襲撃の直前
この章では”異世界転生の駄目な例”が出てきますが、特定の作者様や作品を批難したり貶したりする意図は無いことを御理解ください。
「エルネスト伯。申し訳ありません。もっと上手く治めるべきでした」
昏倒したが、命に別状は無かったハチロー・ハルトマン第四王子。
序列も低く素行の悪い王子は、王城ではなく城下町の外れ、王都では下級とされる爵位の貴族が住む地域に屋敷を構えている。
極秘裏に、関係者だけで運び込む任務に俺とエルネスト伯、他の数名の兵士達で向かった帰りに謝罪した。
「アレは無理だ。それこそ産まれてからの教育の問題で、オルフに非は無い。むしろ、丸く収まったほうだ。代わりの適格者は見つかり、新たな勇者の誕生。国を挙げての勇者会合が、更に盛り上がる。国にとっては僥倖だ」
国にとっては僥倖でも、実の親の国王、その国王と幼馴染であるエルネスト伯の心労、嘆きを考えると責任を感じざるを得ない。
教育の問題だと、伯は言うが、俺達のような転生者の性格を変えるのは難しいだろう。
俺も頑固に償いと恩返しの為に、この身を削っているのだ。
同じ転生者として、もう少し上手く出来たと思うのは傲慢なのだろうか。
「1人で、少し考えたいので。ぶらついてから帰ります」
そう言い、エルネスト伯達から離れ、夜の闇が降り始める城下町を単身で歩く。
勇者会合を前にして賑わう人々、出店の美味で珍しい物を食べ歩き、各地の大道芸人の芸を見て、気分転換を試みる。
(駄目だ……。舌を、目を、存分に満足させたが、駄目だ。俺の中の俺が消えない。黒い靄が消えない)
ハチローの事は同情し、引き摺っているのは確かだが、それ以上に、湧いて出てきた黒い感情が消えない……。
『こんにちは……。いえ……こんばんは、かな? ちょっと、良いかしら?』
声のする方を向くと、降り始めた夜の闇に溶け込まぬ程の可憐で優雅な少女が、闇に溶け込んでいた。
「良いデザインのアクセサリーね。狼さん。ちょっと、手伝って欲しいことが有るんだけど……」
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「流石は、王都と言うべきか。なかなかに頑強な城壁ではないか」
建設以来、空を飛ぶ魔物、積み荷や群衆に紛れた魔物以外は通したことの無い、王都を囲う頑強な城壁を見て、”鬼火”のウィルが感嘆とともに賞賛する。
「鬼火っち、でもキツイ? 一応、飛べるのと、人が往来する隙に城門から入れるくらい速いのを中心に連れて来てるけど?」
~将軍~の異名に恥じない軍勢を抱える”遠雷”のジョイフルの背後に、主人の命令を待ち構える無数の部下達が、戦いの前に気炎を上げながら待機をしている。
「不要。策や小細工を否定する気は無い。だが、罠だろうが何だろうがな。叩いて、砕いて、焼べて、我が”鬼火”の糧にするのが、我が信条! この程度、藁とは言わんが、木の家でしかない。煉瓦で無ければ、一撃よ」
「助かる~。襲撃前から高く飛んだり、強引に城門から入ってたんじゃ、疲れて、楽しめないジャン? 俺っちは、異世界からの勇者と楽しみに来たんだからヨ。お互いに、万全じゃないとネ。ここまで配慮して、ツマンネ~奴だったら……」
暗に、雷の勇者がジョイフルを満足させる程の人物でなければ、襲撃の最中でも帰還することを匂わす発言をする。
「貴様は、そうだから序列が低いのだ。四天王になって浅いが、序列評価の重要度の高い戦闘力で、我の次なのにな。ドナテロは無理でも、マンダラなんぞは、すぐに追い抜けるぞ」
「嫌だネ。偉くなっちゃうとさ。シガラミ? そういうのが増えるジャンか。楽しくないのは、ノーサンキュー!」
ジョイフルの不真面目な態度を、一番に諫めなくてはいけない立場のウィルが、声には出さずに武骨な鎧の中で愉快に笑う。
こういったことの許されるカリスマ性が、ジョイフルが~将軍~と呼ばれ、多くの部下、配下を得られた理由の一つでもあるのだ。
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「やだ!? ナニコレ! 美味し~い。あっ! アレも美味しそ~~!」
俺に話しかけてきた少女が、出店で興味を惹かれた料理を、一口食べて、俺に渡し、次の料理へ行くのを繰り返す。
「友人を探してるんじゃなかったのか? 俺を太らせて、どうするつもりだ?」
「ダメダメ。女の子の話は、ちゃんと聞かないと。友人の彼氏を見に来たの。大事な友人を任せるんだからね。それに、せっかくのイベントなんだから、楽しまなくっちゃね!」
そう言いつつ、少女の爛々と輝く紫色の、吸い込まれるような瞳が、俺を射貫く……。
「……何を仕掛けてくるかと思っていたが。”魅了”で俺が、どうにかなると思ったのか? ドナテロ? いや、マンダラか。どちらにせよ、甘く見られたものだ」
目の前の吸血鬼の少女は、自身の存在を希薄にするスキルでも使っているのか、実力は分からないが、”魅了”などの小細工をするくらいの実力なのだろう。
「主から聞いていないか? 此処は戦場になる。悪いことは言わないから、避難す
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最後まで言い終わる前に彼は、城壁の外から感じた魔力の高まりを察知して、自分の主の所へ駆け出す。
私は、それをどうすることも出来ずに、茫然と、愕然と、唖然として見送った……。
(私の”朧月”も~支配~も通じなかった。確かに全力では無かったけど。それでも……)
魔王を冠する前からの”朧月”、種族固有の”魅了”が異名を持つまでに昇華した~支配~とは、長い付き合いだ。
吸血鬼であることを隠そうとした”朧月”を見破り、~支配~を受けて平然とされるなど有ってはならないことだ。
(それなのに! それなのに!?? ……こんなの初めてだよ)
最初は、何度も返り討ちにあっても遊びに来る友人が靡いた男への興味、好奇心だけだった。
冷血な、冷たき、深紅な私の血が産まれて初めての経験に、熱く、早鐘のように鼓動し駆け巡る。
(狼さん……。生きていたら、こうした責任を取ってもらおうかしら? 生き延びられたら、ね)
遠くで城壁が、粉微塵になる爆音が轟き、周囲の矮小な人間達が恐慌状態に陥っている。
「姫様。お戯れも程々にの。連れて来たことがマンダラやウィルにバレたなら、ワシが怒られるでな。老体に2人相手は、荷が重すぎるでの」
ドナテロの言葉も、周囲の人間の騒ぎも、私の耳にも心にも入ってこない。
ただ、ただただ、ただ彼の事だけを考える……。
また……会いましょうね……。
私の狼さん……。
稚拙な文章を読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は明日の午前10時に投稿します。




