神の食事~ヨモツヘグイ~
この章のボスの登場です。
ヨモツヘグイを簡単に説明すると、異界の物を食べると異界の住人になってしまうという実際の神話のルールのことです。
「私の可愛い可愛いオルフ! そして、スノウ。成人、おめでとう!!」
いつもの何もない空間ではなく、荘厳な神々しい神殿のような場所にスノウと共に立っている。
目の前には、何十人もの人間が食事出来るような長方形の長テーブルの上に所狭しと、祝いの料理達が客を出迎えるように万全の態勢で並べられていた。
「さあ、座って。座って。二人の成人の御祝いに、私自ら、用意して、調理して、並べたのよ。お口に合えば嬉しいわ! 料理なんて久しぶりだから、ちょっと心配だけどね」
アスラ様の透き通る白絹のような美しい両手に、痛々しいくらいの治療の痕が見受けられる
口に合わなくても、出来うる限り食さねば失礼というものだ。
「……ヨモツヘグイ」
「大丈夫よ。これらは神に捧げられた供物。元は、貴方達の世界の食品を使っているわ。貴方達の成長の為に神の力を込めただけ。でも、最期に出すケーキだけは各自だけで食べてね。私からはオルフ。サンタナからはスノウに。手ずから作ったモノだから」
スノウの心配をアスラ様は予期して、準備を怠ってはいなかった。
二人で食卓に着き、振る舞われた料理に手を付けることにした。
神の空間で、魂だけの状態で食べる、神の力が込められた料理は、その味が美味で有ることが当然ながら、一口ごとに自身の能力が増大していくのを感じる。
魔力が、身体能力が、スキルが増大するのを実感し、最初は怪訝なスノウでさえ、今では黙々と食事を口に運んでいる。
二人して黙って食べているのに、アスラ様は微笑みを浮かべて嬉しそうに黙って眺めているだけだ。
「へえー☆ アンタがオルフ? 良いじゃん。かーなり、高評価だゾ☆」
何処からともなく、奇抜な格好をしたド派手な金髪の女神が乱入してきた。
「エルザ!! 此処は二人の祝いの場! 関係ない貴方が来て良い場所ではありませんよ!!」
「良いじゃん、良いじゃん☆ それにさー、関係ならソッチから作ったんだゾ★ だから、そっちの娘に祝いで、加護を与えに来てあげたんだゾ☆」
アスラ様の叱責も何処吹く風に、親しい友人に話しかけるようにスノウの肩に手を置く、エルザと呼ばれた謎の女神。
「受肉してからの加護は適性が合ってないか、魂か体質が合ってないと無理だし無駄だけどさー」
前世、風属性として産まれたが、種族的には氷属性だったスノウに追加で、氷の男神・ロッゾから氷属性の加護を与えることの出来た理由である。
「まっさかー、混ぜることで雷が使えると思わないじゃん!? 使えるなら、あげなきゃじゃん☆ 感謝するんだゾ☆」
「感謝。感激」
リスのように口いっぱいに料理を詰め込みながら、スノウが答える。
「イッヤーーン☆ かーわーいーいー! お姉さんが力入れて、加護をあげちゃうんだゾ☆」
小動物を愛でるように、スノウに抱きつき頬擦りするエルザ。
途端に、スノウの身体が光って、光が収まると加護が付与され終わったようだ。
「終わったのなら出て行きなさい! 祝いのモノを持ってきたとはいえ、貴方は招いていないのですから!!」
「はーい★ じゃねー。オルフ、また会いましょう。んー……チュッ☆」
帰り際に、俺に投げキッスをして、嵐のように”雷”の女神・エルザは去っていった。
「オルフ。私の可愛い可愛いオルフ。気を付けてね。エルザは自分の男を見る目は無いけど、他者の男を見る目は確か。だから、すぐに横取りをしようとするの。気を付けて」
「私は何処まで行っても、いつまでもアスラ様の信徒ですよ。エルザの信徒には、なりません」
心配そうにするアスラ様を安心させる為に、俺は生涯を終えるまで、アスラ様の信徒で居ることを誓う。
安心したのか、氷の女神らしからぬ、女神らしからぬ、満面の笑みで微笑むアスラ様。
食事の最後に、それぞれの神が作った小さなカップケーキが運ばれてくる。
スノウのカップケーキは、ナッツが練りこまれ、周りに白砂糖の結晶を散りばめた素朴でシンプルなカップケーキだった。
「サンタナの話だと、エルフに馴染み深いナッツを使って、氷属性を現した砂糖で飾り付けて、スノウを表現したみたいよ」
「サンタナ様には転生の便宜を図って貰うばかりか、御祝いまで。感謝。感謝しかない」
先程までの料理とは比べ物にならない程の能力の増大が、一口ごとに起きているのが、他人から見ているだけでも分かる。
俺のカップケーキは、真っ赤な、真っ赤なクリームの上に、ザクロの乗ったカップケーキ。
「氷と火の属性を持つ貴方を表現するために、赤いクリームを。何度も転生して受肉したのを表現するために、ザクロを使ってみたわ。どうかしら、お口に合えば……嬉しいわ……」
痛々しい両手の治療痕を擦りながら、心配そうに、俺が口に入れるまで、一挙手一投足も見逃さんばかりに凝視してくるアスラ様。
「……非常に、美味しいです。アスラ様、ありがとうございます」
俺が口に入れるごとに、アスラ様の笑みが大きく、深くなっていく。
一方、俺も口にする度に能力が大きく、深く、馴染んでいくのを感じながら、ある確信と覚悟をする。
成人の祝いの神の食事が終わる……。
ーーーーーー
(嘘は、何1つも言ってないわ……)
呼んだ時に並んでいた料理には、下界の食品だけを使ったのは確かだ。
(後から持ってくるケーキには言及してない……。それに食品は確かに、下界の物だけを使ったわ……)
愛おしそうに両手の治療痕を触るアスラの思考、言動に一切の嘘は無い。
確かに、カップケーキに使った材料の一般的に食用とされる食品は下界の物だけだ。
(食品は、ね……。うふ、ウフフ。ウフフフフフフフフ……)
愛おしく、優しく触ってはいるが、触り過ぎたせいで両手の治療痕から血が滲む。
(頑張ってね。愛しい愛しい。可愛い可愛いオルフ。私の。私だけの貴方。頑張って、此処まで来てね……)
血が滲んでも尚、その治療痕を触りながら、アスラはオルフを激励する。
ーーーーーー
ドナテロの一件以降、嘘だけでなく真実に隠れた嘘も注意するようになった。
今思えば、最初に感じた違和感は、自分の中で魔物の部分が強くなっているのを感じていたので、駄目元でサラと”破りがたき誓い”をした時だ。
生前で使ったことは無かったが、使った時に感じた妙な違和感。
(両手で持っているはずなのに、片手の感覚が無いような奇妙な違和感を感じた)
最初は、人間が混じっているからだと思っていたが、それとなくサラに探りを入れた時に分かった。
『ある程度の魔物としての教養は、ドナ爺に人化を習っている時に教えてもらいましたわ。”誓い”は邪神が魔物達が結束するために作った呪いだから、魔物か邪神の加護を持つ者同士だけが使える呪い。オルフの氷は邪神由来なんですのね。だから、”誓い”の時に物足りないと言うか、忘れているような感覚だったのでしょう』
前世や俺のユニークに詳しく教えずに、俺と生活して、俺を純粋な人間だと思っているサラの発言を受けて考える。
サラの発言が本当なら、人間が混じっているから違和感を感じたのではなく、片方しか一致しなかったから感じた違和感。
つまり、生前と今生で俺に加護を与えていたのは人族の神々だけだったのだ。
(何故、ここまでアスラ様が肩入れしてくださっているのかは疑問だった。しかし、思考が魔物に偏り始め、邪悪になっていって気づいた)
アスラ様は、俺を神界に取り込み、添い遂げる気だ。
それは、神を取り込まようとしてきたことで確信する
(俺は強くなる。何が何でも。それが邪悪だろうと何だろうと。神になろうともだ! だが……)
俺は、何処まで行っても、いつまでもアスラ様の信徒で在っても、アスラ様の夫になる気は無い。
アスラ様に感謝はしていても、俺の人生を狂わせた神々と添い遂げる気など無いのだ……。
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
ボス戦は引き分けでしたね。
明日の午前1時にエピローグを投稿します。




