”遠雷”のジョイフル
この章では”異世界転生の駄目な例”が出てきますが、特定の作者様や作品を批難したり貶したりする意図は無いことを御理解ください。
ーー城壁破壊の直前ーー
「ちょっとは気張れよ~★ ダメダメじゃん。叱られるのを覚悟で、強制的に介入したのにさ~★ オルフを自由にするどころか、アンタまでダメになるし、踏んだり蹴ったり★」
ベッドに横たわり、虚空を見つめ、涎を垂れ流すハチローに、エルザの罵詈雑言への反応は無い。
「駄目、ではないですよ。まだ自由にする機会は有ります。まだ、彼も使えますしね」
「え~~!? おバカになって、無感情で、穴に栓というより、最初から穴なんて無かった事にされたコイツが~?」
聖銀の鎧を着込んだ人物が、エルザの発言を受けて、フル・プレートの鎧兜の中の瞳を鈍く、光らせる。
「降参か戦闘不能。つまり、死ぬまで決闘は終わらない。続ける意思が有る限り、終わらない」
誰が聞いても、それこそ当事者であるオルフとハチローが聞いても、詭弁であり、屁理屈である。
現に、オルフは決闘が終わって尚、晴れない気分の靄を、自身の黒い感情だけが原因だと思っていた。
しかし、語られる言葉には”毒”が、原初の人間ですら惑わした”誘惑”が込められている。
「悔しくは、ありませんか? 怨みは、ありませんか? この世、全てに復讐したくは、ありませんか?」
正常な思考なら、力量の差、現在の状態を鑑みて、決闘以前に戦闘不能だと思うだろう。
「ーーっ!! ォオうぃんアイねーーー!!!!!」
知能を落とされ正常ではなく、今生で無感情にされても前世からの感情に突き動かされたハチロー。
「素晴らしい。ドナテロの邪魔が入ったせいで、欲しかった数と量を揃えられませんでしたが。この薬を、素晴らしき貴方に」
ーーーーーー
「オルフ!? 無事だったのですね! 良かった!!」
城壁の外から感じた尋常ならざる魔力の高まりを感じた瞬間に駆け出し、轟音を背に一心不乱にベラ嬢の下に馳せ参じる。
ベラ嬢の中心に、俺の仲間たちの無事な姿を確認し、息を整え、状況を確認する。
「いやはや。まさか、まさか。我が愛する祖国の誇る、難攻不落の城壁が破られるとは!? 事実は小説より何とやらですな。尋常ならざるモノが相手で、胸が高鳴りますなぁ」
周囲の緊張と恐怖を和らげる為なのだろうか、芝居掛かった様子で語る土の適格者、王都の精鋭部隊”黒獅子”の部隊長・クロイツェル。
彼の下には、事態を察知した部下達が完全装備で駆け付け、降って湧いた国難の収拾の指示を待っている。
「我らが守らればならない民衆は、此処。助けを求めて、城を目指して来る。それは敵も同じだ。民衆には丁重に、近くの教会にエスコートして差し上げろ! 敵には、近くの冥府に御案内だ!!!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」
彼らの作戦行動に合わせて、レオナやロンのような非戦闘員を非難させなくては……。
「サラ。傍観するのは敵対ではないぞ。レオナ達を守ってもらう意味でも、戦場に出なくて良いんだぞ?」
”誓い”により、俺との敵対を禁じられていても、俺を積極的に助けなくて良い上に、魔物としての立場が有るだろうサラに無理強いは出来なかった。
俺の発言を受けて、理解出来ないモノを見る顔で、サラが答える。
「馬鹿にしてますの? 同じ釜の飯を食べた貴方やベラ、スノウを見殺しにしろと? 火山と違って、引っ越しや謝罪で済む事態では無いでしょう。それに、もう遅いですわ」
サラの発言と共に、稲光と雷鳴が木霊する……。
「オイオイ。遅いっての。ちょっと、待ってから来たのにヨ。異世界の勇者は”雷”じゃなかったのかヨ。こんなんじゃ、興醒めジャン」
”遠雷”、言葉通りの、遠くで鳴る雷のことではなく、雷鳴も稲光ですら置き去りにする自身の移動速度に付けられた二つ名。
「ちったぁ、満足させてくれるんだろうナ。でないと、この”遠雷”のジョイフル。刹那で終わらせちまうゾ。早く、速く、呼んで来い!!」
雷鳴がする前から、楽器を片手に、不敵に佇んでいた”遠雷”のジョイフルを前に、緊張が走る!
圧倒的な強者、四天王を眼前にして、皆が動けずに固まっている中で、俺だけが動き始める。
「残念だが、雷の勇者は……。俺が、再起不能にした……。調子に、乗っていたからな……。俺の方が、強いことを証明する為にな……」
ゆっくり、ゆっくりと、ジョイフルの注目を、興味を引きながら、ゆっくりと周囲から離れる。
「ほう……。お前が”雷”より強いノか? 興醒めかと思ったが、良いジャン!」
充分に興味関心を引き、周囲の皆から離れ、後ろには壁しかなく、被害で出ないであろう場所で……。
「”雷”なぞ、俺の前ではゴミだ!!」
「閃光!!」
俺の開始の合図に触発されて、蜃気楼の幻影を切り裂くという、ハチローとの決闘の再現のような展開。
「お? 放電。閃光」
「咲き誇る氷の華」
違うのは、幻影を切り、止まった所を俺が目視した途端に対応策を打ち、動く速さ!
着弾地点を誘導しても、着弾した場所が爆発し、近づけぬ程の威力!
「おおぉ! 良いジャン!! 良いジャン!!! 展開が速いのは好きだゼ!!」
ジョイフルの攻撃を時には躱し、時には逸らし、時には誘導して戦う。
そんな攻防を繰り返していた俺の周囲は、瓦礫の山と化していた……。
「凄いですわ。ジョイフル坊と、これだけ長く戦えるのは少ないですわよ」
「オイオイ。確かに四天王になって、5年と経ってないけどヨ。お前よりも年長だゼ。坊は止めろって言ってんだロ?」
一手、間違うだけで死に直結する綱渡りを続けていた俺に一息をつかせようと、攻防の合間にサラがジョイフルに話しかける。
この隙に、肺に、脳に、新鮮な空気を送り込み、打開策を思考するが……。
「手詰まりだロ? 確かに強いし、柔軟で多彩。だが、俺っちを捉えられない、捕まえられない。人化を解いてもいない俺っちの敵じゃネえな。解いても、速さは変わらないが、威力はダンチだゼ」
速さについては朗報だが、これ以上に威力が上がられると雷の電熱により、蜃気楼の霧の幻影は蒸発し、咲き誇る氷の華は通電させる間もなく溶けてしまうだろう。
絶望的な状況だが、魔剣・牙を握りしめ、突き付け、吼える!!!
「やってみろ!! 雷なんぞに、俺は殺せない!!!」
「良いネ!! 楽しくなってきたジャン!! 安い挑発だが、また乗ってやろう!」
ジョイフルの魔力が高まる!!
「付与・氷属性! 解除! 生前を越えて!!!」
牙に氷属性を付与し地面に突き立て、人狼の魂の膨張を抑え、鋭く強力にする鎧を解除し、スキルを全開にする!
「あっさり死ぬなよ? ”遠雷”!!!」
人化を一瞬、一瞬だけ解いたジョイフルの本気の一撃!
一瞬だけで事足りる言わんばかりに、周囲は稲光に包まれ、遅れてくる雷鳴と共に焼け野原と化した破壊の痕跡だけが残った……。
残るはずだった……。
「ウッソだロ? オイ!?」
強力な電熱で溶け、壊れぬように氷属性を付与した牙を避雷針代わりにし……
「本気だったんだゾ!!?」
鎧を解除し、過剰なスキルの膨張を利用して、焼け崩れていくそばから新しく外皮を出すことで俺を守り、生存する……。
「直撃で生きてるナんて、化け物カ?」
「四天王のくせに。どの口が、オルフを化け物と言うか!!」
全力を出し、予想外の俺の生存に驚愕し、一瞬、ほんの一瞬だけ硬直したジョイフル。
俺が命懸けで作った一瞬の隙に……刹那の隙に……
宝斧・ルギスを携え、激昂したスノウが襲い掛かる!!!
稚拙な文章を読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は明日の正午に投稿します。




