誓いよりも夕飯
「その後、私を後見人にすることでオルフは、冒険者になった。12の頃まで、此所で活動して……貴女の所へ。そこからは分かるでしょ?」
嫉妬、なのだろうか、羨望、なのだろうか、リョカさんが私を見つめる。
「献身的ですわー! 感動ですわーー!!」
「兄貴は昔っから、カッケーぜ!」
「やっぱり凄い人だ! オルフ様は!!」
周りの皆は、オルフの献身的な行動に感動しているようだ。
「抱え込む癖、変わってない。優しい所、変わってない。変わってない」
「流石。気高い。寡黙。克己。そこが好き」
リョカさんも知らない過去を知るレオナさんとスノウさんが、なにやら納得している。
私と出会う前から、それこそ産まれてから今まで、ストイックに強くなろうとするオルフ。
私は、彼に尽くされる資格が有るのだろうか、尽くされたままで良いのだろうか。
何故、こんなにも献身的に仕えてくれているのかも分からないのに、知らないのに。
「貴女の所へ行った後のオルフを教えてくれますか? あの子、手紙に詳しく書いて教えてくれないから」
きっと、育ての母であるリョカさんに、日々の暮らしぶりを書くのが照れ臭かったのだろう。
オルフの昔話が始まると、古い知り合いに挨拶に行くと言って、逃げるように出ていってしまうくらいだから。
ーーーーーー
自分の昔話をされるという辱しめから逃げるように、古巣である冒険者ギルドに顔を出す。
(母親に褒められるにしろ、今の生活ぶりを話すにしろ。恥ずかしくって仕方ないからな)
此処で冒険者登録の頃から、お世話になっていた馬の獣人・リロイさんの受付の前に立つ。
「ようこそ。ボイサーの冒険者ギルドへ。本日は何の……。オルフ? お前、オルフか!?」
「お久しぶりです。15歳前に仲間と里帰りに来たんですけど、俺の昔話を始めるもんだから、逃げてきちゃいました」
三年近くボイサーを離れて、成長した俺を一目では気づかなかったリロイさんの大声がギルドに響き渡る。
「オルフだと!? 帰ってきたのか!」「例の貴族様に追い返されたのか」「前に居た凄腕の黒鉄の冒険者の」
声を聞きつけ、古い知り合いや離れてから冒険者になった新人、他の受付の方々やギルド併設の酒場の店員達が集まってくる。
懐かしい、そして新しい面々の顔を見ていると、帰ってきたのだと実感が湧いてくる。
「お前が居なくなったせいで、領主様から質問攻めにされるわ、依頼の消化率は悪くなるわで、大変だったんだぞ」
「そーだぞ。俺なんて、オルフ専属担当みたいだったから、何度も領主様に呼び出されて大変だったんだからな」
ベラ嬢の下へ向かったことで発生した問題のことを冗談交じりで、ギルドマスターとリロイさんから愚痴られてしまう。
「それについては申し訳ない。お詫びと言っては、なんですが。今日の酒場の支払いは、俺が持ちます」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!!??」」」」
陽気なボイサーっ子であるギルドの皆の歓声が飛び交い、ちょっとした祭りの宴会のような騒ぎになる。
「見つけましたわ。さあ、帰りましょう」
しばらく、古い知り合い達と交流を深めていると、騒ぎに乗じて近づいてきたサラに腕をガッチリと掴まれてしまった。
「そろそろ帰って頂かないと、夕飯になりませんわ。リョカさんも帰ってくるなり、居なくなったオルフを心配して、夕飯になりませんわ。この後、孤児院の皆さんと温泉に入ってから夕飯なのに、夕飯になりませんわ」
「夕飯なら見ての通り、俺は此処で済ますから、気にしなくても良いんだが…「夕飯に、なりませんわ」
常人なら骨が折れそうなくらいの力を込めて、腕を掴んでくるサラ。
単純な腕力なら人化状態のサラでも俺より強いので、掴まれてしまっては無事に振りほどけない。
「分かったから、それ以上の力を込めるのを止めろ。分かったから」
「一緒に帰ってきた仲間ってのは別嬪さんだなー。羨ましいぞーー」「尻に敷かれてるなー」
宴会の代金を払い、周りからの茶化した声を聞きながら、サラに引きずられるように孤児院へ向かう。
俺とサラとの間で交わされた呪い”破りがたき誓い”で、決めた取り決めは単純に”見逃す代わりに、俺に敵対しない”だけにしておいた。
単純な取り決めの方が、色々と行動を制限出来るからである。
誤算だったのは、サラが六歳程の年齢で呪いについて詳しく知らなかったことと俺が人間であったこと。
どうやら、本当なら魔物にしか使えない呪いを人間が混じっている俺が使ったせいで、本来の効果と少し違うらしい。
”破りがたき誓い”は別名”壊れやすき誓い”と呼ばれ、他種族間の感性や考え方の違い、些細な事で誓いが破られたと相手が感じただけでも瓦解する。
だから、呪いのことを知っているなら神経質になる程、慎重に行動するのだが、サラは気にしない。
取り決めの際に敵対の範囲を細かく決めないし、痛みが出る程の力で掴んでも来る。
本人にも言っていないし、気づいてもいないが、どうやら決定的な行動を取らない限りは大丈夫なようだ。
「オルフ!! 妻を何人も持つなんて!?? 私は貴方を、そんな息子に育てた覚えは有りませんよ!!!」
孤児院に着くなり、俺の親代わりのシスター・リョカから怒られてしまった。
シスター・リョカの後ろで、ベラ嬢が『もっと言ってやって下さい!!』といった顔をしている。
居なかったせいで、かなり湾曲して今の日常を語られてしまったようだ……。
「……。今、イザベラ様の領地を含めた地域の管轄の伯爵様から、爵位を与えられる話が出ています。もしかしたら、貴族になるかもしれないんです。俺」
「まあ!? まあまあ!!!? 貴族になるの!? なら……ヨシ!!」
スノウと同様、一夫多妻に寛容なエルフのシスター・リョカは、多妻が普通の貴族になると聞いて快諾してくれた。
俺の出世を素直に喜んでくれる親代わりのシスター・リョカは上機嫌だ。
「ええええ!?? なんでぇぇえ!!!!??」
当てが外れたベラ嬢の悲痛な叫びが、夕焼けに染まる空に吸い込まれていく……。
稚拙な文章を読んで頂いてありがとうございます
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次回は、明日の午前10時に投稿します。




