読み違え
伏線回収回
ちょっとした予想の答え合わせです
「あれは河豚だな。河豚の魔物だな」
近づき、源泉に浸かっている魔物の姿を視認出来るようになって、ようやく敵の正体が判明する。
通常の人の頭サイズの大きさではなく、馬車程の巨大な河豚が源泉に浸かっていた。
ーー種族スキル・濾過・ーー
体内、体外問わず、自身に触れている不純物を蓄積する。
ーーーーーー
プッファーと呼ばれる、毒も薬も効かない厄介な河豚の魔物。
通常の河川に出現した場合、わずかな毒素や薬効を蓄積し続けて、とんでもない劇物になる事が有るので、速やかに退治する必要が出る魔物。
通常と比べて、尋常ではない大きさの魔物に蓄積された劇物の量を想像するだけでも怖いことになる。
「オルフ。たぶん、大丈夫。でも駄目。自分だけで危険を冒すことは無い」
前世からの付き合いで、モータルとの戦いを見ていたであろうスノウが、俺の考えを読んで警告してくる。
「……分かった。それが出来れば安全だが、これ以上の栄養を与える訳にも、いかない。まず、周りの護衛から片付けてくれ」
俺の指示に従い、プッファーの周りの護衛を排除するために行動する。
「一番槍は、某が頂くぞ!!」
人化を解き、虫の魔物の一種、バッタの亜人のような姿になったキリバが短刀を両手に持ち、走り出す姿勢を取る。
二つ名を与えられる程の強力な魔力が、キリバの全身を駆け巡り、爆発の時を待つ……。
「猛進!!」
言うや否や、進路上の人蛇数体の頭が胴体から離れ、遠方まで移動したキリバが砂埃と共に停止していた。
”センコウ”のキリバに恥じない、素晴らしい動きだと感嘆する。
(直線的だが、全力の俺よりも数段速い。ドナテロが任せた理由が、よく分かる。敵対する前に見れて、良かったと思うことにしよう)
「氷雪の加護」
副属性になって間もないスノウは、同時に他の属性を使うことが出来ない。
自身に氷の補助魔法を掛け、刀身が風の魔力で出来た魔剣・風月を使うことで、副属性を同時に使った場合の効果を確かめたいようだ。
「はっやーい。オルフより、速ーい」
雲の中の氷の粒が、ぶつかり合うことで雷が発生するように、氷と風を合わせることで雷属性を生み出し、雷鳴と共に自分でも制御できない程の速度で移動するスノウ。
進路上のナーガを倒していくが、狙ったであろう相手に曲がり切れずに近づけないので、討ち漏らしが多い。
「すっごい丈夫ですわよ!! 100人、乗っても……大! 丈!! 夫!!!」
奇妙な掛け声と共にスノウの討ち漏らしを、剣術のケの字も知らないような粗雑な魔剣・干魃の耐久頼みの攻撃で、切り倒し、なぎ倒し、吹き飛ばしていく。
三者三葉の攻勢を受け、十数体の護衛のナーガ達は瞬く間に片付いていく。
「んもー? なーにー? うーるさーいぞー」
護衛のナーガが全滅して、ようやくプッファーの魔物が、こちらに気づいたようだ。
「んー! ぺっ!!」
今まで蓄積してきた温泉の薬効を口から撃ち出してきたが、見た目に比例した緩慢な攻撃に、俺を含めた仲間達の誰一人として当たる可能性は無いに等しい。
着弾した地面が、強力な酸性の液体を掛けられたように煙を上げて、溶けだしている。
薬も過ぎれば毒となるを体現しているようだった。
「此処は”水瓶”のドナテロの翁様の管轄だ。誰に断って、此処で何をしている!? 返答次第では容赦せんぞ!!」
短刀を向け、今にも斬りかからんばかりの怒気を込めて、キリバが詰問する。
「温泉にー入るのにー。誰かの許可がー要るのー? 心がーせーまいー」
此処では殺されないと確信しているので、元からなのかもしれないが、他人を馬鹿にした態度で応える。
生息域から遠く離れ、自分だけでは此処に来れない上に、プッファーより格上である魔物達の護衛まで居た。
誰かの差し金なのは明白だ。
「此処では始末が出来ない。一旦、生け捕りにして、陸に上げるぞ」
……俺は、的確な指示を仲間に出す。
「生け捕りだと!? 翁を愚弄した奴。生かしておく必要性を感じん!!!」
怒号と共に突撃の構えを取り、必殺の魔力がキリバの全身を駆け巡り始めた!
考えれば気づけたかもしれないが、考えが及ばなかった。
サラが『姉弟子』と言った時に弟子入りをした時期を確認しなかった事。
糞詰まりと揶揄される、魔力を外に出せない体質ではあるが、これ程の恩義をドナテロに感じていると云うことは、揶揄された期間が人生の大半だった可能性。
ドナテロは、どの四天王の仕業か気づいているだろうが、それを知らせなかったとはいえ、自分の配下が冒険者に紛れて排除したことが露呈した時の回避方法。
サラが”破りがたき誓い”を良く知らないくらい幼かったのと同じように、キリバは”プッファー”という魔物を良く知らないくらい、サラよりも幼かったのだ!!
ドナテロの師事の時期が若く、キリバが一番、新しい弟子であること。
これ程の実力者の糞詰まりと言われ続けた期間が、人生の大半というのは考え難く、それならば産まれてから今までの期間が短いと考えられる。
排除したのが自分の配下だと露呈しても、血気盛んな若い忠義者の先走り、早合点とでも言って誤魔化すつもりだったのだろう。
「馬鹿!!? 止めろ!! 咲き誇る氷の華! 守護の氷の盾!!」
キリバの進行上に、ありったけの氷の障害物を出し、攻撃を中止させようとした。
「何故、止めるのか分からんが。無駄なこと! 爆進!!!」
……全てが、スローモーションに見える。
この時、俺は読み違えを三つしていた。
キリバの”センコウ”は、”閃光”では無く”潜行”だったという事。
ユニーク由来の二つ名なのだろう、俺の出した障害物に当たっているのにも関わらず、何もないように通り過ぎていく。
自分が此処では殺されないと思っていたプッファーが、信じられないと云った表情で喉元を切り裂かれる。
キリバが”プッファー”を良く知らない若者だった事。
非常に弱く、放っておけば河川の汚れを蓄積し、キレイにするプッファーを速やかに排除する理由は、溜め込んで劇物になったプッファーは死ぬと当然ながら河川を汚染する。
通常の河川でさえ、ひと月だけで食べれば百人程は殺せる毒素を持ち、年単位で放置すれば河川で死ぬだけで何年も死の川になってしまうからだ。
薬も過ぎれば毒となる。
様々な薬効の有るボイサーの温泉の源泉に、期間は分からないが浸かっていた通常よりも大きいプッファーを殺すなど考えられない。
麓までで、だいぶ薄まるだろうが、人族に耐えられる薬効成分の温泉では無くなってしまう。
『何が何でも人を支配したり滅ぼそうとは思わん』
ドナテロの真意を読み切れなかった事。
積極的に殺そうとは思わないが、結果として死んでしまうのに何の抵抗も嫌悪感も、罪悪感すらない。
自分の家でハエやゴキブリを見たら殺す者は多いだろうが、他人の家に入ってまで探し出し、殺そうと思わない程度の感覚。
四天王としての立場の情報収集能力、薄くなっている温泉の薬効、原因が巨大プッファーなのは分かっていたのだろう。
『ワシは温泉が好きじゃ』
人族には耐えられない薬効の温泉になるだろうが、ドナテロのような上位、高位の魔物なら耐えられるだろう。
むしろ、ドナテロにとっては温泉の質が上がるので願ったり叶ったりなのだろう……。
崩れ落ちる巨大プッファー……。
夕暮れに差し掛かり、ボイサーでは多くの入浴客が居るだろう……。
そこには、孤児院の皆が、ベラ嬢達が……。
俺が読み違えたように、ドナテロも二つ読み違えている!
俺には、この状況を打開する手段が有るという事!
決断が迫られるが、覚悟なら出来ている!!
ベラ嬢のためなら、命など惜しくない!!!
稚拙な文章を読んで頂いて、ありがとうございます。
解決方法は、一章から読めるくらいの読解力が有る人なら分かるように書いてるつもりです。
分からなければ、まだまだ私の文章力が足りないと云うことです。
次回は明日の午前6時に投稿します。




