられる冷たき、鋭い視線に、この我が恐怖を覚える!!!?
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「……凄い。流石は、神様だ……」
”鬼火”の乱射による避難所の崩落を、レオナさんの魔法による土壁と”黒獅子”兵団の方々からの身を挺しての防御によって、事なきを得た私。
神に祈るようなロンさんの視線の先を見る……。
「……オルフ」
オルフが哭いている……。
私の愛しいオルフが慟哭しながら、怒りを、嘆きを、悔いを、元凶である四天王”鬼火”のウィルに叩きこんでいる。
「ヒルダは!? ヒルダ!!!」
「熱い」と、うわ言を言っていた私の為に、水を取りに行っていたヒルダが見当たらなかった……。
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魔狼の魂をユニーク・スキル【狼の魂】として転生するオスカー・ヴォルフの魂に詰め込むことで産まれた前世。
では、シルバの魂を【人狼の魂】として、何の魂の転生に忍ばせたのか?
ーーユニーク・スキル【氷の女神の化身】ーー
命を賭けてまで領民の脅威と戦ったオスカー・ヴォルフと、ヒルダさんを幼い頃から知るアレクセイ・ヴォルフが、領民の死に憤怒する!!!
自分が自分で無くなるような感覚に陥りながら、二人の怒りに押されるように身体を、魔力を、スキルを躍動させる!!!
「楽しい!! 出し惜しんでいたとは、人が悪い!! 実に、楽しいぞ!!!」
今まで、俺かカリン嬢が魔法によって冷やすか濡らすかしてから、強力な攻撃をしなくては傷一つ付かなかったウィルの外皮が、魔剣・牙の一撃で傷ついていく。
満身創痍、枯渇した魔力を、俺の中の二人の魂が、変化した神々の恩寵が補い、限界を超えて攻撃する!!
「速い!! ジョイフルには及ばんが、直線的では無い分! 捉え切れぬ!! フハハハハハ!! 愉快、愉快!!」
俺の全力に耐えうるように誂えた剣が、鎧が、限界を超えた能力に悲鳴を上げ始める……。
外皮の一枚を剥がす毎に、剣に亀裂が、縦横無尽に疾駆することで、鎧も同じように亀裂が入り始める……。
「楽しいが、時間を掛けている訳にも、いかん!!」
装備以前に命の前借り、人間性の前借りの状態が長く続くとも思えないので、こちらとしても時間は無駄には出来ない!!
”鬼火”のウィルの見据える先には避難所の跡、瓦礫に埋まり動けぬ、怪我をして動けぬ避難民を、ベラ嬢の居る場所!!!
「その速さなら躱せるだろうな? 貴様だけなら!!」
先程と違って前方にだけ、教会跡に向けてだけ、”鬼火”の射出口を、死を誘う射出口を向ける!!
咄嗟に、庇うように射線上に立ちふさがる!!!
「死へ誘う鬼火!!!」
今、再びの死が巻き散らかされる…………
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其処にあるのは”無”の渦。
無属性の魔力ではなく、正真正銘の”無”の魔力。
”霧”を生み出したように、出した氷と火を、ぶつけ合わせたのではなく、放出する前から混ぜ合わせることで生まれる”無”。
基本的に、相反する属性持ちが居ない理由は、神々の仲が悪いだけではない。
「フハハハハハ!!! どこまでも!! どこまでも楽しませてくれる!!!! 名を! 名を聞こう!!」
ベラ嬢の放った魔法のように消滅させるのではなく、全てを最初から無かったことにする”無”属性。
この魔法に”鬼火”を全て、無かったことにされても、高らかに笑う。
「……オルフ。お前を倒す男の。『守るべきヒルダを殺された男の』……名前だ!!!」
相反する属性を極限まで高めることで生まれる、神々さえも消し去る危険を孕んだ禁忌の”無”。
それを凝縮して、憎き怨敵”鬼火”のウィルに叩きこむ!!!
「始まらぬ終わり!!!!」
ウィルを、襲撃を、全てを無かったことにする願いを込めた一撃が炸裂する……。
稚拙な文章を読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は明日の午前6時に投稿します。




