道化師
この章では”異世界転生の駄目な例”が出てきますが、特定の作者様や作品を批難したり貶したりする意図は無いことを御理解ください。
「エルザ。あの……泥棒猫……。どうしてくれましょう。うふ、うふふ、ウフフフフフフフフ」
「怒るな。怒るな。美しい顔が台無しではないか」
下界を見下ろす場でエルザの横暴に美しい顔を歪めるアスラを、いつの間にか隣に並んだロッゾが諫める。
「あの馬鹿勇者に、総出で加護を与えた邪神が何の用です? 私は機嫌が悪いのです。オルフをイザベラに関われなくするということは、私をオルフが必要としないこと!?? イザベラの為に、何も出来なくなるのですから!!」
「冷静になれ。ちゃんと見ておらんのか? あの馬鹿は氷を使っておらんぞ。ずいぶん前に、エルザが異世界から転生者を呼び込んで、自分好みの男に育てるとかでな。加護を集め廻っておったが、断った。人の身に過ぎた力は、身を滅ぼす。他の者達は面白がって与えていたがな。正解であった。目にかけていた者達の脅威にも成らん位にしか育っておらんしな」
氷の神々らしく、お互いに冷めた目で下界を見下ろす。
「だが、”誓い”の強制は見過ごせんな。アレは破ったら酷いぞ。通常でも酷いのに、神が介入したせいで罰則が強力になってしまった。あの勇者が気の毒に思えてくるくらいにな。帰ったら、エルザを説教だな」
「私の可愛い可愛いオルフが、優しい優しいオルフが、破りやすい”誓い”を課す訳は無いでしょう? それすらも破るなら……。同情の余地など有りません」
オルフの勝利が確定事項として、会話が進む……。
ーーーーーー
場所を兵士達の訓練場に移し、単純に降参か戦闘不能を敗北条件に決めた。
「ハンデだ!! ”雷”の勇者として、倒してやるよ!!!」
宝斧・ルギスを携え、雷しか使わないという”ハンデ”を与えるという余裕を見せることで、自身の器の大きさ、強さをアピールしてくる。
(何が、ハンデだ。先程の魔弾を見るに、各属性の魔力を込められても、同時に魔法には昇華出来ないのは明白だ。ハンデと称して使うのを限定し、限定した属性の最高峰の装備をする……)
「行くぜ!! 閃光!!!」
開始の合図も決める間もなく、自分勝手に始める。
「オルフ!!!??」
雷鳴と共に光の塊と化したハチローが、高速で俺を通り過ぎざまに両断したのを見て、驚きの声を上げるベラ嬢。
「あっさり、死んだか」「蜃気楼」
前もって仕掛けておいた蜃気楼の幻影を切り裂いて、勝った気でいるハチローに魔剣・牙を当てがい、戦闘不能。
「卑怯だぞ!! 前もって準備するなんて!! もう一回だ! やり直しだ! コンティニューだ!!」
「これで止めに……。分かった。同じ条件で良いな」
自分のタイミングで始めた上に、開始前から閃光の予備動作に入っていたハチローが、閉口するようなことを騒ぎ立てる。
勝者の権利で”止める”を課そうと思ったが、頭に血が登った状態で切り出すと即、破る可能性が有ったので続けることにする。
敗北条件を満たし、後は権利の履行を求める段階になると、”誓い”の最中に降りかかる靄のような感覚が消えるのだが、雷の邪神のせいなのか消えないので仕方ない。
「放電! 閃光!!」
蜃気楼対策で、威力は弱いが全方位に雷撃を放ち、本体の位置を確かめての突撃をしてくる。
相手の策の一つを事前に知っているという圧倒的な有利にも関わらず、その一つしか対策しないのは頂けない。
「咲き誇る氷の華」
いくら速いとはいえ、あくまでも直線的な突進の上に雷と化し、速過ぎる為に何処に居るのか正確に把握していないのだろう。
ハチローとの間に生やした氷の杭を通電し、着弾地点をコッチで指定した場所に誘導され、実体化した所に剣を当てがって、戦闘不能。
「ーーっ!!!!? もう一回だ!!!!!」
顔を真っ赤にして、悲痛な叫びを上げながら、続行が決定する……。
数十人は居る観客の中で、スノウとレオナとロンが俺の勝利を確信しているように、ちょっとした茶会を開いているのが見える……。
「装着。顕現」
今までと違って鎧を展開し、あからさまに準備をし出した俺を見て、警戒と焦りと後悔の表情を浮かべだすハチロー。
「行くぜ!! 閃「続けるか?」
開始の合図と同時に、本気を少し出した俺を捉えきれずに、さっきと逆、首元に剣を当てがわれて、戦闘不能。
どうやっても勝てないと、ようやく悟ったのだろうハチローが、唖然とした表情で力なく宝斧・ルギスを地面に落とす音だけが、訓練場に響き渡る。
「アッハッハハハ!!! めでたい! 今年は”5”勇者会合ですかな!! 新しき”氷”の適格者の誕生! 実に、めでたい!!!」
「す、凄い。強い。……カッコイイ」
王宮勤めだから、ハチローの横暴を止める立場だったクロイツェルが、日頃の欝憤が晴れたとばかりに大笑いをしている。
何処かの教会か魔術師の組合に属していただろうカリン嬢が素直な感想で、俺を褒めたたえる。
「3回、勝ったからな。命令を3つする」
俺の宣言に、ビクリと反応するハチロー。
「1つ、オセロの特許税を無税にしろ。戦って分かったが、対応力と発想力が無さすぎる。お前が考えた訳では無いだろ?」
レオナの受け売りだが、そう宣言すると、レオナから熱っぽい視線を投げかけながら微笑まれる。
「2つ、もっと謙虚になれ。王族としても、勇者としても、鍛錬が足りない。謙虚に精進しろ」
この宣言に王を始め、クロイツェルや他の城の者達が、首が千切れんばかりに縦に振っていた。
「3つ、俺が良いと思えるレベルになるまで、宝斧・ルギスを手にするな。せっかく多重属性が使えるんだ。1つに絞らずに使えたほうが良いと思うし、ルギスを持つに値するとは思えん」
これには王宮の面々が難色を示したが、俺の相棒のスノウが適格者と伝えたら、あっさり引き下がった。
元々、世継ぎとしての序列が低い第四王子、代わりが居なかったから収まっていた”雷”の勇者も見つかれば、お払い箱だ。
普段の行いが悪いせいも有り、誰一人として擁護も減刑も求めないのは、多少の同情を感じる。
「…………ふざける……なよ。ふざけんなよ!!!」
この世を全てを呪うような怒声を上げ、宝斧・ルギスを手にする。
「また見捨てるのか!!? 俺が何をした!! 良い家に産まれたんだ! 面白おかしく生きて何が悪い!! それを働けだの、努力しろだの!!!」
王宮の面々を指差して叫んでいるが、何処か、遠くの誰かに訴えかけるようだった。
「オセロだって、俺の物だ! 俺が持ち込んだ知識だ!! 俺の為に使って、稼いで、何が悪い!? ハハッ! アハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
自分の発明では無いと認めたのは良いが、傲慢にも権利を主張し、オセロを手放すつもりは無いようだ……。
残念だ……。『愚か者には似合いの末路よ……』
まだ若く、才能溢れ、俺と同じ転生者が終わるのは……。『道化師としては、面白かったぞ』
『最期に、もう一度、踊るが良い』
ーーーーーー
魔物である某ですら底冷えのするような苦悶の、声にならぬ声を上げながら、糸の切れた人形のように昏倒する適格者・ハチロー。
翁の命により、王都の偵察業務の最中にオルフ殿達の諍いを発見し、隠れて見ていた。
「アレは酷い。酷過ぎる……」
あまりの事に思わず声に出てしまったが、ハチローの急変の騒ぎで、誰にも気づかれなかったようだ。
(糞詰まりと呼ばれた某より酷い。アレでは何も。何も出来ん。昏倒する間際の、あの瞳、表情、あの状態!)
”オセロ”を破り、白黒さえ判別出来ぬように瞳から光が消え、二度とオセロで遊戯さえ出来ぬように知能が落とされていた……。
”謙虚”を破り、傲慢も悦楽も悲哀も感じぬように感情が抜け落ち、それらを想起させぬように四肢の感覚を無くされていた……。
”ルギス”を破り、二度と手に出来ぬように全ての属性の加護が無くなり、魔道具などを使って再現出来ぬように身体強化さえも使えぬ体にされていた……。
出来上がったのは、元は勇者だけに”巨大な魔力を内包出来るだけの肉袋”。
凄惨な光景の末路を見届けたい好奇心は有れど、襲撃の刻限が迫っている。
後ろ髪を引かれる思いだが、一旦、帰還せねば……。
稚拙な文章を読んでいただいて、ありがとうございます。
次回は明日の午前8時に投稿します。




