変わった貴方へ
この章では”異世界転生の駄目な例”が出てきますが、特定の作者様や作品を批難したり貶したりする意図は無いことを御理解ください。
「常に持ち歩いているが、コレを出すのは久し振りだ。使ってやらねば、製作者に申し訳無いのだが。使うに値する強者に出会うのは少ない」
傍らに出現した魔力の渦に腕を刺し入れ、何かを握りしめ取り出す。
渦の中から徐々に全貌を見せるソレは、サラの持つ魔剣・干魃に似ているが、圧倒的に大きさが違う。
三メートルの巨漢に合わせるように作られたソレは、俺の二人分でも足りないくらいの大きさを誇り、威圧感と存在感が段違いだった。
「魔大剣・大干魃。我専用に製作させた物。その余りで内密に作られた物が、サラの持つソレだ。依頼した手前、不問にしていたがな。そのせいで苦しめられるとは、皮肉な話だ」
皮肉だと言ってはいるが、久し振りの窮地、死闘を前に~武神~としての血が騒ぐのか、機嫌が良さそうに見える。
「久し振りの愛剣の晴れ舞台だ!! 簡単に終わってくれるなよ!!!!」
弾かれるように巨体を揺らし、突撃してくる!!
「撃滅する水巨砲!」
「千尋の峡谷!」
自慢の外皮でダメージは無かったが、地面から突出する堅く鋭き無数の尖刃によって、突撃を中止させられたウィル。
そこに空から馬車程の大きさの水球が、凄まじい渦を発生させながら墜ちていく。
「この程度!!!」
水巨砲の直撃を受けても平然と、束縛を解くために大剣を振るい、千尋の峡谷を薙ぎ払う。
「行って!! 水月!!」
四天王”水瓶”のドナテロによって作られた、水の魔力の刀身を持つ短刀、魔剣・水月。
市街地戦で、近距離の戦闘手段が無いカリン嬢に一時的に渡していたソレが、宝杖・ディーヴァで強化された水の魔力に見事に耐え、溢れる魔力に呼応するように伸びる。
大蛇のように、知能が有るように、千尋の峡谷の隙間を縫うようにして、ウィルに突き刺さる。
「チェッストーーー!!!!」
水巨砲を受け、水月を喰らった状態で、サラの攻撃を外皮で受けるのは危険と判断したウィルが、大剣を盾にして防御する。
渾身の攻撃を受け止め切れずに、後ろに吹き飛び、俺達と距離を取る。
「いやはや。あの連携でもダメージが少ないとは。小生も、本格的に老いてきましたかな?」
俺達の目的は、あくまでも足止め。
肉風船の爆発を抑えたら合流する手筈だったクロイツェルとカリン嬢と合流する。
「……ベラは?」
「……イザベラさん……魔法を放った後、虚脱状態になったので……他の方々と教会に……」
あれ程の一撃を放ったのだから、虚脱状態になるのも仕方ない。
”鬼火”を使わせない為にも、ベラ嬢の不在を知らせないために小声で確認をする。
「奇襲、大いに結構!! では、役者が揃った所で、再開しようか?」
俺の鎧と同じような原理で、強靭な外皮で抑え込み、威力を上げる”鬼火”。
全身が鍛冶の釜土、溶鉱炉であるウィルがサラに奪われて尚、燃え滾る”鬼火”の出力を上げ、外皮の熱を上げ、カリン嬢から受けた水魔法の影響を消し飛ばす。
現状、王都でウィルの前に立ち、抵抗が出来る者達が勢揃いしている状況でも高揚感を感じ、闘争心を漲らせる。
ーーーーーー
こんなにも楽しい、楽しい死闘は何時ぶりだろうか?
基本的に罠や小細工は好かんが、この者達のは違う。
楽や面倒を嫌っての小細工ではなく、持ちうる全てを使って打倒を試みる姿勢の罠や小細工まで、無粋とは思わん。
正面から戦ったなら一瞬で決着が付いたかも知れぬ者達が、今や我に武器まで持たせる程の苦戦を強いてくる。
実に、楽しい楽しい。
楽しませてくれた礼に、本気で相手をしようぞ!!!
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周囲を瓦礫に変えながら、ウィルとの攻防を続けていると、空気が変わる。
魔物の本性を持つ俺とサラだけが、野生の嗅覚で察知した殺気に身構える。
「このような決戦に、太陽を生み出した勇者が来ないのは。あれ程の魔法だ。動けぬのだろう?」
「ーーっ!!? 不味い!! 来るぞ!!!!」
強固な外皮の鎧の中、溶鉱炉の中の”鬼火”の出力が上がる!
全身に無数の射出口を開け、本気の一撃が来る!!
「死へ誘う鬼火!!!」
閃光と、轟音と共に、周囲に死が巻き散らかされる…………
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「全員、生きていたのは褒めてやろう。だが、終わりだ」
ベラ嬢が動けぬ現状で、”鬼火”の一斉掃射を防ぎきる術が無く、生きてはいても、俺とクロイツェル、カリン嬢は満身創痍で動けなくなってしまった。
「まだ!! 私が居ますわ!! 終わっては! いません!!!」
ウィルの本体から直接吸収した魔力を手放し、防御の為に”鬼火”の一発を吸収したサラだけが無傷で残された。
悲痛な表情で、俺達を守るために、一人だけで奮起する。
「ふん!!!」
「きゃあああああ!!!??」
サラの【貪欲】は一度に吸収できるのは一つだけ、つまり防御で吸収したなら、本体からの吸収分はウィルに還っていく。
弱体化が解かれたウィル、取るに足らない連発出来る一撃を吸収させられたサラの決着は、火を見るよりも明らかだ。
「サラ。お前の始末は後だ。我は、強き者達に敬意を表す。出来うる限り、最も苦戦させられた者から倒す質だ」
魔剣・干魃を折られ、昏倒するサラ。
(……きっと……ケーキの、苺を……最初に食べるタイプ、なんだろうな……)
”鬼火”の余波で崩れ落ちる瓦礫、落ちて鳴り響く教会の鐘の音を聞きながら、そんなことを思って…………
(教会の鐘!??? なら! ベラ嬢は!!?)
攻防の中で、いつの間にか避難所の近くまで来てしまったようだ。
倒れ伏した身体を起こして、周囲を、ベラ嬢の安否を確認しようと、見まわす……。
「あ、ああ、……ああああああああああ!!!!!!??」
「……オ、……オルフ?」
ベラ嬢ではない。
瓦礫の隙間に見えた変わり果てた姿は、ベラ嬢ではない。
俺の中の何かが覚醒する……。
ーーーーーー
私は変わるのが好き……。
変わる、変わったことで悪くなったことが少ないからだ。
『出来損ないが! 何で、そんなに薄いんだ!? 腕力も嗅覚も人並でしかない出来損ない!!』
糞みたいな両親に捨てられたけど、行った先の孤児院では、今まで以上の生活が出来た。
『良ければ今度、産まれてくる子供の専属になってくれないか? ヒルダは真面目に働いてくれるから、信用出来るからね』
孤児院の経営者であるアレクセイ様にメイドとして雇って貰うばかりか、評価され、ベラお嬢様まで任された。
『この度、兵士見習いとして入りました。シルバと申します。よろしく、お願いします』
好きな人も、出来た……。
「あ、ああ、」
アレクセイ様も好きな人も死に、糞みたいな当主のせいで爵位が落ち、領地も変えられたけど、悪いことばかりじゃなかった。
「……オ、」
私は寒いのが嫌いだったから、今の温暖で静かな領地は好きになれた。
これ以上、悪くならないように、願掛けの意味でも獣人の部分を隠すのを止め、髪を伸ばし変わった。
「オルフ?」
「ああああああああああ!!!!!??」
そうしたら、オルフが来て、また変わった。
糞当主が居なくなり、レミが来て、かつての同僚だったロイさん達が来て、スノウさんとサラちゃん、レオナさん達が来て、……ベラお嬢様も明るくなった。
「あ、ああ、ヒルダ!! 死ぬな!!?」
今だって変わり果てたことで、私だけを見てくれてる。
スノウさんのように強く、阿吽の呼吸で分かりあえる相棒ではない。
レオナさんのように美しく、賢くてサポートが出来る訳ではない。
ベラお嬢様のように気高く、忠義を受ける立場も資格も無い。
そんな私を、私だけを見てくれてる。
だから、変わるのが好き……。
シルバからオルフに変わった貴方が好き……。
稚拙な文章を読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は明日の午後3時に投稿します。




